第2話「デジタルハンター」
「お兄ちゃん、また徹夜だったの?」
病室で美咲が心配そうに零を見つめる。窓から差し込む朝日が、彼女の青白い頬を優しく照らしていた。
「大丈夫だよ。いい仕事が見つかってね」
零は微笑みを返したが、その瞳は疲れを隠せていなかった。昨夜の不思議な出来事以来、彼は自分の能力の解明に没頭していた。デジタルカードのコードを自在に操る力——その正体は何なのか。
「私のことで無理しないでね」
美咲の言葉が胸に刺さる。しかし、その時だった。
「霧島零。そこで時間切れだ」
凛とした女性の声が病室に響き渡る。振り返ると、すらりとした黒髪の女性が腕を組んで立っていた。九条翔子——デジタルハンター集団「サイファー」のリーダーだ。
「どうやってここが分かった?」
「あなたが昨夜残したデジタル痕跡を辿っただけよ。素人のコードは、まるで光る足跡のようなものだから」
翔子はスマートフォンを取り出し、画面をフリックする。病室のモニターが瞬時に反応し、昨夜の対戦映像が再生された。
「システムを書き換える能力。私たちサイファーが追い求めてきた力を、あなたは生まれながらに持っているようね」
零は美咲の前に立ちはだかる。「妹には手を出さないでもらいたい」
「取り引きよ」翔子は静かに告げた。「あなたの力を必要としている。そのかわり、妹さんの治療費は全て私たちが負担する」
「何故、そこまで?」
「ネオコード社——あの企業が世界で企んでいることを、あなたは知らない。デジタルカードは、ただのゲームじゃないのよ」
翔子の表情が険しくなる。「人類の意識すら操作可能なシステムへと、着々と進化を遂げているわ」
「嘘だ」零は即座に否定した。「そんなことが、どうやって」
「証拠ならある」翔子は腕時計型のデバイスを操作する。「これを見て」
投影された映像に、零は言葉を失った。そこには、デジタルカードによって操られる人々の姿があった。まるで操り人形のように。
「お兄ちゃん...」美咲が零の袖を掴む。
「選択肢は二つ。私たちと共に戦うか、それとも...」翔子がデッキを取り出す。「ここであなたを排除するか」
病室の空気が凍りつく。零は妹の手を優しく握り、ゆっくりと前に進み出た。
「デュエル」零は静かに告げる。「勝負を受けよう。ただし、私の条件もある」
「面白い」翔子の唇が微かに歪む。「聞かせてもらおうかしら」
窓の外で、春の風が桜の花びらを舞い上げていた。戦いの幕開けを告げるように。
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