第20話 慣れない飲み会(中編)
最初に異変に気付いたのは、宴会場で隣に座ってた三井くんだった。
「一崎さん、大丈夫? もしかして今日、お酒入ってる?」
「だいじょーぶ……ふわふわするだけ……」
まさかこんな唐突にアルコール効くって思ってなかった。
リキュールベースは度数が高いから、知らないうちに飲み過ぎちゃうらしいとは聞いてたけど……実際になった時には取り返しなんてつかなくなってた。
途中でお茶に差し替えてたはずなのに、頭がグラグラする。
蜷川課長がビンゴ当ててたけど、何もらってるか聞きそびれたくらい意識が飛んでた。
次のビンゴ賞がポータブル加湿器だったし、全部会社で役立つグッズみたい。
芝松課長の当てた商品券は、今度営業への差し入れになるらしい。一課が盛り上がってた。
「お酒飲み慣れてないと辛いよね。
気持ち悪くなったらすぐに言ってね、そばにいるから」
「ふああ……ありがとう。
でもへーき、まだ戦えるよ……あ、ビンゴー」
私も無事に賞をもらえたけど、肩こり腰こり解消グッズセットだった。
温浴効果のある湿布とかが紙袋いっぱいに詰められてて、かなり重量感あった。
事務的には肩凝るからありがたいってペコペコすると、ますますお酒が回って目も回る。
その後も宴会は盛り上がって、貸切の時間も終わったからお開きになった。
二次会行く人もいるけど、旅館からちょっと距離あるから今日は大体が解散していくみたい。
三課も解散の方針で、課長が締めの挨拶して終わった。
みんなが帰っていくのをぼーっと眺めてたら……お見送りしてる課長が、まだ立たない私と三井くんに気づいて戻ってきた。
頭ぐらぐらしてるから、三井くんが寄り添って支えてくれてる。
あったかくて、眠い。
彼氏が目の前にいるって分かってても、三井くんから離れられないくらい、もうアルコール回ってた。
「三井はいつも通りとして、一崎は……見事に潰れてるな」
「課長、俺が一崎さん送ります。一人じゃ帰れないと思います」
社内恋愛してるって誰にも暴露してないし、蜷川課長には『送って』って言えないな……。
でも三井くんなら安心だから「そろそろ行こうか」って抱き起こそうとしてくれるのに手を伸ばした。
「三井、待った」
課長が手を下ろさせて、三井くんに入口を示してる。
「責任者として、俺が送ってく。
遅刻の時に家の場所は調べて知ってるから、三井はタクシー呼んできて」
「いえ、状態悪くなった時は同期で気心知れてる方が良いと思いますし、わざわざ課長が送らなくても」
「急性アルコール中毒になったって言われた時に、責任取るのは俺だから状態見ておきたいんだ。
飲み慣れてないやつに呑ますなって言ってなかったのも悪かった……ほら三井、一崎寝そうだから早く」
急かす課長の指示に従った三井くんが離れて、二人きりになった。
「一崎、何をどれくらい飲んだか覚えてるか」
「んーん……」
ちゃんぽんのみってしちゃいけないらしいけど、カクテルいろんな種類飲んだ気がする。
答えたのか答えてないのかもわからないうち、ますます眠くなってきて課長にもたれかかると……気づいたらタクシーの中だった。
課長が隣に座ってる。
スーツで背が高くて、顔はいいメガネの上司がそばにいるから安心して目を閉じると、今度はマンションに光景が変わってた。
鍵認証してって言われたからドアに触って、部屋の中に入った。
ベッドの上に寝かされて、そばには水と風呂桶が用意された。
「かちょー……」
「大丈夫か、気分悪くなってないか」
頷くけど、それだけで酔いが回る気がする。
水飲むように言われたから口にしたけど、お腹いっぱいで入らないからすぐに返した。
「飲めるなら水飲んで、吐けるなら吐いたほうが楽になる。
……あと一崎。酔って何も覚えてないとか、場合によっては食われるからな。
いつもの一崎らしく、アルコールは断ってると思ってた」
「女子会、楽しくて……でも、そんなに、飲んでないです……へーき……」
「飲んでないのなら、目の前で三井に抱きつきそうになってた彼女を見た俺の気持ちになってもらえるな」
何も言えない。
そばに座ってくれたから、課長の手を取って指にキスだけした。
あんまり動けないけど、課長も軽く唇に返してくれた。
「……今日は泊まらせて。アルコール無理って聞いてたから心配してる。
何があっても良いから介抱させて」
「うん……ねータツキ、一緒にねよ……」
お互いの家に泊まったことはなかったけど、今日は私の家に泊まってもらうつもりでお誘いした。
シングルベッドでもスペースを開けると、タツキが腕の中に入れてくれる。
抱きしめてもらえるのが暖かくて、初めてタツキがうちにお泊まりしてくれてるのに感動するのも束の間……旅館出る前みたいに、すぐに寝落ちしてた。
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