星の子ノノカの竹取育成簿

林三木

第1話 竹取の幸というものありけり。

むかーしむかし…いやそんなに昔でもないですね…


地球というそれはそれは美しい星に、

それはそれは普通のほんとに普通の人間の少年がいました。


なんの取り柄もないその少年は、目立つことが嫌いで、学生生活を普段通り穏やかに穏やかに過ごしていたのですが、

ある日突然、その日常が全てひっくり返ってしまいます。


そう…あの超ちびっこくて可愛いらしい赤ん坊を変なロボットが連れて来た時から…すべて…。






時は遡り、3年前まで戻る…。






「この銀河には生命の宿る星が少ないですね…。資源の確保には適した星は多数あるのに。どうしてでしょう…」


無音とも言える宇宙空間の中で小さな月のような衛星型宇宙艦に乗った少女は言う。


「仕方の無いことです。生命体の宿る星という物は、本来確率的に言えばかなりの低確率ですよ。貴方様がお探しである知的生命体の居る星と言うのは見つけるにはかなりの年数が必要になるかと。もっともこれを具体的な数値に表すと…ペラペラ」


「…はぁ…静かにしなさい。数値化なんて必要ありません。」


淡々と話すクリオネのような機械に向けて少女はため息をつく。


「これじゃあ、無理やり母星を出て、このような所に来る意味はありませんでしたね…。もう帰ろうかな…」


少女はそんなことを言いつつ、感知出来る無数にある星を一つ一つ確認しつつ宇宙艦で暗闇を漂う。


そして、それから数時間経った時、突如事件が起きた。



ガコーンッッ!!!ガガガッ!!!!




なにかに当たって宇宙艦を削られる様な凄まじい音が艦内に鳴り響く。



「な!?なにっ!!?」



(システムエラー発生。システムエラー発生。)




アナウンスが流れると、艦内のモニター全てがエラー表示に。そして警告ランプが次々と点灯しはじめる。


クリオネのようなロボットが、館内を素早く動きながら事態の把握と報告を行う。



「艦体が生物のような対象に衝突。艦体の損傷が35箇所になり継続しての飛行及び母星への帰還が不可能と判断されます。SOS信号を随時飛ばし、事態の連携を母星に試みるもコンタクトが取れるまでに数年は掛かるため救援も不可能と判断。直ちに緊急着陸行動に入ります。」と呟く




「ちょっ!ちょっと待ってください!!?緊急着陸って…ここら辺の惑星で着陸して助かりそうな星なんて見つかってないですよ!これ落ちたら終わりじゃ…!?」




「緊急事態なので報告しますが、着陸に適した星の確認は既にできております。そこの星には我々ほどではありませんが、ある程度の知能を持つ知的生命体も感知できており、そこで材料の確保及び艦体の修繕を行えば母星への帰還は計算上可能かと。」




「はぃ…!?わたしがあれ程、星の検索をしていたのに貴方は既にそんな良い星があることを分かってるのですか!?それもわたしが存在を望んでいた知的生命体までいる星を!」




「ええ。星父せいふ様より万が一、ご主人様が惑星を出ていくような事情が合った時は、絶対に条件にあった惑星を艦内機能にてサーチ出来ないようにしろとの命令を受けておりました。なので私の方で艦体システムの方にハッキングをかけさせていただいておりました。」




(な、なんですってえええ!!?こ、ここ、こんの裏切り者ぉー!!)




淡々とクリオネロボットに裏切りの報告を受けた少女は顔をものすごい勢いで引き攣らせながらなんとも言えない表情になる。




「では、ご主人様。只今より惑星にワープし着地体制に入ります。念の為ですが、かの惑星の生命体に感知される事は危険なので惑星に適した身体への再構築が必要になります。再構築には、かの惑星の知的生命体の幼生期の状態になっていただかなくてはならないのでご辛抱ください。ちなみに数ヶ月程で今の年齢と同等の状態にまで成長されるのでご安心くださいませ。」




クリオネ型のロボットはそう言い述べると少女に向かって問答無用で青白い輝きを放つビームを放った。


「ちょっ…あなた、わたしの命令もなしに…やめっ!!きゃっ!!」


少女は抵抗しようとするもクリオネ型のロボットから放たれた青白い光のビームは瞬く間に少女の体を包んでいく。身体のあらゆる箇所が一斉に縮まり10秒立たぬ間にその惑星の生命体の生後間も無い身体とおぼしき状態へと変貌した。


「おぎゃぁ!おぎゃぁ!!」


艦内に響き渡る赤子の鳴き声とともにロボットが操作する宇宙艦は目的の惑星への着陸の為進んでいくのであった。






その頃地球


ビィィーー!!ビィィー!!!


ある日、国際宇宙ステーションNASUで緊急警報が鳴り響いた。


「警報!?何事だ…?システムの誤作動か?」


宇宙ステーションNASUのトップであり最高責任者であるマック・カーター長官はこの日宇宙開拓事業のためNASU本部へと足を運んでいた。

長官室で就任して数十年間鳴り響いたことのなかった緊急警報が本社内に響き渡るのが聞こえ驚きの表情で固まる。


(緊急事態警報、緊急事態警報、マック・カーター長官は至急観測ルームまでお越しください。繰り返します…)


艦内に自分を呼ぶアナウンスも流れ、システムの誤作動ではなく何かしら不測の事態が起こっているのだと確信したマック・カーターは、

大急ぎで観測ルームへと足を運んだ。そしてそこで見たものはとんでもない物だったのだ。




「長官!!報告します。国際宇宙ステーションからの緊急通信が入り、数十分前に突如地球から約8万5000キロ付近に小惑星と思われる天体を感知。衛星軌道上、今から数時間後に地球へ衝突の可能性が90%を越えています。」



「…!!!なん…だと…?!」



観測ルームの担当員が、地球に向かってくる衛星の写真を巨大モニターに掲示してかなり深刻な顔で報告する。9割を超える衝突の可能性が世界最高レベルのコンピュータにて算出されており、焦りを通り越して絶望すら感じ取れた。




「衝突はほぼ回避不可能か…。しかし、今までそんな衛星の探知は無かったのに急に現れるとは…一体どうなってやがる。ちなみに衝突の恐れがある衛星の大きさはどのくらいなんだ?」




マック・カーター長官はこんな時にNASUトップがうろたえてはいけないと真剣に且つ冷静に事態を把握しようとしていた。


しかし、担当員が告げる次の言葉によって冷静さを失ってしまう。


「はい。それが…先程の観測結果なんですが…直径約…じゅ…12kmに及ぶ大きさかと。」


マック・カーターはその報告を聞いて自分から嫌な汗が滴り落ちていくのを肌で感じていた。


「12kmだと…?!そんな大きさの小惑星がこちらに向かって飛んできているというのか!??」


地球には年に数回隕石が落ちてくるが、そのどれもが地球環境を脅かす程のものでは無い。それは落ちてくるものがそれほど大きくない小さな隕石だからだ。


地球に落ちてくるもので影響のある大きさというのは数メートル級あたりからであり、白亜紀に地球上の生命を滅ぼした隕石は10kmだ。それを超える弩級の隕石が来る可能性は現在に至るまで一切感知されなかったのである。


ちなみに、10kmを超える隕石の衝突があると確実に人類滅亡のシナリオが描かれることになるであろう。マック・カーター含め職員達はその事実を容易に理解出来ていた為、観測室では恐ろしいほど音がない時間が流れた。


「大統領に報告だ…。国民はこの事実にパニックに陥ると思うが、これは全人類が知る権利がある…。緊急通信を使ってブラックハウスと連携をとれ!!」


静寂に包まれる観測ルームにマック・カーターの怒声が放たれた。


その声により、報告を聞いた他の職員達も我を取り戻し大急ぎで行動するのであった。






場面はさらに変わり、ある少年の元へ。。。。






少年の名は竹取たけとりさち高校2年の17歳


私立高校に通う眼鏡を掛けた地味目のどこにでも居るようなそんな目立たない少年だ。


幸は生まれてこの方、友達という物がいない。そういった物を作ることも興味が無いため読書が大好きな彼は常に授業以外の時は本を読んでいた。。。。いや、本当はクラスで目立つことが何よりも誰よりも嫌いな彼はそのリスクを避けるため本を読んで気を紛らわすしか無かった!そう!彼は極度の人見知りなのだ!!


その影響か、クラスで幸に声をかける子も

ほとんど居らず存在すら薄れかけている状態となっている。


キーンコーンカーンコーン…


学校の終わりのチャイムが鳴り、生徒たちは家に帰るものと残るものに分かれる。


「今日も無事に何事もなく過ごすことが出来たな。上出来上出来。」


幸も学校が終わると同時に自宅に帰ろうと立ち上がったのだがクラスの様子がいつもと違いおかしいことに気づく。


何やらザワついてるのだ。ほとんど誰も家に帰ることなく。




「聞いた聞いた!?なんかさ、今日の夜にすっごい大きな隕石が落っこちて来るかもって!

日本の研究施設の専門家が噂してるらしいよ…?NASUもそういった事実が全くないとは今の段階では明言できないって報道してるらしい。今日のニュースはそれで埋め尽くされてるよ」




「いやいや!どうせまたノストラ○ムスの大予言的なやつでしょ(笑)どーせ外れるって!これまで何回もそんな話しあったじゃん!あんたすぐに影響されすぎー!(笑)」


クラスメイトの会話は隕石のニュースの話題で持ち切りだ。


今日は「地球最後の日なら何をする?」とか「そんな馬鹿でかい隕石が降ってくるなら今日は夜オールして観察しようぜ!」とかテンション高めの陽キャ達は、隕石のことで完全に浮かれていた。


「くだらないな…そんなニュースでこんな騒ぐなんて幸せな奴らだよ…。」


そう囁くと幸はそんなクラスを置いてさっさと家に帰ってしまった。


「ただいまー…って誰も居ないか。飯作らなきゃ」


幸は数年前に両親をなくしており、今は生活保護をもらいながら少し早めの一人暮らしをしている。


料理・洗濯・家事この全てを毎日こなす彼はいつの間にか、専業主婦並の家事スキルを身に付けていた。


幸はものの1時間で全ての作業を済ませ、風呂にも入り完全なリラックスモードになると、

また本を読み始める。これがいつもの日課だからだ。


「くぁあー…ねっむ…そろそろ寝るかー。。明日の休みは何をしようか…な…」


本を読み始めて3時間くらい経った時、強烈な眠気に襲われて幸はその意識を閉じた。


それから何時間が経っただろうか。辺りは深夜になり、電気もほとんど消灯している。幸はあれからずっと爆睡して夢の中をランデブー状態であり、このまま朝まで熟睡コースかと思われたその時幸は変な感覚に襲われる。




「知的生命体の幼体を確認。その他の生命反応なし。我々の危険因子ではないと判断しここに拠点を築くことを決定する。」




さっきからずっとこの声が聞こえるのだ。それと同時にガサガサする音まで聞こえだして、幸はその音のあまりの不快感に目を覚ました。


そして、起き上がると目前に広がる謎の光景に口が大きく開いた。


暗闇に光り輝くクリオネの様な変な形の生き物?がめっちゃくちゃ小さな人間の赤ちゃんを抱き抱えているのだ。




「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!!」




幸はあまりに意味のわからない現状に、

頭の処理が追いつかずただただその光景を見守るしか無かった。


「生命体の動きを確認。…目が覚めたか、この惑星の住人よ」


クリオネは幸の方へ飛んできてじっとその顔を見つめる。


幸はこの異様なクリオネ型の何かに恐怖を感じ、目の前に来たクリオネに向かって大声で叫んだ。




「な、なな、なんだおまえ!!?誰かが操縦してるおもちゃのロボットかなにかか!?人の家に勝手に入るんじゃないぞ!!」




クリオネは幸のそんな言葉を可憐に無視して腕に抱いている赤ん坊を幸に手渡した。


幸は急に来た変な奴から籠に入った人間の小さな赤ん坊を渡されて更に頭上に?が浮かんだ。




「その方は私のご主人様だ。訳あってこの星に来たのだが、我々の宇宙船が破損したため暫く母星への帰還が厳しいと考えられる。よって帰還が可能になるまでその方を保護していただきたい。大丈夫だ、数日に1回はここに様子を見に来る。では頼んだぞ」




クリオネは一方的にそう言い残すと空に向かって飛び立って行った。


家に取り残されたのは、空を見上げてポカーンとする少年の幸とそんな幸をクリクリした大きな目で見つめる謎の少女


なんの前触れもなく、この日から竹取幸の赤ん坊育成生活がスタートしたのであった。




そして夜が開ける…


家にいた幸はリビングにある机に赤ん坊の籠を置いて、その周りをずっと歩きながら回っていた。その表情はなんとも言えない表情をしておりずっとある事を呟いていた。




「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、、」




幸は昨夜の事件があった後から、ずっと寝れずに一睡もしないまま1人で机の周りを歩き続けている。その回数はもはや数え切れないほどに。


昨夜起こった出来事が夜が明けても尚、幸の頭を混乱させていた。


今まで1人でひっそりと暮らしていた少年の元に謎のクリオネが来て、人間の赤ん坊を預けてどこかに消えていく。


こんなに訳の分からない事は他にないだろう。




「あの変な奴はどっかいったし…こんな赤ん坊なんて置いていかれても…。俺…子育てなんてした事ねーんだぞ…。彼女や女友達とかもいねぇーのに…どうすりゃいいんだ…」


幸はこの意味不明な状況をひたすら嘆くしかなかった。


そんなこんなで机の周りを回っていると、

昨日来てからずっと眠っていた赤ん坊が目を覚ます。




(ん…。朝から何をしているの…?)




突然幸の頭の中にどこからか少女の声がきこえた。


聞き覚えのない声が鮮明に聞こえていたので声の主を捜そうとするが、どれだけ周りを見渡しても声を発せるような人間は居なかった。




(お腹が空きました…。貴方、わたしに食事をください。)


声は更に聞こえてきた。





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