第六話 善と悪、人と妖
「
帰宅した
だが——。
いつもならば真っ先に出迎えてくれるはずの声と姿がない。
「……
「あれ?
部屋の中を見回しても、
出て行ったのだろうか。
しかし、出掛けに言葉を交わした時は——。
『美味しい
と、笑顔で送り出してくれた。
約束を守ろうしていたのだろう。
なれば、何故。
「
あてなどあるはずもない。
闇雲に探したところで見つかる望みは薄い。
けれども——。
(
導かれる様に、足が向いた。
❖❖❖
すっかりと夜の帳が落ち、ざわりざわり、と闇で
「何処だ……何処にいる、
声に誘われて、有象無象が這い出て来る。
「——邪魔だ!」
行く手に立ち塞がったそれらを、
また、どこかでこれに襲われているのではないか。
そんな不安を
そうして、森の奥深くへ入り込み、
「ぎゃあああっ!!」
男の悲鳴が響いた。
その対面には美しき衣を
「
「……
何故、
「
「僕は大丈夫です、でも……」
ちらり、と後ろを見やる。
見た目にも深い傷だ、一刻も早く手当てが必要だろう。
しかし、
一体誰が
湧き上がる怒りに、ギリギリと歯を食いしばる。
「邪魔が入りんしたねぇ」
上品で高い女の声。
前方を見やると、
雰囲気でわかる。
女は——
「
「ここに居ますよ、主様」
名を呼べば式神は応えた。
炎と共に現れて
「お前か?
「いややわぁ、誤解せんとください。
うちはその子を助けようとしただけです。そこの青いお人から」
女は
女が嘘を言っている可能性もある。
どういう事か、と
「あ、
打ち震えた
「過去に色々ある」と言った
このご時世、珍しくもない話だが——。
「
感情が荒れ狂う海のようにさざ波を立てる。
それと同時に、自分の見通しの甘さを
「貴女だって
「世の秩序を乱す、不浄なるもの。
見つけ次第、
忘れてなどいないさ。その命に従い、嫌と言うほど殺してきたからな」
「ならば何故、今回もそうしないのです!
「それがどうした」
と、歯牙にかけることはなかった。
「な……どうしてですか!」
「どうしてもこうしてもない。そも、此れは私と
「ですが、妖は!!」
「くどい! 昔馴染みの弟子だから、と大目に見ていたが……お前は何様のつもりだ?
まだ
一部始終を静かに見守っていた女と視線が交わる。
「お話は終わりまして?
それにしても、
なんで言い切れるのやろなぁ?」
「まあええやろう。うちの目的はその子です。大人しゅう渡しとぉくれやす?」
「
「さぁて、それを答える義理はあるんやのん?」
「私の
「ふぅん、えらい大切にしてるんどすなぁ?
それとも
たまにいはるんよね、うちらを飼い慣らそうとする
あんたもその
素直に
パチンと軽快な音を鳴らして女の
すると、木々の合間の闇から有象無象の
『
発声すると結界——
「
扇子が
小物ばかりだが
「これはまた……」
「見飽きた光景だな」と呟きながら
刃へ霊力が伝い、白い波動がゆらめく。
津波のように押し寄せるおどろおどろしい群れ——
——霊力の宿る軌跡は、
激しく吹き荒れる風が邪気を
「児戯よなぁ。もっとましな遊戯はないのか?」
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