第2話 光る赤子


(お腹が空きました…。貴方、わたしに食事をください。)


声が聞こえると同時に、あの赤子は幸に向かって手を伸ばしながらジェスチャーのような動きをしていた。


「…ッ!!う、うあぁあぁあ!!!」


確かに幸は見て聞いてしまった。

目の前にいるどこからどう見ても普通の赤子が

くれくれと手をしている姿を。そして食事をねだる声を。

恐ろしくなった幸は部屋の角の1人だけの身体が収まるような所に一旦身を潜める。

頭を整理して、心を落ち着かせるにはこれしか無かった。

「なんだあれは、テレパシー…!?というか、なんであの赤ん坊はこっちに向かってジェスチャーをしてるんだ!?まさか悪魔にでも取り憑かれてるのか!?いや、そもそも幽霊なんじゃ!?赤ん坊じゃなくて……ゴニョゴニョ」

あまりの恐怖にボソボソと独り言を言い始めた。


その様子を見ていた少女は、目の前の不思議な生命体の言動に興味を引かれていた。

【あの人間は、何をしているの?私の言葉が伝わっていないのかしら…?…ん?人間?あの生命体は人間と言うの?それとこのデータは何?人間という生き物の情報と言語が記憶として私に流れ込んでくる…。…すごく興味深いわ!!!】


目がキラキラしている。

広大な宇宙の中で、自分とコミュニケーションを取ることができるレベルの知的生命体と出会い、自らの身体も同じ状態で再構成されている。

こんな状況になれたことに興奮を隠せなかった。


【宇宙船のアクシデントがこんなことになるなんて!最高!!これでお父様に止められていた外星がいせいの知的生命体の調査ができるわ!!私はなんて運がいいのかしら!!ここに居座って、この少年からたくさんの事を調べさせていただきましょう!!】


少女はそんなことを考えていると、おなかから大きな音がした。


ぐぅぅぅ〜〜!!!


【…!?なにこれ!?…は!!これは、相当空腹状態の時に起こる生理現象だと私に流れこんだ記憶が伝えてくるわ!!早く食事を摂取しないといけない…!何か食べられる物はないかしら!?

ん…?なんか目から水が出てくるわ…!?あれ…なんか、大声で泣きたくなってきた!!と、止められない!!】


そう、少女は完全に人間の赤子になっていた。空腹になりすぎると泣いてしまうのだ。じぶんでも止められず、その場で大泣きしてしまった。


「おぎゃあ!!おぎゃああ!!おぎゃあああ!!!」


幸は、急に話したかと思った赤子が大泣きをしはじめたことに気づき、隙間から様子を伺ってみた。

(な、なんだ…?さっきまでテレパシーしてくる気色悪い赤ん坊かと思ったら急に普通の赤ん坊みたく泣き始めたぞ

…?テレパシーは、き、気のせいだったのか??というか、近所迷惑になるから泣き止んで欲しいんだが!!泣き声が大きすぎる!!)


戸惑いながらも迷惑そうに隙間から覗いていると、泣きじゃくる少女は幸の方を、振り返る。

そして、涙と鼻水でぐちょぐちょの顔で、また幸にテレパシーで訴えかけてきた。


(あ、、あなた!!人間の子供!!だ、だすけてください…!!私の意思では止められないん…です!目と鼻からみじゅ…水が止まらないんです…!!食事を取れれば…収まると思います!!は…はやくう!!!)


「…!!な、なんだってんだよ!!もう!!」

幸は、またテレパシーが飛んできたことに気持ち悪がりつつも、2回目なので驚きはしなかった。とにかくどんな時でも目立ちたくない彼は、近所にも目立ちたくなかったため、この赤子を泣き止ませなければいけないと恐怖に耐えつつ身体を奮い起こして、食事を探しはじめた。


「あ、赤ん坊が食べるのってなんだ!?何食べるんだ?!スナック菓子はいいのか?!ゼリーか!!?米は食えるんだろうか…!あー!わからんん!!!」


バタついて、食べ物を手当り次第探していると

またテレパシーが飛んできた。


(わ、わたしの記憶だと、赤子は母乳を…飲むようです!!多分あなたが用意しようとしているものを私に与えると…死んじゃいます!!)


幸は、そのテレパシーを聞いて絶望した。

「ぼ、母乳…!!!?お、おれは男だ!!胸からそんなもん出るわけ…!!」


(えぇぇ…。。じゃ、じゃあ、なにか母乳に変わるものはないかしら!?うぅ…いぎが苦しい)


「おぎゃあ、おぎゃああ、ぎゃあああ!!」


少女の泣き声はどんどん大きくなる。


「そ、そうだ!携帯で調べれば!!」

幸は、焦りつつもポケットに入っていた携帯を開き、急いで赤ちゃんの食事を調べた。

そして、食事がミルクと分かると急いで買いに行った。


10分後帰宅し、ミルクを慣れない手つきで作り、少女に与えて騒動は落ち着きを見せた。


落ち着きを取り戻した2人は、向かい合い、お互いを見ていた。すると少女の方から、またテレパシーが飛んできた。


(ごめんなさい。助かりました。改めてこの状態だとお話できないので心話しんわでご挨拶させていただきますね。私の名はノノカ。ノノカ・リリアーノと言います。この星とは別の星から来ました。あなたは?)


幸に問いかける。


「俺は…竹取幸。あんた、別の星って…。やっぱり宇宙人的なあれなのか?この心話って言うのはやっぱり、目の前の赤ん坊が発してるって事で確定なんだよ…な?」


目の前の少女は、ミルクを飲みつつもしっかりと幸の事を見つめながら、淡々と答えてきた。


(はい。あなた達から見たら、私は宇宙人というもので間違いがないかと思います。そして、心話は私達の能力です。生物の魂に直接話しかけることが出来るのです。意思として送りかけるので、どんな生命体とも意思疎通が出来ます。)


ミルクを飲み終わった赤ん坊は、そのまま幸の元を離れて、ハイハイしながら家の中を物色し始めた。

食べ物を見たり、触ったり、食器や家電などにも興味を示している。

物色をしている途中で、その様子を外からぼーっと眺めていた幸の頭にテレパシーが飛んできた。


(私は、ここ数日、知的生命体を探してこの宇宙を彷徨っていました。しかし、ずっと見つかることは無く、そのまま母星に帰還しようとした所に、宇宙空間内で宇宙船がなにかと衝突してしまう事件が起こってしまったんです。案の定、宇宙船は破損しました。その時に近くにあった星がこの星だった事もあって、この星に降り立ちました。今後は宇宙船が修復されるまでは、ここで過ごさないといけない状況にあります。)


幸は、血の気が引いた。

なんとなく予想はしていたが、大抵の予想が見事に的中していたからだ。

最悪なことに、あのクリオネみたいなやつの言っていた事がようやく頭で理解出来た。

ここでこれから、この得体の知れない赤ん坊を養っていかないといけないということを。


(絶望だ…。。こんな奴すぐに追い払って俺の平和な人生を取り戻したいが、そんな事したら、あのクリオネになにされるか分からない。コイツはそもそも外見に関しては普通の人間の赤ん坊。追い出したりして泣かれたりしたら、それこそ大騒ぎにもなりかねない。。詰みすぎるぞこれ。。)


幸は、どうすればこの状況を打開できるのか、様々なパターンを想像しながら考えたがどうしても、良い打開策が生まれなかった。


ただ、どうしても不安だったのが自分の学生生活を脅かされることだ。

人生のかかった学生生活。幸の人生設計で、平凡でありつつもしっかりと学業を学び、休みなく通学をする事が目標で、体調が悪くとも、

どんな時でも、休むことは無かった。

これは、平凡かつ平和で安定した人生への道だと考えているからだ。


それが脅かされそうになっている。

こんな赤ん坊を1人で家に置いてしまったら、何をされるか分からない。

それに食事も与えなければ先程のような大事になってしまう。

かといって、学校に急に赤ん坊を背負って向かう訳にも行かない。


こうなると、学校をなにかしら理由をつけて休むしかないのだ。


なんとか、それだけは回避したい。

幸は、藁にもすがるような想いで赤ん坊に懇願した。

「ノ…ノノカさん。」




(それは、心配しなくて大丈夫ですよ。…うん。そろそろかな。驚くと思いますが、私を見ていてください。)


赤ん坊は、そう言うと、目を閉じて身体の力を抜いたようだった。


それからすぐにおかしな現象が起こった。

赤ん坊の身体は全身から強い光が放たれて、辺りをその光で埋めつくした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る