第30話 vs姫サークル

 フィールドインで毒散布入れながら、脳内ビート刻みながら、私もついにこの時がきたってドキドキしてた。


 姫サークルは全員、得意な職業に戻してる。

 剣士が鼓舞して向かってきたのを、リーダーが最初に盾で受けた。


 殺意高く飛び込んできた大斧のダメージは、すぐに回復。

 こっちも大斧とショットガン入れて、逆にダウン取れた。

 盗賊のマゼンタさんが暗殺スキルで背後からクリティカル入れれば、弓使いも倒せた。


「エレメンタルグレイス!」


 すぐにピエナちゃんの全体回復が入ったけど、こっちだって毒散布とアイテム回復入れて状態は戻してる。

 開始時点と同じか、それ以上に勢い増したメンツがついに押し込み始めてくれた。


「こういう負けられない時はなぁ。

 精神論って言われようがなんだろうが、勝ちたい気持ちで勝つんだよ!」


 リーダーが相手の剣士をバッシュでうまく弾いて、ダウンとった。

 おふざけ目立って忘れられがちだけど、リーダーだってランカーだ、技術は生半可なものじゃない。


 エモート出たウエイさんにSPポーション、また毒散布。

 三人ダウンしたくらいでエレメンタルグレイス入るから、こっちも店売りポーションで全体回復掛けた。

 蘇生回復入れなくてもうまく回せてる、三つ目のEG入ったって目にしてたら、ピエナちゃんが叫んでた。


「バックパッカーごときがヒーラー役とかちゃんちゃらおかしいんですよっ、みんなつぶしちゃって!」


 唯一の回復だからヘイト高い時は後ろに潜って、合間にアイテム投げて全体回復、また毒散布。

 心臓の音すらビート刻んでる気がするくらい、スキルタイミングも染み込んでる。


「タツキさんと付き合ってるってピエナに言ったくせに、嘘だったとか最っ低っ!

 上級者サークルとか自慢してるくせに散々な成績になって、初心者に負ける屈辱味わえばいいんだ!」


 そうだね。

 本当は、悪女演じた私とピエナちゃんの因縁なんだ。

 タツキを取り合ったから、サークルメンツまで巻き込んだ。


 けどみんな、面白がって許してくれた。

 一緒に倒そうって声かけて、毎日だって練習してきてくれた。

 何があったって大丈夫だって笑って、ここまで私を連れてきてくれた。


 だから。

 大切な仲間にカッコ悪いところ見せられるかって、毒散布入れるついでに手招きエモートを意地でも出した。

 近くなったピエナちゃん相手に、声を張り上げた。


「私はタツキとEGたくさんもらってる、純愛の数だけ被ってるから。

 まだまだ在庫余裕なんで早く使わせてよね、どれだけ愛されてたか見せてあげる!」


 はい毒散布。

 こっちだって回復アイテム苦しいけど、サークルメンツの一人として立ってるんだって啖呵切ってやった。

 リーダーが耐えきれずに笑ってて、盾で受け流しになってた。

 みんな口元ニヤついてるけど、きっとサークルチャット盛り上がってるけど、それこそ私がここにいる意味だってまた悪女見せてやった。


「彼氏多いピエナちゃんの底力まだー?

 それともEGたくさんあるとか口だけで、在庫枯渇してきた?

 言っておくけどタツキも装備してるから。見せられるくらいまで粘ってよね!」


 煽り文句にピエナちゃんがブチギレモード始まってて、HP減ってるからってEG雑に使ってくれた。

 こっちは回復アイテムも豊富に持ってきてるけど、店売りポーション無くなってきてる。

 味方のダウンが始まって、単体蘇生アイテム投げてるけどさすがにそろそろEGに切り替えるしかないってチームチャットに流した。


 けど。


 ……EGが私以外から入った。

 回復タイミングバッチリで、戦力そのまま目の前のダウン取ったリーダーが、姫に向かって走り始めた。


「今だ、全員押し込むぞ!」


 タツキじゃない。

 リーダーに続いて駆け出してるヒーラーちゃんが、クリスマスは『リア充爆発』って言いながら企画で大暴れしてたヒーラーちゃんから、小瓶が溶けた気がした。


 EGを取得するにはSTPの消費が必須。

 しかも譲渡不可のはず。


 毒散布入れながら必死に走って着いて行ってたら、斧構えて走ってるヒーラーちゃんが楽しそうに笑った。


「純愛の数だけEG被ってるかー……うーん、いいね、ミツハちゃん。さすが私の推しカップル。カミングアウトする自信出てきちゃったー」


 ピエナちゃんもEG使って、ミラが『全員集合』入れて盾構えてるけど。

 大斧のヒーラーちゃんが飛び込んで、武器ぶん回しながら笑った。


「実はゲーム内に彼氏出来ました」


 今までの彼氏さん、ゲームしない人たちばかりだったって言ってたっけ。


「EG在庫十八個ありまーす」


 何その鬼みたいな数。

 ついに七対七が始まったけど、まごついてるピエナちゃんには、真っ先に盗賊のマゼンタさんが暗殺仕掛けてダウンとってた。


「オオジヤ、エレメンタルグレイス!」


「俺!? ミラが使えよ、これがラス一なんだよ!」


 すぐに相手のEGが入るけど、ごたついたから二個使われる奇跡が起きた。

 前線維持のために攻撃職は多く持てないから、きっとミラ以外は一個ずつ持ち込みだって予想もされてた。


「オオジヤ以外を集中攻撃! オオジヤくん、喋ってくれてありがとーう!」


「ああもう使えない使えない使えない、ほんっと使えないっ」


 ピエナサークルに亀裂走ってる。

 私たちは連携して、まだアイテム使ってない相手から優先してダウン取っていった。

 またEG入っても必死に毒散布してたら、ピエナちゃんとミラが何故か後方へ走り出した。


「時間稼ぎさせるわけないだろ、行け、短気なドラゴンライダー!」


「ピエナ、分かれて走れ……っ」


 魔法使いは特攻持ってるから、短気なドラゴンライダーさんが剣士のミラを追いかけてドラゴンブレスを命中させた。

 私たちもピエナちゃんを追いかけないと、って思ったけど。

 タツキが高台から銃構えてて、ピエナちゃんにスキル使って高ダメージ叩き出しながら撃ち抜いた。


 硬直長いスキルだからタツキ全然動かないけど、ピエナちゃんがあっさりダウンして、勝利画面が目の前に広がる。


「お疲れー。じゃ、すぐに次行くか。

 お、今なら『赤騎士同盟』が近い。フルメン楽しみにいこうぜ」


「ちょっとっ、毎回放置とかありえないんですけど!?」


「前は彼女募集してたけど、今はもう彼女持ちになっちゃってさー。

 だからピエナ姫ごめん、リアルでもゲームでもアイドル級に可愛い彼女しか見えないから置いてくな、イエーイ」


 リーダー、実は大学生って聞いてた。

 軽いノリのダブルピースでカミングアウトされたけど、一番大騒ぎになったのは休憩中だけ見られるサークルチャットだった。


『ちょっちょま、リーダーに彼女出来てるってマジな話!?』


『え、今ヒーラーちゃんも彼氏出来たって話してなかった?』


『うんうん。カレピッピに振られて泣いてるのを慰めてくれた、素敵な彼氏ができましたー』


『右半分桜で埋まってたから大斧引退せざるを得なかった、大人の彼女が出来ましたー』


 もううちのサークルピエナちゃんとかどうでも良くなって、大騒ぎでリーダーとヒーラーちゃんの馴れ初め聴き始めた。

 私も目の前にいるヒーラーちゃんにハグしたくて飛び込んだら、ヒーラーちゃんも両手を広げて受け止めてくれた。


「えっ、いつ? ヒーラーちゃん、いつからですか!?

 『リアル可愛い』ってことは、リーダーとオフ申請して会ってるってことですよね!?」


「えへへ、練習終わった後にね。『彼氏いるのわかってたけど、ずっと好きだった』ってリーダー言ってくれて。

 私も年齢が結構上って分かってたからどうかなーって思ってたんだけど、会ってもいい感じだったんだ。

 もー今はオフもゲームもリーダーがしゅきぴになっちゃったよー。でもリア充爆発って推進してたの私だから、みんなに言えないの苦しかったー」


 そっか、斧持つ持たないって悩んでる時だ。

 リーダーとよく話してたから、転職出来ない理由を素直に話した辺りで告白されたのかもしれないってピーンと来た。

 普段は『彼女欲しい』とか叫ぶくせに、実は年上のお姉さんに高校卒業してからずっと片想いしてたらしい。リーダー意外に一途って話が弾んじゃう。


「おーい。惚気てもらってもいいけどヒーラーちゃん、ミツハ、そろそろぶつかるぞー。

 転職とアイテム補給終わったかー」


「「待ってまだ恋バナ忙しすぎて終わってない!」です!」


 すぐに転職と補給終わらせて、律儀に待ってくれてた赤騎士同盟とのバトルにも突入したんだけど、全力出してもさすがに上級者サークルだけあってギリギリ負けちゃった。

 戻ってピエナちゃんとバトルスタートしたけど、あっちはEG切れてきたらしくて不和が広がり続けてる。


「言っておくけどEGはシナリオでもダンジョンでも使える貴重品だからな!?」


「だからって隠し持ってるの狡くない? ノリヤくん三つあるって言ってたよね!」


「他の子ともらったやつなのに、なんでこんなお遊びのために使う必要があるんだよ……!

 STP使って被った分だけしか取得出来ないの。分かるだろ? ピエナが他メンとヤッたのと数が違う。

 俺じゃなくて他の奴らに使わせろよ!」


「おーおー、EGの切れ目が縁の切れ目みたいな話になってるな。

 ……よし、ここは純愛メンツしかいない俺たちが引導渡してやろうぜ!」


 姫サークルはリーダーのピエナちゃんが意地でぶつかるから、私たちと戦うしかない。

 勝ち目なくなったって分かってるから、ダウンとられるたびやる気なくなってくカレピッピたちと、それでも立ち向かってくるブチギレピエナちゃんからポイント稼がせてもらった。


 間に他のサークルとも当たりに行くけど、大会で本気モードの上級者サークルだと構成も立ち回りも何もかもがすごくて、弓で長距離スナイプされながら『逃げる間もない』って思うレベルだった。

 遠くで弓使いがサムズアップ出したのが見える。『俺すごいだろ』って意味に私も拍手エモート返したけど、こういったやり取りもサークル対抗戦の醍醐味の一つだって感じてた。悔しいけど清々しいってやつだ。


 終わってみたら成績も良好だった。

 上位四チームまでの本戦には届かなかったけど、うちのサークルは予選六位で大健闘って、拠点に全員移動かかって祝福の紙吹雪が降り注ぐのを見てた。


「おかえりー! みんなお疲れ様!」


「赤騎士同盟が予選一位だってさ。追ってたけどマジ強かった。周りのサークルほとんどぶっちぎって進んでったぜ」


「『レムナントガルド』とか、思い出作りにって初心者サークル並んでたんだとさ。

 そりゃポイント勝てないって」


「あー運営の動画楽しみだなー。

 リーダーが綺麗にダウン取ったところとか痺れたな。それにさー……」


 そっか、もう大会、終わっちゃったんだ。

 たったの一時間しかなかったんだって、終わってからようやく実感してた。

 毒散布にアイテム回復。

 相手からの攻撃避けてヘイト外して、駆け回るリーダーたちと付かず離れず移動。

 夢中になって走り回った試合の成績表が目の前に広がってるけど、何もかも戦い抜いたから文字がスクロールしてくんだって、少しずつ目の前の光景が沁みてくる。

 毒ダメージの累積がすごいことになってるのは、きっとリアルでもゲームでもビート刻み続けたおかげだって……これだけ頑張ったんだぞ、って自分を褒めてあげられる気がして夢中で眺めてた。


「みんな、お疲れ様。

 一緒に戦ってくれてありがとうな!」


 リーダーの言葉にみんなでお疲れ様の拍手したり、挨拶して仲間内でハイタッチしたりした。

 終わった余韻に浸りながら、補欠に回ってくれたドドさんにも改めてお礼伝えて「ピエナに啖呵切ってるの面白かった、タツキとお幸せに」なんて祝福してもらったら、マゼンタさんたちと別れたタツキが頭ポンポンしてきた。


「お疲れー。終わったのが残念なくらい、最高に楽しかったな」


「うん、面白かった! 補欠がレギュラーなんて、最初はあんなに無理って思ってたはずなのに……楽しすぎてまだドキドキしてる」


 きっとピエナちゃんが現れなかったら、私はただタツキの試合を見るだけで終わってた。

 補欠に入れただけで十分だって思ってた。

 こんなに一生懸命、練習するなんて思ってなかったし……毒散布なんて日の目を浴びないスキルが生きるとも思ってなかった。


「作戦も最高にハマってたし、タツキもめちゃくちゃカッコよかったよ。

 最前線で戦ってるの、ずっと見えてた。

 スナイパーで的確にダウン取ってるの痺れたなー……職人芸、さすがだね!」


「俺からも毒がずっと入ってるの見えてた。

 おかげで遠慮なく打てた場面多いから感謝してる。ナイスサポート、ミツハ」


 お互いにハイタッチして、照れくさいから笑い合った。

 サークルメンツに「いちゃついてる」って言われたけど、タツキが「EG被らせてる仲なんで」とか言い出すから慌てちゃった。


「さー次は正月だな、門松の方が似合うか?」


 リーダーが今まさに正月装備に着替えてて、みんなで笑っちゃった。『賀正』背負ってるけど気が早すぎるって。

 でも個人チャットが来たから目を向けたら、タツキが照れくさそうに自分の首を触ってた。


『サークル対抗戦も無事に終わったんで、正月は一緒に初詣でも行かない?

 ご両親にも年始の挨拶したいし、迎えに行くよ』


『えっ、すごい。タツキもリーダーも気が早くない? もうお正月の話してる』


『だって数日後ですよ、ミツハさん』


 そう、今は『年末』のサークル対抗戦。

 新しい年はすぐにやってくるんだ。

 タツキと過ごす新しい年はどうなるのか、まだ考えもしてなかった。


 クリスマスはゲーム内で楽しく過ごした。

 すぐにやってくるお正月はリアルがいいかも、って思ったからタツキを見上げた。


『じゃあ、うちまで迎えにきて。お母さんがおせち張り切ってたから、食べてってよ。

 特にエビがおすすめ。料亭の味』


『いいの? うちの実家はおせち用意しないから羨ましい、楽しみにしてる』


『おせちしないの!? じゃあタツキが来てくれたら、ますます作った甲斐あったってお母さん喜ぶよ。

 うちの家族はみんなおせちあるのに慣れちゃってて、感動しないって去年……今年? 怒ってたから』


 こうやってこっそり喋ってるからみんなに察されちゃったんだと思うんだけど、もう彼氏彼女バレしてるから、二人で面と向かって笑い合っちゃった。


 ちなみにピエナちゃんは、カレピッピたちに放送禁止用語使ったらしくてまたBANされたらしい。

 うちのサークルは突然のカミングアウトした門松リーダーと鏡餅ヒーラーちゃんのカップルを、みんなと一緒に花火で祝って、今日も楽しく大騒ぎしたのでした。

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