3.新たな出会い?


 絶望していたコリンナは、いつの間にか寝てしまったようだ。泣き顔を隠すために入った路地裏で、何かに寄りかかっている。

(……ん? 温かい??)

 肩から男ものの上着を掛けられていたコリンナは、大通りに面する方の影を見る。

「やあ、起きたみたいだね」

「えっと……」

「ああ、ごめんね。急におれみたいな大男が隣にいたら驚くよね」

 物腰が柔らかい男性は、それでも大通りに面する場所から動かない。恐らく、人目からコリンナを守ってくれているのだろう。

 コリンナは慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「あ、ありがとうございました」

「うん。顔色も良くなったみたいだ。もう大丈夫かな?」

「は、はい」

「それなら良かった。家はどこ? 送るよ」

「あ、いえ……その、今日首都に来たばかりで、帰るところがないんです」

「そうか。それなら、女の子でも安心して泊まれる宿を案内するよ」

 男性が立ち上がった。コリンナとは、頭一つ分くらいの身長差がある。思わず見上げたコリンナは、澄んだ青空のような瞳に既視感を覚えた。

(初めて会ったはずなのに、どこかで会ったような……)

 じっと見てしまった。するとどこか照れるように、男性が頬をかく。

「おれの顔に何かついているかな?」

「あの、あなたに妹さんはいますか」

「妹はいないね。弟が一人いるだけだよ」

「そうなんですね……」

「疑問は晴れた? 宿に案内するよ」

「あっ、その……今、手持ちがなくて」

「そうなんだ? あれ、でも今日首都へ来たなら、お金はあるんじゃ?」

「えっと……」

 初めて会う人に金の無心をするのはどうだろうと思う。しかし、背に腹は替えられない。

「あの、出会ったばかりで大変申し訳ないのですが、十日間馬車に乗れるお金を貸してくれませんか? 村で働いて、必ず返すので」

「何か、事情があるみたいだね?」

 優しく、包み込むような言葉遣い。表情からも、コリンナを心配しているとわかる。

(お金を借りたいのなら、わたしも事情を隠さずに言わないと)

 誠実であるために、コリンナはトルステンとの間であったことを話した。

「へえ……」

 ぐっと、急激に周囲が冷えた。コリンナを安心させるような声音だった男性は、一睨みで全てを凍らせるような雰囲気になっている。

 そういえば、新人が入るって言っていたな。

 そう呟く男性は、何かどす黒いことを考えていそうだ。

「あ、あの、それでお金は貸してもらえるのでしょうか」

「ああ、それはちょっと待って。とりあえず場所を移動して、傷の手当てをしよう」

「傷?」

 コリンナが首を傾げると、男性は自分の頬を指差すことでコリンナの傷の場所を教えてくれる。トルステンを追って警備の人間に追い出されたときにできた傷だろう。

 男性が歩き出し、コリンナも追った。路地の奥へ進む男性は、取っ手のすぐ上にRと光る文字がある扉の前で止まる。

「ここから行くよ」

 鍵を開けて中に入った男性は、入ってすぐの所にある小さな部屋にいた人に、何か伝えたようだ。紙に書かれていた内容は、綺麗な字で夕食二人分と手当セットとあった。

 男性は木目調の長い廊下を歩き、居住空間と思われる扉を開ける。鍵はかかっていない。恐らく、路地裏の扉の先から居住空間になっているのだろう。

 コリンナは男性に案内され、土がついてしまっていた顔を洗った。

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