31 もののふの言
「ほう...牛の乳でカップ麺をふやかすのか」
「少し前に流行ったやり方で、カレー味とかシーフードでやってる人が多かったかな。その後ミルクシーフードっていう味が発売されるくらい人気だったんだ」
「ほほぅ……」
シャオメイは用事があるとかで帰ってしまい、俺は伊達政宗さんと隣り合ってカウンターに座り……カップ麺が出来上がるのを待っている。
伊達さんは意外に身長低めだな?俺の勝手な印象だと背が高いと思ってたんだが。当時の平均身長らしいけど、現代人の俺としてはちょっと不思議な感じがする。
ただし、かなり骨太で筋肉が発達している体つきだ。ムッキムキなんだよ。
その人が箸を持ち、カップ麺が出来上がるのをワクワクしながら瞳をキラキラさせてるもんだから……ううむ。どういう状況なんだこれは。
しかも『変わった作り方をせよ』と言われたから流行ってた、ミルクを使う方法で作ってあげたらめちゃくちゃ喜んでるぞ。
「2分経ったぞ、もう食っていいよ」
「ぬ!?これは3分待つのではないのか?」
「うん、本来はそうだな。でも沸かしたての熱い液体の場合は、3分だと柔らかすぎるから」
「なんと!?それは今まで損をしていたな……早速いただこう」
「お、おう。どうぞ召し上がれー」
手をしっかり合わせた彼は蓋を開けて、首の皮一枚で繋げたままラーメンを啜り出す。蓋をとっちゃう派と残す派って別れるよな。俺も残す派だ。
ホワホワ漂うスパイシーな香りとミルクの甘い匂い。しっかりかき混ぜて、麺を啜る。
んぁー、うまい。
ラクサってのはシンガポールの麺料理だが、ココナツミルクとスパイスの入った異国情緒あふれる味つけだ。元々マイルドだけどミルクを少し入れたお湯で戻してやると、さらに濃厚になる。
具材は鶏ひき肉、味がついた油揚げに卵とパクチー、唐辛子が入っている。別途レモングラスの香りペーストがあるからそれを入れると爽やかな香りが増して、とてもとても美味しいカップ麺だ。
本国のものがどんなのか食べたことないけど、味が良ければ俺みたいな奴はなんでもいい。
規定時間より少し早めに食べ始めれば最後まで食感を楽しめるし、熱々のままのスープを飲み干した時の爽快感が段違いだぞ。
みんなには一度試してみて欲しい裏技だな。
「……ぬぅ」
「ん?あれ?伊達さんお口に合わなかった?」
「そうではない。某は様々なモノを食べてきたが……うまいな。やはりこのカップ麺は素晴らしい食べ物だ。湯があれば食えると言うのは、携帯食としても優秀だろう」
「そうだねぇ、戦国時代にあったら重宝されただろうな。雨に濡れたあと温かいモノを食べればホッとしただろうし、僻地でも腹を減らさずに済む」
「あぁ。……そのような経験があるのか?」
麺を啜りつつ、彼はやや低い声音で聞いてくる。伊達さんもいい人だ。出会ったばかりの俺を心配してくれている。
戦国時代の武将たちは命を賭ける仕事をしてたからか、人の心の機微には敏感だ。そして、心の奥底がとても深い。
「大したことはないよ、自分で首を突っ込んだエラーだから。親には大切にしてもらったし、兄妹も仲良しだったし、友達も居た」
「……そうか、お前を失った家族はさぞ口惜しかろうな」
「そう思ってくれてるといいな、とは思うけど。恩返しくらいはしたかった」
「人の命は短い。まして、自らの命を差し出して他を救う者は長生きできぬ」
「はは、そりゃそうか。俺は早死にするぞってずっと言われてたな。
命を差し出して救うつもりなんかなかったけどさ、そうなっちまっただけだ」
「それでも、事実としてお前は誰かを救いあげた。ここに訪れる者達も、秀吉や家康もそうだろう?男として誉であるぞ」
「…………ハイ」
「土井佑は、大した人物だったのだ。輝かしい最期を我らと同じように迎えたのだから。お前も
畳み掛けるように言われて、なんだか泣きそうなんだけど。鼻の奥がツンとして、目尻がヒリヒリしてくる。
とんでもないダークホースが現れてしまったぞ。
「よく見れば顔が良いな、歳は?成人しているのか?」
「成人はしてるけど顔……?え?伊達さん目が悪いのか?」
「いいや。片目とはいえよく見える。まろい頬が愛らしい。目の色も美しいな」
「………………へぁ?」
なんだか妙な雰囲気だな。まるで口説かれてるみたいなんだが。気のせいか?
「ふ、慣れておらぬのだな。そこも良い。さてお前の隠し球を貰った礼をしたい。某の新しい食を探すに様々な物を食わせてやろうと思ってここに来たのだ」
「えっ!?そ、そうなのか?食わせてやるって……」
「あぁ、ぐるめつあーをしよう。お前が地獄に来てから先、機会を窺っていたのだ。2人で食事をして仲を深めようではないか」
「………………は、ハイ」
カウンターの上で手のひらをギュッと握られて、妙な汗が浮かぶ。
そういえば伊達さんって、その時代って確か……。
「仲が深まれば某と共にいてくれるだろう?どんな形でもよい」
「アハっ……アハハ、あ、えーと、えーと」
ニコニコ笑顔のイケメンは空になったカップ二つをゴミ箱に入れて、俺の手を引いて立ち上がる。
大仰に腕を振り、まるでダンスに誘うかのようにお辞儀をした彼はそっと呟いた。
「でえとの始まりだ」
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