第28話 開幕

 さて、ヒーラーちゃんにリア充だとバレてしまったけれど。

 真剣な表情見てたら、爆発四散させたいわけじゃないって分かったから頷いた。


「持って、ます」


「だよね、だよね!?

 じゃあやっぱり私も斧振ろうかな……ミツハちゃんの負担になるって思ってたけど、EGあるならリザレクションしない作戦の方が刺さりそうだし……」


 ヒーラーちゃんもリーダーに相談して色々考えた結果、姫サークル相手なら回復出来る私が一人いれば事足りるんじゃないかって話になったらしい。


 正面を五対六にしてぶつかって、手早く落とせた方がEGを使わせる頻度も上がる。

 敵の数が減った分だけ被弾も少なくなるから、バックパッカーのアイテムだけでも回復は十分に可能って判断だ。


「普通のサークル相手だと難しいから、その都度職業変更してスキル取り直すけど。

 姫サークル相手なら、もしリザレクション必要になってもミツハちゃんにお願い出来ればって思ってて」


「……一つだけ、良いですか」


「何?」


「そもそもなぜEG持ってると思われたのでしょう」


「え、だってタツキチとミツハちゃんログイン被ること多くなってるし、二人でどこか行くこと多いよね。

 ミツハちゃんはタツキチより好きな人いるーって言ってたけど、ブラフ説あったし。

 個人で話してる雰囲気もあったから、グランディエメレも一緒に楽しんでるのかなってみんな思ってたよ?」


 サークル内にもバレてるって知らなかった。

 事実だから何も言えないでいると、ヒーラーちゃんがほんわか笑った。


「タツキチがミツハちゃんのことずっと好きなの察してたし、ミツハちゃんも前より距離近くなったなー恋してるっぽーいって見守ってたよ。

 リア充爆発して、って言いながらも応援するカップリングくらいあるでしょ?

 正統派の恋バナとか特にいいよね!」


「え、でも姫サークルは」


「爆発四散すれば良いよ。あそこ、ただれた愛人関係しかないし」


 低い声の温度差にヒエってなったけど、とりあえず私は許された。


 さあ混み合ってきたけど、姫サークルを追い詰めるための練習は始まってる。

 大斧は個人技多いから、ヒーラーちゃんは恥ずかしがってこっそり練習したいって言ってたけど、リーダーが「合わせて練習しないと意味ないぞー」って言い出して、最初はうまくいかなかったけど少しずつ仕上がってきた。


「ヒーラーちゃん、右側から攻めてこられるの苦手ですか?」


「えっ、どうして分かったの?!」


「後衛から見てると、右側から敵が来ててもヒーラーちゃんだけ反応鈍い感じがしてて。

 利き手で大斧持ってるせいで右側が見えてないなら、危なそうな時は声かけようかなって」


「えーミツハちゃん優しいー。大丈夫だよ、ありがとう!

 まだ前線慣れてないだけだから、気にしないで。マップもうちょっと注視してみるね」


 最初はヒーラーちゃんも慣れてなかったのかもだけど、大丈夫っていう言葉通り、そのうち右側の敵にも平気で対応してたから安心した。


 サークル内で姫サークル想定の模擬戦もしてくれたけど、大斧使いのヒーラーちゃんいた方が、やっぱり手数が多い分だけ一気にダウン取れるし押し込めた。

 回復も全体に通常アイテムで入れてるけど、みんなも危ない時は自分でアイテム使ってくれる。対応遅れなければ、私だけが回復役でも平気だった。

 EG使われても姫に向かって一直線に走れば追い詰めたりも出来て、攻撃多いパーティーの方が強くなった実感まであった。


 毒散布も、練習するほど手応えが出てくるから面白い。

 三秒感覚で拍打って、十五秒に一回ドラム打つ音楽見つけたあとは、脳内で流し続けるのも徹底した。

 会社でシュレッダーだけして暇な最中に三秒間隔でビート刻んでるのが目撃されて、三井くんに「バンド始めたの?」って聞かれて恥ずかしい思いもしたけれど、イベントに向けてかなり仕上がってきてた。


 タツキもリーダーや短気なドラゴンライダーさんと打ち合わせしてたけど、内緒の作戦があるらしい。

 もはや練習すらせずに合わせるらしくて、古参で盛り上がってた。


 大会は制限時間十分の中で、全員ダウンさせたら勝利で一ポイント。

 もし終了時刻まで決着つかなかったら、ダウンしてない人数多い方の勝ち。

 全員ダウンさせた方が終了時刻が早いから、次の相手に速攻でぶつかりに行ける。

 話題のEGや、ヒーラーのリジェネレーションとか復活スキルで制限時間ギリギリにダウン回復するのもありだから、持ってそうな相手を優先して倒すのも大事だって戦略も、みんなで練習した。


 クリスマスは息抜きの日になったけど、必死にやってるとあっという間に日は過ぎて……ついに予選の日がやってきた。


『SHOT D RAINサークル対抗戦、夜部門が始まります!』


 朝部門と昼部門はタツキとネットで見守ったから、細かいルールまで把握済みだ。

 みんな楽しんで戦ってる姿にワクワクしたけど、今は実況が何か喋るだけで心拍数ゲージが爆上がりして止まらない。

 補欠メンバーは観戦モード。

 万が一回線落ちたメンツがいたら交代が可能だけど、みんなが「頑張れー」って応援してくれてる。

 うちはフルメンツ揃ったの見て、安心してたけど……あれだけ練習してたのに緊張し過ぎてうまくいく気がしないとかどういうこと、ってバックパッカーが背負ってる荷物の紐握りしめてた。


「よっしゃついに本番だぞー、みんな張り切って行こうぜ!」


 全身鎧のリーダーがリアルに鼓舞してくれたけど、私たちはまず待機。

 RPGみたいに各拠点にサークルリーダーが立って、お互いの索敵範囲がぶつかったら特設のバトルフィールドに移動して戦闘開始だ。


 すぐ隣に拠点買ったのか買収したのか分からないんだけど、姫サークルがこっち見てる。

 元々上級者サークルって知られてて『最初にぶつかりたくない』って言われてたから、誰にとってもちょうど良かったのかもしれない。


「どうしようタツキ、回復うまく入れられる自信なくなってきたんだけど」


 EGフルマックスで持ってきたし、回復アイテムも復活アイテムも惜しみなく持ってきたけど、私が回復ミスったら終わる。

 いつもヒーラーちゃんが感じてる重圧ってこういうことなんだって思いながらも立ってると、タツキがポンポン、って肩を叩いてくれた。


『一崎がシュレッダーに行くと、三拍子のビート刻みながら十五秒ごとにヘッドバンキングかましてるって話題になったくらい練習してたから、なんとかなるって』


『待ってよ会社で目撃したの三井くんだけじゃなかったの!?』


『部長が通りがかったんだってさ。

 でも一崎がずっと気付かずにタイミングとってるから、今時十枚ごとしかシュレッダー掛けられないの遅いし暇にもなるよな、そろそろ買い替えるかって新商品の導入が検討されてた』


 恥ずかし過ぎるんだけど。リズムとってヘッドバンキングしてる姿を一番の上司に見られてる以上に嫌なことある? 

 『一崎蓮花とシュレッダー』なんてものが議題になった会議を想像したおかげで、緊張もある程度吹き飛んだ。

 ……でも一番は、やっぱり。


「賛成多数でミツハをみんなが選んだんだから、失敗したって誰も文句言わないって。

 補欠に回ってくれたメンツの分まで、俺たちが精一杯楽しもうぜ。それこそ恩返しだからな」


 頭ポンポンして明るく励ましてくれる一流イラストレーターのタツキを見てるだけで、緊張が溶けてく。

 ……手の震えは武者震いしてるんだって、自分に言い聞かせた。

 ヒーラーちゃんも精神統一してるみたいで、大斧を装備しながら瞑想中。

 短気なドラゴンライダーさんとマゼンタさんたちはペットじゃないけどドラゴン可愛がってた。

 人馬一体って感じで、ご主人様以外には懐かないらしい……って思えるくらいには、周りのことも見られ始めてた。


『それでは、チーム戦スタートですっ!』

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