第2章 再び前を向く決意

第4話 公演後のチェキ会 ~刺さる言葉~

公演後のチェキ会。七瀬ひかりは、今日も少ないファンの列を見つめていた。かつては並びきれないほどのファンが列を作り、彼女の元に次々と訪れた。それが今では、10人足らずの短い列になっていた。


「次、お願いします。」


スタッフの声に促され、ファンが一人ずつ前に進んでくる。ひかりはいつものように笑顔を作り、チェキを撮りながら会話を交わす。だが、心の中にはどこかぽっかりと穴が空いているような感覚があった。


列の最後尾に見覚えのある顔を見つけたのは、そのときだった。ひかりは思わず目を見張った。


(ヨウさん……。)


デビュー当時から欠かさずチェキを撮りに来てくれるファンだ。普段は恥ずかしがり屋で、なかなか目を見て話してくれない彼が、今日は少し違って見えた。手には4枚分のチェキ券を持ち、どこか決意を感じさせる表情をしている。


「ひかりちゃん、今日は本当に良かったよ!」


順番が来ると、ヨウさんは目をしっかりと見つめながら言った。その様子にひかりは少し驚きつつも、笑顔で応えた。


「ありがとうございます。ダンス、頑張ったんです。」


すると、彼はさらに饒舌に続けた。


「君のダンス、やっぱり綺麗だよ。それに、今日の表情も良かった。ステージの端に立ってても、すごく輝いて見えたんだ。」


普段は言葉少なな彼が、こんなに熱心に話すなんて珍しい。ひかりは自然と耳を傾けていた。


「僕ね、君の笑顔がすごく好きなんだ。君の立ち位置が変わったって、僕にとっては君がずっとセンターだから。」


その言葉が胸に深く刺さった。普段なら恥ずかしくて聞き流してしまうようなセリフが、今日は何故か重く響いてきた。


ヨウさんは最後に「これからも応援してるよ」と笑顔を見せると、その場を去っていった。その後ろ姿を見送りながら、ひかりはじっとその言葉を反芻していた。


その夜、ひかりは帰宅するとすぐに机に向かった。これまで何も書けずにいたノートを開き、ペンを手に取る。


「ヨウさん:恥ずかしがり屋だけど、今日は目を見てたくさん話してくれた。『君がずっとセンター』だって言ってくれた。」


初めてノートに言葉を書き記した。これまでは、自分の不安や迷いが多すぎて、何を記録すればいいのかわからなかった。でも、ヨウさんの言葉が、彼女にその一歩を踏み出させてくれた。


次の公演では、ひかりは少しだけ気持ちが軽くなっている自分に気づいた。2列目上手2番の位置からでも、自分を見つけてくれるファンがいること。その事実が、彼女の胸を温かくしていた。


公演後のチェキ会で再びヨウさんが現れると、ひかりは思わず笑顔を浮かべた。


「今日も来てくれてありがとうございます。」


「もちろんだよ。僕はずっと応援してるから。」


その言葉に、ひかりは自然と「また頑張ろう」と思えた。


それから、ひかりはノートに少しずつ書き込むようになった。チェキ会で話したファンの名前や特徴、ステージでの気づき、次に挑戦したいこと――それらが少しずつページを埋めていった。


ある日、後輩メンバーが声を掛けてきた。


「ひかりさん、最近すごく楽しそうですね。何かあったんですか?」


「そう見える?ありがとう。でもね、私もまだ頑張らなきゃって思ってるの。」


彼女はノートに触れながら、心の中で静かに決意した。


(このノートは私の宝物になるかもしれない。そして、このノートが私を支えてくれるんだ。)


ひかりの中には、新しい目標が生まれていた。もう一度、ファンの期待に応えられる存在になること。そして、どんな立ち位置でも輝ける自分を見つけること。


ノートを手にしたひかりは、ステージの端からでもファンに自分を届けるために全力でパフォーマンスするようになった。そして、その姿勢は少しずつ周囲にも伝わり始めていた。


「ひかりちゃん、今日の公演すごく良かったよ!」


チェキ会で増えていくファンの声。その一つ一つが、彼女の心に新たな希望を灯していった。


ひかりは今でもノートを書き続けている。ファンの言葉、自分の気づき、日々の小さな成長。そのすべてがノートのページを埋め尽くしていた。


ある夜、彼女はふとノートを開き、初めて書いたページを読み返した。


「君の立ち位置が変わったって、僕にとっては君がずっとセンターだから。」


その言葉を見つめながら、ひかりは静かに微笑んだ。そして、そのノートを抱きしめるように胸に当てた。


(このノートは私の宝物。そして、私を支えてくれる希望。)


ひかりの中には、再び輝くための小さな炎が灯っていた。

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イメージイラスト

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093091584252369

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