2.現実の厳しさ
コリンナはトルステンを追った。しかし、警備の人間に止められ道に捨てられる。頬に痛みを覚えながら何度挑戦しても、だめだった。
トルステンとは幼馴染みだ。しかし、それ以上の関係だと思っていた。
「トルちゃん……どうして」
項垂れるコリンナを、パッと何かが照らした。それは、巨大な
(……この人が)
十日間の馬車旅の中で、トルステンの話の内容の、ほぼ全てがローズだった。ローズも、DBBHに所属しているらしい。だからスカウトに応じたと。
(こんな人だったなんて……)
透き通るような白い肌。美人とかわいいが同居しているような顔立ち。ぶかぶかの服を着ているところが、逆に下を暴きたくなる。と、コリンナの周囲の人達が言っていた。
コリンナは、恋敵に完全敗北だ。ローズのように煌めく金髪ではなく、茶髪を三つ編みにして手入れが行き届いていないことを誤魔化している。肌もそばかすが多く、瞳だって赤混じりのオレンジだ。ローズのように澄んだ空のような色じゃない。
(……胸は、同じくらいだと思うけど)
魔水晶板に映し出されるローズは、服に余裕を持たせているからわかりづらいが、コリンナと胸の大きさはほとんど変わらない。
(顔、かぁ……)
産まれ持った顔は変えようがなく、コリンナは魔水晶板の前から離れる。
勘違いをしていて恥ずかしいが、村へ戻ろう。そう思ったコリンナは、馬車の停留所へ行く。村までの料金を払おうとして、お金はトルステンの鞄に入れていたことを思い出した。
(……うーん。村ではトルちゃんのために野宿もできたけど、こんな都会じゃ無理だよねぇ……)
トルステンが夜這いされないように、朝の支度をすぐ手伝えるように、トルステンの家の前で野宿をしていた。しかし、今のトルステンは警備が厳重な場所に住む。コリンナが警戒する必要はないし、ただの幼馴染みには何もできない。
馬車で十日の距離。徒歩で帰るのは無謀だ。というか、お供をつけずに野生の獣と相対するなんて、死にに行くようなもの。
(いっそ、死んじゃおうか。トルちゃんにわたしは必要ないみたいだし)
コリンナにとって、トルステンが全てだった。だから、トルステン以外はどうでもいい。
(……待って。トルちゃんはDBBHに入ったんだよ?)
停留所の魔水晶板に、先程とは違うローズが映し出されている。ローズの顔は目を引く。トルステンの容姿だって、すぐに人気が出る。それなら、魔水晶板にトルステンが映るのもすぐのはずだ。
(うん。やっぱりわたしは死なない。首都に残って、トルちゃんの活躍を見守ろう)
生きる決意をしたコリンナは、早速仕事を探し始めた。
現実は厳しい。
首都ではなく小さな魔水晶板を購入するため村へ戻ろう。恥を忍んで、トルステンに帰りの馬車代を出してもらおうか。そんな気持ちで、トルステンを出待ちした。
「っ、トルちゃ……」
出てきたトルステンは、色気が爆発している美女と歩いてきた。その美女にまるで恋人のように甘える姿を見て、ふらふらと後をついて行く。そして判明する、トルステンの好み。
「カティアさんみたいに、年上で良い体の人がマネージャーで良かったー。カティアさん、マジ俺の好み」
「これからは、外での言動に気をつけなさい。トルステンはすぐに女の子からの人気が出るんだし。聞いたわよ? 一緒に来てくれた子を放置したって」
「だって、しょうがなくない? 俺にとってあいつは母さんみたいなもんだし、そんな相手に性欲なんて湧かないっしょ」
トルステンの発言を聞き、コリンナは、自分は捨てられたのだと理解した。
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