第19話 慣れない飲み会(前編)
期末になり、今期の営業成績が発表された。
営業部全体も好調だし、三課も順調に業績伸ばしてるって褒められた。
だからお疲れ様会兼、次期への激励会が会社負担で開催されることになった。
営業部全体で旅館の宴会場貸し切る大掛かりな飲み会だから私も一員として参加したけど、音頭を取るのはもちろん地獄の環境ゆえにトップ成績の一課、芝松課長だ。
「今期はよく頑張った、来期も会社の礎として尽力するように。乾杯!」
「かんぱーい!」
飲み会は正直苦手。
だけど普段一緒にならない人も多いし、同じ課のみんなにもお酌して話したりするのは悪い時間じゃなかった。
むしろ仕事じゃ出さない意外な一面も見られて楽しいかもしれない。
蜷川課長にも一回お酌に行ったけど、部長課長勢の中で仕事への姿勢を褒めてもらえたから照れくさくて「どうも」だけ答えて離れた。
塩対応っぷりを蜷川課長が茶化して周囲が笑って、いいつまみになったみたいだ。
宴会場貸し切ってるから、余興も盛りだくさんで行われる。
カラオケ大会まで始まって、一人一曲みたいなペースでデュエットとか歌い始めた。
どうしよう、みんな仲良いメンツで集まって何歌うか相談してる。
私も単独ライブさせられるの辛いから誰か探そうと思ったら、三井くんが来てくれた。
「ねえ一崎さん、一緒に歌わない?
合唱でも歌ってそうなこの曲とかどうかな」
「三井くん助かる、声かけてくれてありがとう。
高校でバッチリ歌ってる、だから一緒に歌わせて」
有名な映画の曲で、みんな知ってるデュエット曲だった。
私が合唱部で歌ったことのあるやつ探してくれるなんて、きっと以前部活の話をしたの覚えててくれたんだろうな。ちょっと嬉しい。
予約も入って、順番がついに回ってきた。
恥ずかしいけど、私たちも機械の前に立った。
……歌い始めからとんでもない視線集めてるから、なるべく三井くんだけを見ながら歌う。
恋人を想うように、感情を込めて歌えって先生が厳しく指導した思い出通り、歌がうまくて本物の王子様みたいな三井くん相手に私も精一杯音程とって声出した。
三井くんも見つめて微笑んでくれるし、身振り手振りも入っていい感じ。
終わったら指笛と拍手もらえたから、二人でハイタッチして笑っちゃった。
「やったね、一崎さん」
「選曲良かった三井くんのおかげだよ。
安定しててハモリやすかった、さすが歌うま」
前回カラオケを音痴って断ったから三課がちょっとざわついてるけど、仕方ない。私はこれ以外音痴ってことにしておこうって思いながら三井くんの隣に座り直した。
「あれっ、一崎さん、前のカラオケ」
「音痴です。これ以外歌えません。ね、三井くん」
「あ、えっと、そう……みたいです?」
やっぱり突っ込まれたけど、三井くんも巻き込んで、音痴で通してなんとかなった。危ない、危ない。
課長たちは三人揃って宴会と言えばな曲を歌ってた。
芝松課長のパフォーマンスすごいから、蜷川課長の初歌声聞きたかったけどかき消されてる。
「……」
それでもスーツ姿のタツキがマイク握ってる姿は格好良くて、ちょっと眺めちゃってた。
直属の上司にみんなも手厚く視線送って拍手してるから、私もその一人だってことにした。
普段は塩対応の部下がちゃんと視線向けてるのに気付いて照れ臭そうになったのも、特別感あった。……柴松課長が割り込んで、こぶし効かせるから一瞬だったけどね。
その後もカラオケは続いてたけど、他の営業課の女性たちがお誘いしてくれたから、私も女子会スペースに腰を落ち着けた。
「一崎さんは何飲んでるの?」
「お茶とか、ノンアルカクテルを少々」
「飲み放題だし、せっかくだから一緒にお酒飲もうよ。
リキュール系とか甘くて美味しいよ」
お酒は得意じゃないし、フットワーク軽く動けるからノンアル派だったけど、甘いカクテルをおすすめされるまま頼んだ。
慣れてないけど美味しいらしいし、飲みニケーションだって頑張って口にする。
ジュースみたいで飲みやすいって伝えたら幾つか頼むことになって、話の合間に呑んでた。
女子会では、他課の話で色々盛り上がった。
恋バナももちろんしたけど、独身組の中では誰がいいとか、社内恋愛への憧れがある人もいた。
「山本課長のところに、三課からたまに蜷川課長が来るんだけど……蜷川課長、格好いいよねー。
あんな人の部下だったら、わたしミーハーだから仕事が手につかないよー」
華やいだ話の中で、我が課の上司はそこそこ人気があった。
ゲームと漫画が趣味なインドア派だから、体がたるまないように気を付けてるタツキのマラソン姿を目撃したらしく、走ってる姿が格好良かったって二課の女の子が熱を上げてた。
でも一課の女子が微妙な顔なのは、厳しいタツキを知ってるからかもしれない。
しばっちこと柴松課長と仲が良いのは、実はタツキにとって柴松課長が恩師で、二人とも似たところがあるからだ。
「……一崎さんは、どう? 蜷川くん、たまにキツイところない?」
「キツイ時期は、過ぎましたけど……あー……忙しい時にミスると、たまにピリッとしますよね。
まあ上司なんてそんなものかって、半年経ってようやく分かってきました。平気です」
「新人ちゃんに、あいつ変わんないなぁ!
飲もう! ちょっと息抜きしよう!」
一課の七曲さんは既婚だけど、蜷川課長と組んだ時にボコボコに言われて、お互いに言い返しあった仲らしい。
気が強くないと一課では生きていけない。
思い出話にヒートアップしてる七曲さんに「落ち着きましょう」って私もお酒をお注ぎしたけど、代わりに今飲んでるカクテルの注文が入って何度も乾杯した。七曲さんはペース早いから結構飲んだ。
カラオケ大会は三井くんと二人で賞をもらって、改めて二人でお祝いした。
ビンゴ大会がすぐに始まるから、私もそのまま慣れた三課のメンツのところに座って、一緒に盛り上がった。
変化が出てきたのは、ちょっと時間が経った頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます