第3話 育成には、トラブルがつきものなり。

赤ん坊が光った。

目の前が見えなくなるほど、眩い光に包まれる。


何が起こったのか一瞬分からなかったが、光が収まってくると、光の中から仁王立ちする少女が現れた。


そして、少女は目を開けると幸の方を見て呟いた。

「これで、ようやく、はなしぇましゅね。」

テレパシーではなく、言葉で伝えてきた。

よく見ると、赤ん坊の身体の所々が先程までと比べると少し違う。


髪の毛は、光る前に比べると若干多くなっており、顔の形などもしっかりと造形ができ始めていた。


「お、お前!!なんか見た目が少し変わったぞ?もしかして、ほんとに成長したのか?!」


幸は、赤ん坊に疑問を投げかける。


「はぃ。わたちは、きゅうきょ、このほしに、てきおうした、からだをつくられまちた。みためは、もとのからだとおなじでちゅが、こうぞうが、あなたがたとほぼおなじなのでちゅ。そして、このからだは、あなたがたとはちがった、うまれかたをしているため、もとのからだとどうとうのねんれいに、そくせいちょうするのでちゅ。ちなみに、わたしのねんれいは、あなたとおなじでちゅ。」



(なるほど。)

幸はカタコトの赤ん坊の言葉を聴きながら、クリオネの説明を思い出す。

同年齢にすぐ成長するということは、そこまで手がかからないのではないか?又、1ヶ月程で宇宙船が修復されるのであれば、1ヶ月耐えれば、この悪夢のような状況も、もとの平穏な生活に戻るのではないか?


幸はそのような事を考えて、少し安堵した。

(それなら、やってやろうじゃねぇか!俺に神様が与えた最初で最後の試練だな!これはきっと!乗り越えてやるよ!!この赤ん坊の世話と平穏な学生生活!どちらも両立してみせる!!)


状況を改めて理解し、気持ちを新たに決心をした。


「よし、わかった。君の言う事とこの状況は全てわかった。わかった上で、俺から提案だ。俺は、これから君の事を責任もって世話をしよう。だから、君は成長して、宇宙船が治ったらすぐに自分の星に帰るんだ。いいな?」


幸は、赤ん坊の目を見て提案をした。

すると、赤ん坊は嬉しそうに顔を笑顔にして答えた。


「はぃ。ありがとうございまちゅ。よろちくおねがいいたちまちゅ。」


「交渉成立だな!」


こうして、2人の奇妙な生活は始まり、竹取幸の波乱万丈な育成生活が幕を開けたのだった。



そして、そのままその日の夜が明けた。


幸は、早朝に朝日を浴びながらボーッと外の窓を眺めていた。彼の目の下には若干のクマが出ている。


昨日の夜の話だ。

早速2人は、その日は深夜という事もあり、とりあえず眠ようという話になった。


幸は歯磨きをして、ベッドで寝ようとしてベッドで横になっていた。

その頃赤ん坊は、フラフラしながら、よちよちと部屋の中を少しずつ歩いて見回している。

幸の意識がどんどんと薄くなっていくと、遠くの部屋で大きな物音が鳴る。


バターンッ!!!


幸は、その音にびっくりして目が覚めた。

何が起こったかと驚いていると、その物音が起こった場所から大きな泣き声が聞こえてきた。


「うあぁぁぁん!!!いぢゃいよおぉお!!!うあぁぁぁん!!!うぁぁぁあぁぁん!!」


泣き声は次第に大きくなっていく。

幸は、焦りつつすぐに向かうと、赤ん坊がその場で倒れて大泣きしていた。

恐らく、その場でよちよち歩いていた所、歩き始めたばかりだった為か、赤ん坊はその場につまづき、盛大に顔からコケていたと見られる。


「おい…?大丈夫か…?つコケたのか?」


幸は赤ん坊に問いかける。


「うあぁぁぁん!!!いだいよおぉ!!おかおばんって!!うぁぁぁんんん!!!」


赤ん坊は、赤ん坊だった。

精神年齢がとても同い歳とは思えない状態だった。

見た目と行動がどう見ても年相応なのだ。

全く泣き止むような兆しが見えない為、幸は、またどうにかしないといけないと踏んだ。


「なにやってるんだよ…。同い歳だろ…?こちとら明日も学校あるんだぞ…寝かせてくれよ…。」


幸はそうつぶやくと、携帯を開いて、赤ん坊のあやしかたを調べた。


「えーっとなになに、優しく抱っこしてあげて、背中をトントン、すこし揺すってあげるのがいい?」


書いてあることをとにかく鵜呑みにして、目の前で泣いている赤ん坊に実践してみることにした。


「よーしよしよし。痛くないからねー!よしよし!」


トントンと背中を優しく叩きながら赤ん坊を抱っこしてゆすった。

すると、さっきまで大泣きしてた赤ん坊が泣き止んでグスングスン言いながら、落ち着きを取り戻してきた。

幸はその様子を見て、安心する。


「グスン…ごめんなちゃい…。どこでねちゃらいいか…わかんなくて…。さがしてたら…つまずいちゃった…」


落ち着いた赤ん坊は、幸に目をウルウルさせながらつぶやく。

幸は赤ん坊を見ながら黙って聞きつつ、赤ん坊に話しかける。


「別に怪我とかしてないんだろ?じゃあ、よかった。というか、同じ歳なのに、本当の赤ん坊みたいに泣いてたからびっくりしたよ。」


赤ん坊は、それを聞いてすこしモジモジしながら呟く。


「からだが、おさなくなるちょ、こころとたまちいもおさなくなるみたいなにょ。。たぶん、からだにこうおされて、なっちゃうんだとおもうにょ。だから、わたちが、かんぜんにせいちょうするまでは、ほぼからだのねんれいとおんなじとおもってほちいの。」


どうやら、この宇宙人は、人間の身体を地球の環境に合わせて作ったらしいが、赤ん坊として、再構築されると、精神年齢も身体と同じ状態になるようだ。


(記憶とかはあるけど、普通の赤ん坊と同じってことなのか…?じゃあ、ある程度デカくなるまでは常に目の届くところに置かないと怖いな)


幸は、抱きかかえた赤ん坊を自分の寝ているベッドに連れて行って横にした。

シングルの普通のベッドだったが、赤ん坊と自分であればなんとか寝れると考えたのだ。


「悪かったな、俺は寝相が悪くないからここで寝ていいよ。隣で寝てるから。何かあったら言ってくれ。」


幸はそういうと、横にした赤ん坊の隣で横になり、目を閉じた。

すると、5分後、横になっていた赤ん坊が突然幸をゆすりはじめた。


「さち…。さち…。ねんねできない…。まっくらでこわい…。さちおきて…。」


赤ん坊にゆすられつづけ、半分寝かけつつも、

幸は、重い体を起こして部屋の電気を付けた。


「これでいい…?明るかったら怖くないだろ…?」


そういうと、また幸は眠りについた。

すると、また5分後に赤ん坊に身体をゆすられる。


「さち…。しずかでこわい…。さち…。おきて…。」


幸は、もはや限界だった。眠気がピークに来て、目がキマッテイル人間の目になっている。

どうにかして、この子を寝かせないといけないと思った幸は、昔自分が母親にしてもらった、絵本の読み聞かせをしようと思った。


(漫画しかないけど、読んだら寝てくれるはずだ…。あれすごく眠くなるからな…)


バトル漫画と恋愛漫画しかなかったので、恋愛漫画をとりあえず読み聞かせることにした。


そうして、夜中ずっと赤ん坊は幸の読み聞かせを聴きながら長いこと眠らず、遂に朝方眠りについた。


結局一睡も出来なかった幸は、目を真っ赤にしつつ、朝を迎えて現在に至る。


(寝れなかった…。少しコイツが来る前に寝てたからまだいいが、毎日8時間はしっかり寝ないとしんどいのに…。ここまで子育てというのはハードなのか…?)


幸は、生まれて初めて母親という存在の事をほんの少し尊敬した。

ベッドでスヤスヤ寝ている赤ん坊を見て、なんでコイツだけこんな気持ちよく寝てるんだ…という気持ちを抱えつつも、学校に行く準備を始めた。


朝食を食べて、登校の準備を終えると、寝ている赤ん坊をバスタオルで身体に巻き付けて、学校に向かうことにした。


「早めに今日は登校して、赤ん坊を誰にも見られずに保健室の先生の所で預かってもらう。それが、目立ちたくない俺に課せられた最初のミッションだ。」


1人でボソボソとそのような事を言いながら、

勢いよく玄関のドアを開けて、赤ん坊が起きないように耳にイヤホンを付け、猛ダッシュで学校に向かうのであった。



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