蠍とオナガザメは黙然された
@bigboss3
第1話
1985年の大西洋の深海にロバートは調査艇を使い、機密任務に従事していた。彼は伝説の豪華客船、タイタニックを探していた。というのは建前で実は軍の極秘任務を帯びていた。それはアメリカが失った二つの潜水艦の潜水調査を命じられていた。
もちろん彼の目的のタイタニックも本命なのだが、軍からすればついでにタイタニックを調べていいとのことだった。
「タイタニックを調べたい。その費用を出してほしい」
ロバートは自分の夢を海軍に頼み込んだが、海軍は彼の頼み込みを一蹴した。
「何を言っている。今我々はタイタニックを調べている場合じゃないのだぞ」
この時代はまだ東西冷戦の末期。海軍に何の益もない海洋考古学に出す金などなかった。
しかしロバートは食い下がりある取引を持ち掛けた。
「それなら、海洋研究所の潜水艇が搭載するカメラなら何か秘密任務を行えるがどうですか?」
それを聞いた海軍上層部は考え込んだ。そして、思いついたかのようにロバートに任務を伝えた。
「よし、なら、我ら海軍が失った原子力潜水艦のスレッシャーとスコーピオンを調べてこい。その代わり、時間が余れば〝ついでに″タイタニックを探してもいいぞ」
それを聞いたロバートはやったと思った。極秘任務付きだがタイタニックを探すための費用が下りた。
こうして、彼はタイタニックとスレッシャーとスコーピオンを探索しに大西洋の海に乗り出していった。
バラードはタイタニックを調べる前にスレッシャーを調べることにした。当然だが皆には内緒で。
ソナーで聞こえた凄まじい音の場所をもとに海底を調べる。しかし、スレッシャーはなかなか見つからない。
水中カメラで海底を映していると何か人工物のようなものが見えた。
「なんだ、これは?」
ロバートは首をひねりながらその帯の後をついていった。すると進むごとに帯は大きくそして増えていき、それは徐々におおもとに向かっていく。そして彼の目の前に見たこともないグシャグシャになった鉄の塊が海底で深海魚の漁礁になっていた。
「まさか、スレッシャーなのか」
ロバートは息をのんだ。元は海軍の出身だった彼は、戦後の潜水艦がどんなものかは知っていた。
しかし彼が目の前の鉄の塊を見た時、それが自分の知っている船には到底思えなかった。
その時、彼の脳裏によぎったのはスレッシャーの最後の様子だった。
どこかで浸水が起き、水止めが間に合わず、原子炉が止まり、非常用バッテリーも底をついた。その時百数十人の乗組員がよぎったことは、自らの最後と向き合うことだった。
そしてスレッシャーの最後は一瞬かつおぞましいものだとロバートは考えた。
圧壊深度を超えた時、丈夫勝つ特殊な金属と形状をしていた潜水艦はまるで素手で空き缶をつぶすように所々へこみ、最後にはソナー員の耳が割れるほどの凄まじく、えぐい音を立てて一瞬でつぶれたに違いないと考えた。
そして、一つの塊だった船はつぶれた拍子に複数の残骸となり、軽いものほど潮に流されて、帯状になって散らばっていった。
その最後を想像したときのロバートは身震いを感じるに十分すぎた。
しかし、これで海軍に要求された一つ目の任務は終わった。彼は本来のタイタニック探しに向かった。
だが、調査船のみんなはこの時焦りの色がった。この時点で彼ら以外にもタイタニックを探している
あの世界一有名な客船を見つければ考古学的にも世界的にさまざまな名声を得ることができる。そしてロバートの不安は衝撃に変わった。
なんと、テキサスの石油王が派遣した調査団がタイタニックの残骸を見つけたと発表したのだ。
ロバートは苦虫をかみしめる思いでその発表した写真を見た。しかし、その写真はロバートを安心させた。
「よかった、これは船の残骸じゃない」
「じゃあ、これは何なのですか」
「ただの石だよ」
ロバートの言葉を聞いた乗員たちは、みんなよかったと思ったに違いない。
もっともテキサスの石油王からしてみれば世紀の大発見だと思っていたものが石だったとなると顔に泥を塗る結果だったことは想像に難くない。
もちろんこれはロバートにとっても喜ばしいことばかりではない。今でこそまだタイタニックを発見していないが、ライバルはたくさんいる。しかし、だからと言ってもう一方の潜水艦スコーピオンの探索を疎かにすることもできない。
ロバートは探したい思い心の中で押さえつけながら仲間に言った。
「他を探してみないか」
ロバートは何気なく同僚に喋った。同僚は不思議に思いながらも他をあたることにした。勿論ロバートの任務を知る由もなかった。
ソナーが最後に見つけたという場所に着いた。ここでスコーピオンは消息を絶っている。バラードはどこかに手掛かりがないか調べる。するとスレッシャーの時と同じように破片が帯状になって散らばっているのが見えた。
「これは潜水艦の物だ」
ロバートはその帯を伝ってみると案の定潜水艦のものとみえる残骸が見つかった。残骸では所々、錆氷柱が形成されていて、二十年経っているとは見えなかった。
「これも潜水艦なのか?」
調査員の一人が口を開く。
「恐らく、これは米軍のスコーピオンだろうな」
そういってロバートは沈没原因が何かを調べた。勿論周りの乗組員に悟られないように。
『残骸が反転している。魚雷が誤作動を起こしたのか』
そう思ったロバートは船首を調べたが推測とは違った。
『魚雷室は無事だから不完全(ホット)爆発(ラン)を起こしていないな』
ホットランは魚雷が誤作動を起こした時に熱くなるために作られた言葉だ。現在ではスコーピオンはホットランを起こしたために反転して、魚雷の安全装置を動かして止めようとしたが間に合わなかったがうまくいかなかったかのどちらかで、その魚雷が爆発して沈没したと有力視されている。
しかし、ロバートが探索した時、魚雷室は破壊されていなかった。むしろバラバラの船体の中で一番きれいなほうだった。
『ということはごみ捨て部の浸水か、スクリューのシールがヘタったかのどちらかだな』
そしてスコーピオンが踏査していたと言われる核魚雷も探したが、どこを探しても見つからなかった。
東側が探索して引き上げた後もなかったため、少なくとも魚雷室に残っているとロバートは推測した。
こうしてロバートは二つの潜水艦の調査という機密任務を終えて、本来の豪華客船探索にすべてを注ぐことになった。
「しかし、どこを探せばいいのか。あと8日しかないのに」
そう頭を抱えた時、スレッシャーとスコーピオンの残骸がヒントを教えてくれた。
「そうだ、タイタニックは真っ二つに折れたと生存者が言っていたな。もしバラバラになっていたら、帯状に散らばっているはずだ」
そうだ、あの潜水艦は教えてくれた。ただ障害になっていただけではなかった。見つけるためのヒントを教えてくれた。
「なあ、ちょっと提案があるのだが」
「なんです?」
「タイタニックそのものを見つけるのじゃなくってタイタニックがまき散らした残骸の帯を探してみないか」
「しかし、なぜ残骸の帯なのですか?」
「まあ、私の感なのだが……」
ロバートはそう言ってはぐらかした。さすがにスレッシャーとスコーピオンのおかげだとか、軍に調べてくれと頼まれたとは口が裂けても言えなかった。
そしてこの考えは後に世紀の大発見につながる。
「おいロバート来てくれ」
職員に呼ばれてロバートは急なはしごみたいな階段を下りてみんなが食い入るように見るカメラからの映像を見た。
「見ろ、ボイラーだ」
みんなの一言で世界は衝撃を受けた。それは紛れもなく船に使う煙管式ボイラーの一つがテレビの画面に映し出されていた。
それはタイタニックがこの近くにあること指し示すことになった。
そしてロバートの推測通りタイタニックは二つに折れて、そして大量の錆ができていた。
船首は比較的いい状態で残っていたが、船尾は無残に叩きつけられて無残な姿になっていた。
それはロバートの想像以上に状態が悪かった。
発見から数日後に記者会見が行われた。ロバートはタイタニックの状態を記者たちに説明した。
しかし、その中で彼はタイタニックの探索の裏で失われた2隻の原子力潜水艦の探索任務については語ることがなかった。
彼がその極秘任務について語ることができたのは発見から二十数年後のことだった。
蠍とオナガザメは黙然された @bigboss3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます