第2話 STP

 STP消費周りの仕様は、少子化対策のゲームとして最も力が入っている、とは聞いていた。

 タツキもベッドの上で私に覆い被さりながら、体を触ってくれる。

 きっとこれが男の人に触られた時の感覚なんだって、タツキの細い指に肌を触られる度、産まれて初めての愛撫にドキドキしてた。


「ちゅっ、ん……ちゅ……っ」


 脳に直接11Gシートで感覚がくるけれど、キスって気持ちいい。

 何もかも生まれて初めての体験ばかりなのに……タツキにしてもらうたび、行為にのめり込んでいく感じがした。


「タツキ、上手だね……リアルで慣れてるの?」


「いや。画面端に『女性の触り方』ってチュートリアルが出て、光ってる」


 私もタツキの体に表示されてる、薄ぼんやり光るところに触った。

 突然だったから驚いてちょっと身体が跳ねたけど、続けてみるとキスがどんどん熱心になって、タツキにとっても心地良い場所なんだって分かる。


「触ると良い場所が出るのかな……私はチュートリアル、何も出てないんだけど」


「俺の画面端は、音ゲーみたい。こうやって触りましょうって書かれてる。

 動画つきで、次は足」


『なりふり構っていられない政府』の文言を実感しながら、二人で笑ってしまった。

 チュートリアルが出ないことには、異性の触り方なんて私にも分からない。

 だから、ゲーム側も慣れない人のために説明を用意してくれてるのかもしれない。


「ふふ、面白いね。おかげで私も、全部気持ちいいかも……っん……」


 キスされるたび、体がじわじわ熱くなってくる。

 少子化対策とはいえ、子育てはまた別の話かもしれないけど……こうして体を重ねて相手を知られるのは良いことなんだって、タツキとベッドの上で色んなことを体験しながら感じてた。


「はぁ、っ、はぁ、ああ、タツキ、っんん、タツキ……っ」


 ベッドの上で乱れる、って言葉が分かった。

 初めて男の人として、行き着くところまで行った。

 甘えた声を上げながら最後はのけぞって、誰も教えてくれなかった『生命の営み』を体験した。

 桜マークが散って消えるのを見ながら、タツキとしたんだって熱い体で感じてた。


「すご、かった……タツキ……」


「俺も……ミツハが初めてで良かった」


 終わってもなんとなく離れがたくて、時間いっぱいまでハイレシアでイチャイチャしてる。

 先にログアウトのお知らせが来たタツキがメニュー画面を操作して、私の視界には新しいメッセージが届いた。


「……一緒にサークルいて、やっぱりミツハがいいなってずっと思ってて。今日もSTP対策、良かったから。

 申請出しておくから、気が向いたら受け取って」


 オフ申請だ。

 政府が保証するゲームだからこそ、相手の嘘偽りない住所や氏名などが書かれている、オフラインであっても連絡をとる方法を保証するメッセージが……私の元に桜色の封筒として届いた。


 これを送るということは『現実世界でもパートナーになりませんか』と言っているのと同じこと。

 現実に会ったり出来るということは、信頼の証でもある。STP対策から彼氏彼女に発展する人も、もちろん多い。


「開いたが最後、俺にもミツハの住所とかわかっちゃうからさ。

 開けるかは、よく考えてからで良いから」


 メッセージを開くということは、私も相手に同じ情報を知らせることになる。

 先に送るというのは、自分から告白しているのと同じ。


 ……タツキ、そこまで私のこと好きになってくれたんだ。


 感動したけれど、やっぱりすぐに返事をすることは出来なくて、先にログアウトしたタツキを見送った。

 私もゲーム続ける気にならなくて、ログアウト操作する。

 フルダイブしてたゲーム空間から視界が部屋に戻ると、11Gシートを剥がして……平静でいられるわけもなく、ベッドの上でドキドキを味わいながら転がってた。


 どうしよう、タツキと、しちゃった。

 オフ申請までもらっちゃった。


 ゲーム情報を改めて攻略サイトで確認しながら、私も眠くなるまで必死にタツキのメッセージを開くかを考えた。

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