第7話 地方遠征の夢と秋葉原の大舞台~歓喜と不安が交錯する新たな挑戦の幕開け

その日の公演は、これまで以上に会場全体が熱を帯びていた。ステージにはいつも通りのメンバーが立っていたが、どこか神妙な面持ちだった。運営から予告されていた「大切なお知らせ」。その言葉がファンの期待を膨らませ、同時に胸を高鳴らせていた。


「皆さま、お待たせしました! 本日は、私たちから重要な発表があります!」


グループリーダーのメンバーからの言葉に、会場が静まり返る。観客たちは息を潜め、次の言葉を待っていた。メンバーたちもステージ上で互いに目を合わせながら緊張を共有していた。


「まず1つ目のお知らせです。今年の春から秋にかけて、仙台、名古屋、大阪、福岡の4都市で地方遠征公演を開催することが決定しました!」


その瞬間、観客席からは割れんばかりの歓声が上がった。「すごい!」「とうとうここまで来た!」という声があちこちで聞こえ、ペンライトが一斉に振られ始める。メンバーたちも驚きと喜びを隠せず、手を取り合い涙を浮かべる者もいた。


ひかりもその中にいた。彼女はステージに立ちながら、観客の笑顔を一人ひとり目に焼き付けた。この瞬間、彼女は自分が目指していた夢が一歩ずつ形になり始めたのだと実感していた。


だが、それだけでは終わらなかった。リーダーはさらに声を張り上げる。


「そして、2つ目のお知らせです! 地方遠征のファイナル公演として、秋葉原にある1000人規模の会場でコンサートを開催します!」


今度はさらに大きな歓声が巻き起こった。観客たちは立ち上がり、手を叩き、涙を流す者までいた。「やった!」「絶対行く!」という声が飛び交い、メンバーたちも深々と頭を下げて感謝の意を示した。


ひかりの胸にも熱いものがこみ上げてきた。秋葉原でのファイナル公演――自分たちが目指してきた大きな目標の一つが、ようやく現実になったのだ。しかし、その感情の中には、微かな不安も混ざっていた。


「地方まで、私のファンは来てくれるのだろうか……?」


彼女はふと視線を下げ、静かにそう思った。これまで横浜・秋葉原というホームグラウンドで積み重ねてきた日々。地元の熱心なファンたちに支えられ、ステージで輝いてきた。しかし、地方という新しいステージで同じようにファンが応援してくれるのか、不安が頭をもたげる。


それでも、彼女はすぐに顔を上げた。観客席で「地方でも応援するよ!」と叫ぶ声が耳に飛び込んできたからだ。目が合ったファンが力強く頷き、ひかりに向けて大きく推しサイを振る。その瞬間、彼女の中の迷いは少しだけ和らいだ。


「大丈夫。私は私らしく、どんな場所でも全力を尽くすだけ。」


ひかりは自分に言い聞かせるように深呼吸をした。観客の応援に応えるために、そして自分の夢をさらに大きく育てるために、彼女はまた新たな一歩を踏み出す準備を整えたのだった。


地方遠征の発表から数日後、彼女たちは新たな目標に向けて動き始めていた。春から秋にかけての4都市での遠征。そして秋葉原での1000人規模のファイナル公演。それは、これまでの日々とは異なる挑戦を意味していた。


ひかりたちは、朝早くから専用のスタジオに集まり、地方遠征用の新たなセットリストとパフォーマンスを練習することになった。スタジオには運営スタッフや振付師、ボイストレーナーたちが集まり、緊張感が漂っていた。


「今日から地方遠征に向けた特訓を始めます!」


振付師の厳しい声がスタジオ中に響く。メンバーたちは一列に並び、真剣な表情でその言葉を受け止めた。


「これまで以上に厳しい日々が続くと思う。でも、この遠征は皆さんにとって大きなチャンスです。一人ひとりが全力を尽くしてください。」


その言葉に、メンバーたちは一斉に頷き、表情を引き締めた。


最初に取り組むのは、これまでよりも高度な振り付けが加えられた新曲だった。この曲は地方のファンに向けた特別な想いが込められており、彼女たちの新たな挑戦の象徴となる。


「手の角度が違う!もっと動きを揃えて!」


振付師が鋭い声を飛ばすたびに、メンバーたちは必死に動きを修正する。何度も繰り返し練習を続けるうちに、汗が額を伝い、息が上がる。


ひかりもその一人だった。これまでの公演で培った経験があるとはいえ、地方遠征に向けた振り付けは新しい要素が多く、簡単に体に馴染むものではなかった。息を切らしながらも、彼女は踊り続けた。


「ひかり、大丈夫?」


隣にいたメンバーが声をかけてきた。ひかりは汗を拭きながら笑顔で応える。


「うん、大丈夫。でも……もっと頑張らなきゃね。」


休憩中、ひかりは窓際で一人考え事をしていた。地方公演でのステージが思い浮かぶたびに、期待と不安が入り混じる。今まで応援してくれたファンに最高のパフォーマンスを届けたい。その想いが、彼女の胸をさらに熱くさせた。


「地方でも、私たちの歌とダンスを楽しんでもらえるだろうか……。」


彼女はふと、そう呟いた。隣に座った同期のメンバーが、その声を聞いて微笑む。


「大丈夫だよ、ひかり。私たちの気持ちはきっと伝わるよ。それに、私たちだけじゃない。ファンも楽しみにしてくれているんだから。」


その言葉に、ひかりは力強く頷いた。そうだ、地方でも彼女たちを待っているファンがいる。その期待に応えるために、彼女はここで足を止めるわけにはいかなかった。


その日のレッスンが終わり、スタジオから出たひかりは、夜空を見上げた。冷たい風が汗を冷やし、心地よい疲労感が体を包む。


「地方遠征……絶対成功させる。」


彼女は夜空に向かって小さく誓った。その言葉には、これまでの努力とこれからの覚悟が込められていた。


これから始まる過酷なレッスンの日々。その先にある地方のステージで、彼女たちはどんな景色を見るのだろうか。それを思うと、不安よりも楽しみの方が大きくなっていく。ひかりの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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