第3話「赤き誘い」



病室の空間が、デジタルフィールドへと変容する。零と翔子の間に、バーチャルの戦場が広がった。


「私の条件はシンプルよ」翔子は5枚のカードを展開する。「勝負に勝てば、あなたの自由は保証する。負ければ、サイファーに加わってもらう」


「では、俺からも」零は1枚のカードを掲げる。「勝った場合、妹の治療費の件も含めて、全てを説明してもらいたい」


「同意するわ」


デジタルフィールドが輝きを放つ。しかし、その瞬間だった。


「素晴らしい光景じゃないか」


低く響く男性の声。病室のドアが開き、深紅のスーツに身を包んだ男性が拍手しながら入室してきた。


「ネオコード社開発部長、赤城慶一です」


翔子の表情が一瞬歪む。「あなたが、直々に?」


「これは放っておけない才能だからね」赤城は零を見つめる。「君のような存在を、我々は長年探していた」


デジタルフィールドが不安定になり、ノイズが走る。翔子が睨みつける。「干渉してくるつもり?」


「いや、むしろ逆だ」赤城は腕時計型デバイスを操作する。「より純粋な環境を提供しよう」


瞬間、病室全体が最新鋭のデジタルスペースへと変貌した。三次元ホログラムが空間を埋め尽くし、まるで異世界のような光景が広がる。


「さあ、存分に力を見せてもらおう。霧島零君」


「待ってください」


か細い声が響く。美咲がベッドから身を起こしていた。


「お兄ちゃんを...お兄ちゃんを、実験台にしないで」


「美咲!」零が駆け寄る。


「興味深い」赤城が美咲を見つめる。「君も、同じ力を持っているのかな?」


その言葉に、零の表情が変わった。「妹に近づくな」


「取り引きをしよう」赤城は穏やかな笑みを浮かべる。「ネオコード社の最新医療技術を、妹君に提供しよう。代わりに、君の力を我々に貸してもらいたい」


「零、決して受けてはダメよ」翔子が警告する。「彼らの目的は——」


「分かっています」零は静かに答えた。「だからこそ」


零はデッキを掲げる。カードが青く輝き、デジタル空間に波紋が広がる。


「両者の戦いを見届けた上で、決めさせてもらいます」


赤城が小さく笑う。「面白い選択だ。では、ショーの始まりと行こうか」


美咲が祈るように両手を胸に当てる中、零と翔子のカードが光を放った。運命を決める戦いの火蓋が切って落とされる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る