独白
くぼたひかる
独白
正月も四日目。
今年の正月は、なんだか妙に長い。
祖父が昼食を求め、よろよろと居間に顔を出した。
本来、祖父の昼食の準備は母親がする予定だった。
けれど、スキー場の食堂が繁盛しているのか、一向に帰ってこない。
仕方がないので、私が準備することにした。
炊けているご飯に、明太子、じゃこの佃煮、漬物が揃っている。
やることと言ったら、ご飯をよそい、茶をいれるだけ。
大した手間でもないので、自慢するようなものでもない。
親は祖父の娘で、父親は婿養子。
そんなわけで、昔から祖父と父親は折り合いが悪い。
祖父も94歳になりボケが始まり、両親が疎んでいるのが分かる。
私はというと、長期連休のときにしか帰らず、しかもこの正月は、手伝いもせず炬燵に足を突っ込み、カクヨムコン10に向けて駄文をせっせと積み上げていた。
そんな負い目もあってか、昼食がてら祖父と少し話をしてみることにした。
耳が遠い祖父との会話は要領を得ないが、それでも弟の仕事の話など、なんとなく会話は続いた。
そのとき、祖父がふいに独白を始めた。
「昔、芦屋にいてなぁ。仕事でいろいろ渡り歩いて…」
「わしは、仕事が大体一人前になって、皆に褒められだすと、なんかなぁ…もういいやって思えてな」
「そのたびに、仕事を辞めて、その繰り返しだったんだよなぁ」
「どうして、そうなったのかなぁ」
思えば、祖父との思い出はたくさんあるが、こういった内面の話を聞いたことはなかった。
大人はそんなこと考えないと、どこかで思い込んでいたのだろう。
そんなはずがないのは、今、自分が一番わかってる。
けれど、今こうして聞いていると、不思議な気持ちになった。
今だからこそ、祖父の話に耳を傾ける気になったのだろう。
もっと早く聞いておけばよかったという後悔よりも、このタイミングだからこそ聞けたんだと思った。
それにしてもまあ、自分に身に覚えのあることと言ったらーー。
祖父の独白は、私の独白でもあった。
「じいちゃん、俺もだよ。よく理解るよ」
耳に届いているのか、理解しているのかわからないが、そう伝えておいた。
独白 くぼたひかる @hikarukubota
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