『コードブレイカー∞(インフィニティ)』 -Twin Hackers Rising-

ソコニ

第1話「コードの囁き」




渋谷の地下、非公式のデジタルカード対戦場。薄暗い蛍光灯の下、霧島零は首筋を走る冷たい汗を拭った。


「このままじゃ、今月の治療費も払えないな」


妹・美咲の病室に飾った向日葵の画像が、スマートフォンの画面に浮かぶ。零は歯を食いしばり、懐から最後の一枚のカードを取り出した。


「次の対戦者、来ましたよ」


場内アナウンスが響く。対戦相手は、高級スーツに身を包んだ中年男性。その手には、最新のデジタルデッキが輝いていた。


「ほう、君か。賭けは10万でいいかな」


男は軽く微笑む。その表情に、幾つもの勝利を重ねてきた余裕が滲んでいた。


「...承知しました」


零は静かに頷く。たった一枚の基本カードを、対戦台にセットした。


「デュエル、スタート!」


ホログラムが展開され、バーチャル空間が二人を包み込む。相手は次々と強力なカードを展開していく。攻撃カード、防御カード、補助カード。全て最新のものばかりだ。


「終わりだな。これで君の最後の一枚も消えることになる」


その時だった。零の視界に、不思議な光が走った。カードのデジタルコードが、まるで生きているように見える。データの流れ、システムの構造、全てが透けて見えた。


「これは...」


零は直感的にコードの意味を理解した。指先が勝手に動き、基本カードのパラメータを書き換えていく。


「な、何だと!?」


相手の高級カードが、次々とエラーを起こし始める。零のカードから放たれる不可思議な波動が、対戦システム全体に干渉していた。


「システムエラー検知。対戦を中止します」


警報が鳴り響く中、相手の全カードがシャットダウンした。


「バグか?いや、これはシステムへの直接干渉だ」


動揺する相手をよそに、零は静かに勝利画面を見つめていた。10万円の賞金が口座に振り込まれる通知が点滅する。


しかし、それ以上に零の心を揺さぶったのは、たった今経験した不思議な現象だった。デジタルの世界に直接触れ、書き換えることができる——この力は、何を意味するのか。


「美咲、もう少し待っていてくれ」


零はスマートフォンに映る妹の笑顔を見つめ直す。そこには、希望の光を取り戻した瞳が、優しく微笑んでいた。


しかし、零は知らなかった。この日の出来事が、やがて彼の人生を、そして世界を大きく変えていくことになるとは。


薄暗い地下道を歩きながら、零のスマートフォンに小さな警告が表示される。


「不正アクセス検知:追跡プロトコル起動」


それは、戦いの始まりを告げる最初の合図だった。



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