第7話:ダンジョンマニュアル
ざっくりとだが、ダンジョンマニュアルについて読み終わった。内容についてはこうである。
二〇XX年初頭、突然ダンジョンと後日呼ばれるものが世界各地に出現した。出現理由は不明。ダンジョンからはモンスターと呼ばれるファンタジーでよく見る魔物が出現し、ダンジョンから一斉に出現を始めた。
いわゆるライトノベルではよくある設定、という奴らしい。その手の本は読まなかったので俺にはすべてが真新しく感じるがまぁそこはいい。とにかく生きてるうちに体験した内容が薄く、だが確実な文章として記されている。
陸には陸の、海には海の、空には空の……これはモンスターと一纏めに呼んでいる。それらが跳梁跋扈し、各国の経済を支えていた海路がまず消滅、資源を輸入に頼り切っていた国から音を上げ始めると同時に国内でも激しい戦闘が繰り広げられるようになった。人類とモンスターの戦いが主に国内情勢において書かれている。
都市部に現れたモンスターやダンジョンは自衛隊の協力により封鎖、消滅させられある程度の安定は取られているが、地方は散々たる有様。ごく一部の都市圏を除いてモンスターに完全に囲まれた地域は徐々に増え始め、悲鳴すら聞こえなくなってくる有様。
当然ながら電気やインターネットも徐々に寸断されていった。衛星通信に関しては今はまだ生きているらしく、送受信設備と発電の燃料が残っている地域に関しては、その地域がまだ生きていると知らせるためだけの施設と化し、それが徐々に減っていくことからその地域に住んでいた人々の声もまた届かなくなる。
日本の人口の内およそ半数の連絡が取れなくなった。絶対生活圏を死守しつつ徐々に生存圏を広げようという活動は行われているが、それを上回るペースのダンジョンとモンスターの発生に安全な所はほとんど存在しないという状況まで追い込まれている。
日本では東京・大阪・名古屋・福岡・仙台・広島・札幌といった七大生活圏以外の地域については生命の保証はされないとされ、地図上には絶対生活圏の文字が躍るようになり、日々一進一退の状況だ。
様々な資源を海外に依存していた日本ではあるものの、かろうじて大動脈である国道を自衛隊が防衛しつつの物資のやり取りはかろうじて続いている。しかし、これもいつ途切れるかの保証は出来ない。
そんな中、朗報とも言うべき話もあった。ダンジョン災害と同時にスキルと呼ばれる特殊な技能に目覚める人たちがいた。あるものは怪力を、あるものは俊足を、そしてあるものは無限の容量を持つ異次元に物品を収納する能力を。それらに目覚めた人たちとのモンスターとの終わりなき戦争がダンジョン災害からずっと続いている。
彼らのおかげで今かろうじて国が崩壊するのを防いでいると言っても過言ではない。
そして、魔石と呼ばれる新たな資源。モンスターは魔石と呼ぶ物質を体内に保有し、それを加熱するだけで電力に変換する事が可能であることが解った。それに探索者の能力も相まって、モンスターを倒して魔石を持って帰ってくる探索者の手によって今の日本の絶対生活圏での生存が保証されている。
日本は国家として出遅れたものの、探索者の調査とヘッドハンティングを開始し、優秀な物にはそれ相応の地位と権利、そして金を用意し、その代わりに命を賭けて現在の生活圏を守ってもらう事を最優先にしている状況である。
そんな中で問題になったのが「誰の命を優先するべきか」という命の選択だった。日本人として、日本国として、優先するべきは若者であり未来を繋いでいく、そして生存していくために必要な人的資源である。ただでさえ出生率が下がり気味であった若者には国が率先させるお見合いによる婚姻と出産、養育が半強制的に義務付けられ、ここに恋愛結婚という自由恋愛市場は崩壊した。
実際に自分を捨てた娘婿である純一もその中の一人である。娘である沙理奈とは半ば強制で結婚したものの、仲は悪くなく無事に孫も生まれ、もうすぐ三人目も……というところであった。
そして老人。最も命の軽いものとみなされ、新規の生命保険の加入はお断りされるほどにまで身分を落とされた。俺の生命保険がかろうじて下りるだろうと目されているのも、モンスターによる大量殺戮による保険申請の山により潰れていった保険会社が多々ある中で、生き残っている保険会社にダンジョン災害前からかけていた保険が未だに継続中であるという橋渡しの上で成立する内容だったからである。
やっぱり何事にも保険はかけておくべきなんだな。そう多額では無かったはずだが、その金のために養父を捨てる選択をするほど我が家は追い詰められていたということになる。もう家族には俺は死んだことにしておいてもらって、その少なくはないが多くもない金額を受け取って何とかこの世界を生き抜いてもらいたいと思うばかりだ。
ダンジョン災害について改めて思うところは、もっと初動で探索者の確保に回っていれば被害を少なくすることは可能だっただろうという予想ぐらいだろうか。より多くの探索者、より多くのスキル所持者を囲い込むことで絶対生活圏をあとほんの少しでも広げることが出来ていたなら。
しかし、探索者のスキルってのはどうやってわかるんだろうね。もしかしたら俺も持ってたりするんだろうか。いや、持っていたとしてもこの年でモンスターと戦うのは少々厳しい……と思っていたら、読み進めた次の項目に手が止まった。
モンスターは倒すことによって経験値のようなものがあり、一定数の経験値を稼ぐことでレベルアップ現象という身体と精神の強化がなされていく、という文面だ。
始めてゴブリンを倒した時のあの感覚はレベルアップだったのか。なるほど、確かにマツさんが言ってた通り、この本を読んでからのほうが色んな疑問が解消してスムーズな答えが出来るな。もうちょっと読んでみよう。
探索者はレベルアップを重ねることによって更に高度な技術を身に着けることが可能であり、戦闘に関わる全ての面において戦力としての質が高まる。また、体を悪くしていてもレベルアップを重ねることでそれを補っていくことも確認されている。これは俺の膝のことか。たしかに、二回レベルアップしているがそのたびに膝の痛みが和らいでいったことに間違いはない。
端的に言えば今の俺はレベル三ということか。レベルの上限があるのか、そもそも数値があるのかは解らないがまだまだレベルアップの余地があるということは解った。この調子でレベルを上げていくことが出来れば、若い頃の体力を取り戻すのも不可能ではないという事だろうか。
寿命も延びたりしないかな。せっかくコミュニティの末席に座らせてもらったのにあっという間に寿命ではなんだか申し訳ない。この老体、何か役に立つことに使ってもらいたいところだ。
一通り読み終えてふと気が付くと、一時間ほど経っていた。これだけ熱心に読みふけっていたのも珍しい。どうやらレベルというのは集中力にも影響するのかもしれない。
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