第四話 寵愛
静まった室内で、
穏やかな時間を邪魔された苛立ちと、何より。
(
お
かの人物は、この国の
言わば
(会いたくない、とは言えぬしなぁ……)
会いたくない理由は他にもあるが、不忠だと指を差されようとも、極力顔を合わせたくない相手だった。
再度、ため息を付いてしまう。
すると、
「あの、
背に隠れたままの
ハッとして振り返る。
予期せぬ来客と、向けられた敵意のせいだろう。
「驚かせたな、すまない」
——
こちらから抱きつく事はあっても、
「どうした? 恐ろしかったか?」
「違うんです、
「私が?」
「とても、苦しそうに見えて。僕を抱きしめる時は、いつも楽しそうにしていたから、だから」
「
何と優しい子だろうか。
まさか自分を心配しての行動だとは思わず、胸が熱くなる。
確かな鼓動と、ぬくもりを感じる。
なんと温かいのだろう。
「……
教えてください、僕が全部やっつけてあげますから」
「
「はい。こう見えて僕、強いんですよ?」
「そうか? 有象無象に
「そ、それは事情があって……。
とにかく、僕が
抱き合ったまま、
「かように幼き妖狐が、どこでそんな口説き文句を覚えたのやら。
嘘でも嬉しいよ。ありがとう、
「…………嘘じゃないのに」
不満そうな呟きが聞こえる。
慰めるための虚勢だろうが、必死な姿が愛おしくて、
(嗚呼……。私は、私を慕い、抱き締めてくれるこの子が、どうしようもなく大切だ。
例え、
今感じている温かさに、偽りはない。
抱きしめた
❖❖❖
それから数日の
案内されたのは、玉だれの
式神を連れ立っての入室は許されず、一人中へ通される。
「久しいの、
御簾越しの上座より、良く通る中性的な声が響く。
「お久しゅうございます、主上。朱雀の
「よい、楽にせよ。
「お心遣い、感謝申し上げまする。ですが、将と言えど臣の立場。そういう訳にはゆきませぬ」
「心配せずとも、誰も見聞きしてはおらぬぞ?」
「それでも、でございます。ご理解いただきとう存じます」
「ふむ、強情であるな。だが——」
御簾の上がる音がして、風の流れと共に気配が動く。
衣擦れと、雅やかな鈴の音が近付いてきて、影が落ち。
「余は、其方のそう言うところを好いておる。昔からな」
主上——美しき青年の尊顔が目に入る。
鼻筋が通り、知性を感じさせる面立ち。
髪は垂れぬよう冠に綺麗に収められている。
切れ長の瞳は多様な色彩が煌めいており、神秘的かつ
只人が目にすればたちどころに魅了されてしまうだろう。
「のう、
「……お
「其方に与えた任と、不老不死の事か。
確かにそれは、其方が犯した罪への罰。
しかし同時に、寵愛の証でもある」
顎から頬へ沿って、撫でられる。
その感触が
(——地獄のような生を与えておいて寵愛しているとは、よく言ったものだ。
普通、愛する者に苦痛を与えたいと思うか?)
愛しさ故に、成長を促すため試練を与える事はあるだろう。
だが、それにしても度が過ぎている。
(私ならば愛する者は、大切に、大切に。
慈しみ、愛で。苦しみから遠ざけたいと思うがなぁ……)
神と人。種の違いから来る思想の相違だろうか。
自分とは相容れぬ、と
「申し訳ありませぬ、主上。
……いえ、
「そうと知っていながら、今回も
「無礼とは存じていますが、性分にございます」
「まあよい。どうせ余から
「そんな日が来ることはない」と言い返したかったが、余計な事を口走るべきではない。
「他にご用件はございますか?」
「ああ、そうであった。今宵の
主上が腕を組み、期待に満ちた笑みを見せている。
「神命、賜りました。貴方様に捧げる舞、とくと舞って魅せましょうぞ」
と、承諾の意を返した。
そうして仕方なく、
厄を
その裏で、
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