第5話:人との出会い

 次のモンスターを探してそのままダンジョンを歩く。歩いているうちに脳にも血流が程よく届くようになったのか、ちょっとずつ思い出してきた。ダンジョンと言うものには階層があり、ダンジョンによってその形も広さも深さも違う。このダンジョンが広くて深いかどうかは解らない。ダンジョンによって違うという話なのだから、ここが未発見ダンジョンの場合誰の手も入っていないはずだ、地図も無ければ階層も解らない。ついでに言えばここに来るまでのダンジョン外の道も覚えていない。わざわざ未発見のダンジョンを選んでここまで連れてきた純一のことだ、それなりに来づらい位置にあることは間違いはないだろう。


 さっきから同じ所をグルグル回っている気がする。とりあえず端っこを探すか。そこから壁沿いに進むことが出来たら何かしらの変化があるかもしれない。いわゆる右手の法則という奴だ。


 壁沿いに真っ直ぐ来ると、また巨大ネズミとの遭遇である。巨大ネズミが襲ってくるがさっきよりもゆっくりに見える。これはネズミが遅いのかそれとも俺が速くなったのか。体が楽になった分ゆっくりに見えているだけかもしれない。


 ネズミの飛びつきに対応して、ネズミが過ぎ去る予定の場所に十徳ナイフを置いておく。ネズミはそのまま十徳ナイフに切られて後ろへ飛んでいく。後ろへ行ったのを確認するとトドメ。南無阿弥陀仏。


 ゴブリンは明らかにこの世の者ではないので何とも思わないが、現実に実際に居るネズミについてはちょっとまだ罪悪感が湧く。その為、止めを刺す際には一念してから止めを刺すことにする。


 石っころを拾う。しかし、この石っころにはどういう効果があるんだろうな。落とす以上何らかの価値があるんだろうが……今のところ、と言うか今世では使わないものかもしれないな。念のため持ち歩いているが、邪魔になってきたらその場に捨て置くことにしよう。今はまだまだ荷物に余裕があるし、いわゆるレベルアップのおかげで背中の荷物も今は軽く感じている。このままの状態で家に帰れるならきっと荷物になることなくきびきびと毎日を過ごせるんじゃないだろうか。


 ……そう考えるということは俺まだまだ現世に未練があるらしい。一日二日と言わず、もう少し長生きしてみるのも面白いかもしれんな。その為にも必要なのは水だ。これだけは何としても確保しなければいけない。喉が渇いたので唇を濡らす程度だが水を飲む。貴重な水だからといって節約できるわけではないが、渇きを潤す程度にちびちびと飲めば効率よく水を消費していけるだろう。


 しばらく進むとゴブリンが三匹いた。運良く気づかれていないのでそっと過ぎ去る。今の俺の手持ちでゴブリンを三体相手にするのは難しいだろう。そのまま静かに去ろうとしたときにそれは聞こえた。


「いたぞ、ゴブリンだ」


 人の声がする。どうやら探索者って奴が偶然にも居たらしい。これは外に出ることも可能になるかもしれん。ゴブリンを倒すみたいだから倒し終わった後に声をかけてみよう……ん?


 探索者達の顔ぶれを見る。どう見ても自分と同じぐらいか、自分より上か。後期高齢者の集団がゴブリンと戦い始めた。探索者という新しい仕事にしては平均年齢が高すぎる。もしかして探索者ってのは年寄りを効率よく減らすための方便なのだろうか。いや、それにしてはみんなにやる気がみなぎっている。とりあえず観察だ。よく動きを見て本当に探索者なのか、それとも俺と同じようにダンジョンに捨てられた人たちなのか。それを区別していこう。


 手慣れた様子の探索者らしき集団は一人がゴブリンうちの一匹の気を引き付け、一人がもう一匹の攻撃を受け止め、残りの一人が最後のゴブリンへの攻撃に回る。三人組でそれぞれの戦い方でゴブリンを戦っている。天地人って感じがする。


 手早い攻撃で一匹目のゴブリンを仕留めた男性が次の攻撃へ回る。するとゴブリンを引き付けていた一人が反撃に回った。どうやら、攻撃力を有しているのは二人らしい。ゴブリンの気を引き付けていた一人は決定打になる攻撃を有していないらしい。そのためにゴブリンの攻撃を引き付けて、確実に倒せる力を持った、槍を持っている人の手が空くまで攻撃をゆるりと避けるという戦い方に回ったようだ。


 槍持ちが二匹目のゴブリンを倒す。盾持ちの人は盾でゴブリンを殴りだした。どうやら一対三になって確実にゴブリンを倒せる姿勢になるまでゴブリンの攻撃を受け続ける役割に終始していたらしい。とても統率が取れている。探索者と言うのはこんなに連携がうまく行くものなのだろうか。


 三匹のゴブリンを倒し終わった探索者達がゴブリンの石っころを拾って次に向かって進もうとしている。声をかけるなら今だ。


「あの、すまない、ちょっといいだろうか」


 声が思わず裏返るが、さっきみたいな立派な戦闘を見た後だから仕方ないだろう。三人はこちらを振り向く。そして三人が顔を見合わせる。


「もしかして、外から来た人か? それとも探索者か? できれば前者であってほしいが」

「え、外? 探索者、ではないけど。はい、そうです、外から来た人、です」


 思わず畏まってしまう。どういう意味だろう、探索者も外から来た人、じゃないのか?


「だったら早いうちに連れ帰ったほうが良いな。保護するにせよ外に出るにせよ、そろそろ危ない時間だわ」

「もうそんな時間かい? じゃあ急いだほうがええな。大名行列に巻き込まれたらわしらも助からん」


 大名行列という聞きなれない言葉に戸惑う。ダンジョンには殿様が居るのか?


「探索者にせよ迷い人にせよ、生きてるなら保護せんとな。探索者じゃったらちょっと辛い目にあってもらわないかんかもしれんが、どうも見た感じ装備もないしええ歳じゃし、迷い人で間違いないじゃろ。あんた、行くとこないんと違うか? 」

「行くところが無い……たしかにそうかもしれん。とりあえずあんたたちの言う通りなら、急いで何処かへ逃げるのが一番良さそうだ。話はその時でもええかな? 」

「もちろんじゃ。ついておいで、まずは退避じゃて」


 そのまま言われたとおりに三人組に付いていく。ダンジョンのおそらく奥のほうだろう。どんどん進んでいき、三十分ほど歩き続けたところで階段にたどり着いた。


「ここまで来たらもう少しだ、がんばりんさい」


 応援されながらもここまで歩き続けたが、正直クタクタだ。早く休みたいというのが第一声だが、彼らの言う通りならばまだここは危険な場所らしい。


 そのまま階段を下り、階段を下りたところで横道にそれていく。そうして更に十分ほど歩いたところで俺は町に着いた。


 ……町?

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