幕間
受話器を叩きつけて、空人は大きくため息をついた。
まさか、春海がそこまでのじゃじゃ馬だとは思っていなかった。
「まぁ、巻き込むだろうな、と思いながら送り出したのは俺の責任だからな。それも踏まえて何とかするさ」
背もたれに体重をかけて、両手を組んで天に伸ばす。体側を右左と順に伸ばした空人は、もう一度、大きくため息を吐いた。
「さて、とりあえず、やれるべきことはやっておきますか。一般人を連れて移動できる範囲なんて限られているだろうし、仮に電車で移動しても一駅二駅が関の山。何せ、氷室氏は今日の待ち合わせた店と同じ市に住んでいるからな」
必然、遠くに行こうとは相手も強くは言えない。その提案が出た時点で、氷室氏は住所をバラすだろう。
それならば、考えられるのは徒歩圏内からあってもバスで移動できる範囲。
そこまで考えて、空人は考えることを止めた。
「馬鹿らしい。いつまで俺は
タブレットで今日の予定に入っていた店の住所をチェックし、それをスマホの地図検索にかける。数秒で現在地からのルートが表示されたのを確認して、空人はタブレットを机に仕舞って鍵をかけた。
空のコップをカウンターにおき、ドアへと向かう。
「いや、これ使うのほんと疲れるんだよな。ただでさえ婚活相手探しに利用してるんだ。もう少し、休ませてくれって……」
そう言って親指と人差し指で目頭辺りをマッサージする。
「この時間から『犯行』に及ぶとは思えない。チャンスは一度、現場を抑えて、氷室氏の安全を確保すると同時に拘束する。どんなに遅くともタイムリミットは――――日没後一時間と見た」
扉にかかった木札を閉店にして、空人は施錠する。ドアノブを何度か動かして鍵がしっかりかかっていることを確認すると、ゆっくり階段を上り始めた。
「まぁ、今回のバイトはなかなか優秀みたいだから、何となく行きそうな場所の目星はついているっぽいんだよな。問題は市内のどこか、だ。変に氷室氏が気を変えてしまったら、それすら追えなくなるかもしれない。まずは、できるだけ早く現場に行くのが最善だろう」
最後まで上り屋上へと辿り着いた空人は小さく呪文を唱えた。
「――――じゃあ、手っ取り早く。俺を認識できないようにして、全力ダッシュだ!」
とてもコンクリートを人間が蹴ったとは思えない重い音が響いたかと思うと、空人の体がボールを投げたかのように空中へと飛び出した。
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