第4話 学級委員長のライバル心

私立月雲杜つくもり高校

ここは、私立高校の中でも、偏差値が中間に当たる、いわゆる普通の高校だ。

頭の良い生徒もいれば、不良のような奴もクラスに1人〜2人くらい居るような感じの学校である。

そんな普通の学校に通っている生徒の1人が少し様子がおかしい日があった。


その生徒の名は、竹取幸。

高校2年生の彼は、ごく普通で、どちらかというと地味目のガリ勉メガネだ。

いつも、クラスの皆とは、距離を置いている彼は、話しかけても基本「うん…。そうだね。」としか言わない。


学校が始まり始めた頃は、クラスの数名が彼に積極的に話しかけに行ったが、あまりの素っ気なさと、話しかけるなオーラの凄さに、次第に距離を置くようになっていった。


そのような日々が続いて、現在に至っては、もはや居るのか居ないのか分からないレベルの空気と化している。


そんなある日、空気と同じだった彼の様子がおかしいかった。

いつもは、存在感のなさに居るのかどうかも分からなかったが、その日は存在感が凄かった。

いつもは、朝礼のギリギリまで学校には居ない彼だったが、その日は誰よりも早く学校のクラスの席に座っていた。


同クラスの学級委員長である夢坂癒菜ゆめさか ゆなは、毎日の通学時間は、どの生徒よりも早く行い、生徒の通学の状況を管理したり、授業の予習を行ったりしていた。

そんな癒菜が、驚くことが起きる。

これまで、存在自体は確認していたが、実際しっかりと認識したり、関わったことがなかった生徒が、その時間に要るはずの無い生徒が、朝一番にクラスの席に座って居たのだ。


癒菜は、朝早くに、2人きりのそのクラスにて、とまどいつつも幸とは距離を取りながら、すっと自分の席に座った。


(え…?あの子って、これまで関わった事がない子だったけど、なんでこんな時間に学校にいるのかな…?!)


そんな事を思いながら、幸の事を興味深く凝視していると変なことに気づく。


(あれ、あの子そういえば様子がおかしいような…?あんな雰囲気の子だったっけ?)


よく見ると、息が荒れていた。

「はぁ…はぁ…ゴクンッ!…はぁ」

今にも倒れてしまいそうな彼は表情も凄かった。

これまで顔をよく見た事も無かったが、その日は、目の下にクマを作り、目が真っ赤になって汗だくだ。

更に、髪の毛もボサボサで、まるで男版の山姥やまんばのような姿だった。



癒菜は、興味本位で見ていたつもりだったが、あまりにも凄まじい形相に、怖くなってしまう。

幸から目を逸らして、いつもの自分のルーティーンを行うことに決めた。



しかし、それから数日、同じような日々が続いた。

癒菜が毎日、朝早く通学するのに対して、竹取幸も毎日一番にクラスに到着して、息を切らしながら席に座っている。

癒菜は、クラスの誰よりも通学を早くして、優等生としての威厳をクラスの全員に見せる事が

、1種の自己肯定を上げる物になっており、継続する事が目標になっていた。



だが、ある日を境に毎日どれだけ早く来ても、竹取幸が一番早く通学するようになってしまう。

通学の時間を毎日少しづつ早くしても、竹取幸はそこにおり、癒菜の一番早く通学するという目標がずっと果たされることが無くなってしまった。



(なんなのこの人!!なんで毎日めちゃくちゃ通学早いの!?まだ日が登ってない日でも、私が毎日少しずつ早く来ても、毎日既に通学してる!!どういう事なの!?)



癒菜はそんな事を思いつつ、次第に竹取幸について、勝手に苛立ちとライバル心を燃やすようになっていった。

4日ほど経った頃、竹取幸と通学の時間を毎日勝手に競っていたが、とてつもなく早い彼に勝てそうにないと感じた癒菜は、とうとう我慢の限界が来て、彼に声を掛けることにした。



「おはよう。竹取さん。最近朝早いのね?」



一言、話したこともない男子生徒に告げる。

声を掛けられた竹取幸は、切らした息をピタッと止めたと同時に、ビクッとなっていた。

その後、ゆっくりと振り返ると、ボソッと一言



「お、おはよぅ…。そうかな…」



と、か細い声で呟いて、目も合わせずに振り向き直した。

クラスの通学を一番にしたかった癒菜は、竹取に、通学が早くなった理由を追求しようと思った。


「これまで、関わったことがなかったけど、私は、学級委員長として、クラスの皆の通学時間はこれまで把握していたの。あなた、これまではいつも朝礼の5分前とかに席についていたわよね?どうして、それがここ数日こんなに早く通学するようになったの?」



そう聞くと、竹取幸の額に冷や汗のような汗が滴るしたたる

癒菜は、そんな竹取幸の姿を見て、これはやましい事がある人間が問いただされる時に出る姿だと感じた。



「い、いや…なにも…。特に理由はないかな…?学校が好きだから、早めに来たくて。」



竹取は恐る恐る答えていた。癒菜の方を振り返りもせず。

癒菜は、ますます怪しく思い、竹取を少し攻めてみる事にした。



「あなた、最近少しおかしいわよね?髪はボサボサだし、目は充血してるし、朝は誰よりも早いし…。クラスの皆もあなたの最近の姿に、少し動揺してる事に気がついてる?あなたの話題で皆いっぱいよ?どうしたのよ?」



実際は、そんなに話題に上がっては居なかったが、わざと少し大袈裟に、彼にそう告げてみる。

その瞬間、先程まで出来るだけ接触を拒もうとしていた彼が勢いよく癒菜の方に振り返った。

バッと席を立ち上がると癒菜の目を見て、恐怖と驚愕に満ちた顔で聞いてきた。




「その話…本当か?!俺がクラスの皆のうわさの的になってるって…?それは本当に本当なのか…?!!」



あまりの勢いに、癒菜は1歩後ずさりしてしまう。



(急になんなの…!?そんな目と姿で凄まれるとめちゃくちゃ怖いんですけど!?)



先程までは、自分の目標の障害になっている彼に対して疑問と怒りの感情を持っていた彼女だが、竹取幸の急な態度の変化に恐怖を感じた。

しかし、ここで引いては学級委員長として負けた気がする彼女は、負けじと食いしばる。



「そ…そうよ?竹取さん。あなたもう、本当に注目の的よ?このままだと皆に怖がられて、これからの学生生活に支障をきたしかねないと警告しとくわ。」



癒菜は、勇気を振り絞って竹取幸にそう言った。

その後の彼の行動もまたおかしかった。

汗が全身から吹き出し、唖然としつつ、青ざめた表情で後ずさりをする。



「そんな…。そんな馬鹿な…。俺の完璧な計画が…。」



彼は、そんな事をつぶやくと、ボソボソと何かを言い始めたが、別の生徒が登校してくると、何事も無かったかのように、自分の席に座って、いつものごとく気配を消した。



(何この人…。すごく変な人。この挙動不審具合…まさか何か大きな犯罪とかに手を染めてたりとかしてたりして!?)



癒菜は、竹取幸について様々な考察をしはじめた。

これまで1ミリも気にしたことがなかった生徒。

急に存在感が出てきた生徒。そして、この怪しさ。

癒菜は、様々な事を考察して、ある結論に至った。



(これは、クラスのトップとして。学級委員長として、彼を調べあげる必要がある!今日から彼を調査するとしよう。)



なにかしらの義務感に囚われられた癒菜は、固く決心を決める。



それから、1時間後朝礼が始まり、授業が始まると、これまでに無かったことが起きた。

授業の静かな空間の中で、どこからともなく現れた赤ちゃんの声が、教室の入口で轟いたのだ。



「さちぃぃぃぃい…!!!!どーーこぉぉおお!!!」



クラス全員の視線が声の方に向けられる。



「え…赤ちゃん…?なんで…?」


「可愛いんだけど!!なになにー!!」


「おい誰だよ、赤ちゃん連れてきたヤツ笑」



クラス中が大騒ぎになり、みんな突然現れた赤ちゃんに興味津々になっていた。

そんな中、二名の生徒は違った。

学級委員長である癒菜は、赤ちゃんの発した言葉をしっかりと聞き取っていた。



(さち…?さちって、まさか…。竹取…幸!?)



サチという名前は、このクラスに1名しかいない。

彼女は、すぐに幸の方に向き直した。

すると、そこには、身体が石のように固まり、ムンクの叫びを彷彿とする、竹取幸の姿がそこにあったのだった。










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星の子ノノカの竹取育成簿 林三木 @hayashi_ikuseibo7

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