第14話 何を探して?

 僕は小夏を失って腑抜けになってしまった。昼間はいい。仕事に没頭できるから気が紛れる。終電で家に帰って風呂に入って寝る。強引に寝る。なかなか眠れない。だが、布団の中に潜り込む。眠れるまで。この頃から、僕は不眠症になっていたのではないだろうか? そんな気がする。


 休日が困る。僕はスッカリ、誰かが側にいてくれないとダメな奴になっていた。誰か? 人の暖かさに触れたくなる。独りで部屋にはいられない。だから、外に出る。出ても、行き先は決まっている。


 僕は店へ。あるいはプライベート・デートで待ち合わせ場所へ。彼女達の仕事か? プライベートか? どちらでもいい。しのぶが遊んでくれる、ミナミが遊んでくれる、アキナが遊んでくれる、ついでにあかねもあそんでくれる。それでいい。休日、気が紛れるならそれでいい。心に空いた穴が、彼女達と会っている時は塞がるような気がした。僕は彼女達に救われていた。


 彼女達と屋内プールに行く楽しさをおぼえた。


 彼女達の水着姿は美しく、魅力的だった。彼女達の水着姿を撮るのが楽しかった。しのぶは白のビキニ、ミナミは赤、アキナは黄色、あかねは青か紫、彼女達の水着写真集が出来上がるくらいだった。


 僕が魅力的と感じるということは、他の男にも魅力的に映るわけで、男達の視線が痛い・・・いや、正直心地よかった。プールで、彼女達といちゃいちゃするのが好きだった。先週の土曜はしのぶ、日曜はミナミ、今週の土曜はあかね、日曜はアキナ・・・ローテーションだった。彼女達と一緒にいる時間は楽しい。だが、バイバイしたら、虚しさと寂しさが込み上げてくる。



 僕は何を求めていたのだろう?



 話は変わるが、昼の仕事で名刺を会社の近くの印刷屋で買っていた。印刷屋の地味なスタッフのお姉さん、たしか、歳は僕の1つ上。華奢でスラッとしているが、あまり魅力を感じたことは無かった。


 だが、或る日、そのスタッフ(美智子)が前屈みになった時に胸の谷間が見えた。何故か? 僕はその一瞬で美智子に魅力を感じた。僕は美智子を口説いた。



 土曜日、美智子と映画を観ることになって、まずは映画。食事。その夜、美智子は僕の部屋に泊まった。順調なデートだった。


「おはよう」

「おはよう」

「崔君が寝てる間に、簡単に朝食を作ったで」

「お、それは嬉しい」

「パンとハムエッグとカップスープやけどね。珈琲も淹れてるよ」

「なんかええなぁ、新婚家庭みたいで」

「さ、座って」

「うん」

「崔君、私と付き合う気はあるの?」

「いきなりやなぁ」

「付き合う気が無いなら、もう会わないつもりやから」

「美智子さえよければ、お付き合いしたいと思ってるけど」

「そう、良かった。じゃあ、よろしく」

「こちらこそ、よろしく」


 2ヶ月後。


「崔君、別れよう」

「なんで?」

「崔君・・・いつも私を見てないもん」

「どういうこと?」

「私といても、崔君、いつも楽しくなさそう」

「楽しいよ」

「嘘や!」

「・・・・・・」

「私じゃ、崔君を幸せにできへんよ。それに、崔君では私を幸せにできへん」

「・・・・・・」

「崔君、幸せになりや」

「・・・そうか。悪いことをしたな」

「ううん、悪くはないよ。悪い別れ方ではないと思う」

「ごめん」

「はい、部屋の鍵、返すね」

「うん」

「じゃあ、さよなら・・・」

「・・・・・・」



 嗚呼! 僕はいったい何をやっているのだろう?



 違う出逢いを探して、店で新しく女の子を指名。今度はラン、指名写真には38歳と書いてあったが、果たして・・・。


 第一印象はすごく良かった。細身だが、胸は自己主張、顔も好みの顔だった。


 ランは、ホステスもやっているということだった。金銭的なトラブルがあって、風俗店でも働くことになったらしい。多分、その時、僕は死んだ魚のような目をしていたと思う、ランが幾ら借金を背負っているのか? 聞く気にもなれなかった。


 だが、ランは比較的簡単にプライベートで会ってくれるようになった。楽しかった。ちなみにランは165センチ、ヒールを履くと169センチの僕よりも背が高くなる。僕は気にしていなかったが、ランは気にしていたのだろうか?


 ランとも屋内プールに行った。黒のビキニが魅力的だった。僕の写真集にランの写真集ができた。ランは美人だったが、絶対に30代ではなかったと思う。ランと一緒にいても、男達の視線は感じない。しかし、ランとは体の相性が特に良かった。


 或る日、ホステスの仕事が終わってから会うことになった。待ち合わせ時間、待ち合わせ場所に来たランは、明らかに様子がおかしかった。メイクをしていても顔色が悪いのがわかる。


「大丈夫?」

「大丈夫、ホテルに行こう」


「本当に大丈夫? 寝てええよ」

「うん、1回したら、寝かせてもらうけど。とりあえずスッキリさせてあげるね」


 ところが・・・。


「う・・・う・・・」


 上に乗っているランの様子がおかしい。


 ま! まさか-!


「ゲボゲボゲボゲボ-!」


 ランはゲロを吐いた。僕の顔の上に。


「ごめん!」

「ええよ、以前にもこういうことはあったから」


 シャワーを浴びながら思った。


 僕は何をしているんだろう?




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浪速区紳士録【社会人編:旋風】婚約破棄と、その後について! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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