第12話 美女はトラブルと共に。

 ミナミと結ばれた僕は、今度はあかねを指名した。あかねのことを話していたときの、ミナミの悪戯っ子のような顔が気になったのだ。『性格悪い』って、どんな感じなのだろう?



 だが、会ってみると悪い印象ではなかった。普通の細身美人。身長は158センチで胸はD~E(ブラによる)らしい。形が良かった。脚も長い。そこで、勿論、僕はあかねをプライベートデートに誘った。断られ、指名して誘って、また指名して断られて・・・結論、4回指名したら、ようやくプライベートデートをOKしてもらえた。



 あかねの希望で、僕達は水族館へ行った。夕食はフレンチレストランのコース料理、そしてワイン。で、そこで終わり。ホテルには一緒に行ってくれなかった。


 次のデート、繁華街でショッピング。服やアクセサリーを見るあかねはすごく楽しそうだった。しかし・・・。


「ねえ、これ買ってや」


僕はあかねの服と指輪を買わされた。僕は、『指輪』というところに、隠されたメッセージがあるのではないか? と思った。


「僕が指輪を買ったということは、僕はあかねちゃんの恋人になれたのかな?」

「え? 違うよ。この指輪、半年くらい前に自分で買って、気に入ってたんやけどなくしてしまったから、また買いたくなっただけ。ありがとうね、崔君」

「あかねさん(あかねは僕よりも1つ年上だった)、あかねさんにとって、僕って何? 恋人? 違うの?」

「恋人ではないわ。友達、いいお友達」

「僕、あかねさんの恋人にはなられへんの?」

「うーん、難しいなぁ、1度お友達認定してしまうと、そこから恋愛感情が湧くのは難しいと思う。それはわかってくれるやろ?」

「お店に行ったら、プレイしてるやんか。友達やったら、プレイせえへんやろ?」

「だから、お店では本番はしてへんやんか。恋人やったら本番するやろ?」

「だから、その本番をしたいからホテルに行こうって誘ってるんやんか」

「うーん、今日はダメ」


 次のデートも、


「今日はダメ」



その次の4回目のデートで、物語は急展開を迎えた。


「なあ、崔君」


居酒屋で、あかねが真剣な声で言った。


「どうしたん?」

「お願いがあるんやけど」

「何? 僕に出来ることやったらするで」

「ストーカーを退治してほしいねん」

「詳しく聞かせて」

「2週間くらい前から、私が店を出て帰るのを待ち伏せしてるオッサンがいてるねん。私の後をつけてきて、私、怖いから最寄りの駅の1駅手前の駅で降りてタクシーに乗って帰ってるねん」

「ずっと続いてるの?」

「うん、私の出勤日、曜日が決まってるから。それを知ってるということは、お客さんの1人やと思う。でも、1度相手したくらいではおぼえてないから」


 僕は『イベント、来た-!』と思った。お友達から恋愛感情に変えるには、何かイベントが必要! ここでいいところを見せたら、あかねは僕の恋人になってくれるかもしれない。っていうか、どうして僕はこんな問題を数多く引き寄せるのだろう?


「引き受けてくれる?」

「引き受けた」


僕は、即答でOKした。テンションが上がっていた。



 で、あかねの出勤日の夜のこと。あかねは夜の10時から11時に帰る。その頃、僕は店の近くをキョロキョロ見渡した。


 いた・・・。電柱に隠れて店のビルの出入り口を見張っているスーツのオッサンを見つけた。僕は電柱に隠れて『店のビルの出入り口を見張っているオッサン』を見張った。


 あ! あかねが出て来た。駅まで歩いて行く。オッサンは動き出した。あかねの後をつけていく。僕はオッサンの後をつけていく。


 僕達は電車に乗った。そして、あかねは最寄り駅の1つ手前の駅で降りてタクシーに乗って去って行った。オッサンは、そのタクシーが見えなくなるまで立ち尽くしていた。さあ、ここからが僕の出番だ。僕は、オッサンの肩を軽く叩いた。


「なんや? お前」

「オッサン、あかねちゃんを尾行してたやろ?」

「なんのことだ?」

「隠してもアカンで。僕は店の前からずっと見てたんや」

「あかねは俺のものだ! 邪魔すんな」


 オッサンは、スーツのポケットからナイフを出してきた。このオッサン、なんでナイフなんて持ってるのだろう? だが、僕は刃物はそれほど怖くない。


「やめとけ。ストーカーをやめてくれたら、今回は見逃すから」

「うるさい!」


 僕は、てっきりオッサンがナイフを振り回すと思っていたが、オッサンは真っ直ぐ突いてきた。僕は一瞬、反応が遅れた。僕は左の手の平でナイフを受け止めた。OK! ナイフは骨で止まっている。傷は浅い。いや、これは『骨まで刺さってる』というべきなのだろうか? オッサンは手を離して後ずさりした。


「オッサン、刺したらアカンやろ?」

「知らん、俺は悪くない」

「このナイフは僕がもらうで。お前の指紋と僕の血がついているからな」

「どうするんだ?」

「警察に行くに決まってるやろ、これは立派な傷害事件やで」

「えー! えー!」

「ほな、一緒に行こうや、オッサン。110番でパトカーで迎えにきてもらうか?」

「やめてくれ、警察はやめてくれ」

「ほな、オッサンの名刺をくれや」


 僕は名刺を1枚もらった。


「オッサンの会社にも連絡せなアカンな」

「会社はやめてくれ、クビになる」

「わがままやな、オッサン」

「クビになったら、妻子を養えない」

「あんた、家族がいるんか?」

「ああ、嫁と、子供が2人」

「あかねちゃんの店には行ってるんか?」

「1回だけ。その時に、あかねに惚れた」

「1回だけ?」

「小遣いが少ないんや。そんな頻繁に風俗には行かれへん」

「オッサン、財布の中を見せてや・・・あ、1万円札が1枚だけ。あれ? これだけあれば、あかねちゃんをタクシーで追いかけられたんとちゃうの?」

「1万はホテル代に持っておかないとアカンやろ」

「考えてるのは、ホテルのことだけかい!」

「なあ、助けてくれ」

「ちょっとコンビニに行こう」


 僕はコンビニで、オッサンの免許証をコピーした。


「僕はオッサンに刺されて怪我をした、傷害事件や。そして、証拠のナイフも僕が持ってる。会社の名刺とオッサンの免許証のコピーもある」

「頼む、見逃してくれ!」

「ほな、2度とストーカーみたいなことはしないと約束できるか?」

「約束する、もうストーカーみたいなことはやらない」

「2度とあかねちゃんに顔を見せるなよ」

「わかった、あかねちゃんの顔も見に行かない」

「それなら、今回は許したろか・・・あ!」

「まだ何かあるのか?」

「よく考えたら、僕はまだちゃんと謝ってもらってないなぁ」

「謝ってるやんか」

「それで謝ったつもりか? 本気で謝る時は、どないすんねん?」


 オッサンは座って土下座をした。僕は、土下座しているオッサンの頭を思い切り踏みにじった。ちなみに、コンビニの中だった。


「ほな、オッサン、失せろ」

「はい!」



「な! ちゃんと退治したやろ?」

「うん、ありがとう、崔君。でも、その包帯・・・」

「大丈夫や、これくらい」


 僕は確かな手応えを感じていた。これだけのイベントだ、あかねのハートは僕のものになるに違いない。よし! 友達から恋人に一気にランクアップだ!


「やっぱり崔君は、最高のお友達やわ」

「なんでー! ここは付き合うシーン、恋人になるシーンやろ?」

「私、今は誰とも付き合わへんねん」



 結局、あかねと結ばれたのは半年後だった。( ← 結ばれたんかい! )



 そして、また次のトラブルがやって来る。頑張れ! 崔梨遙! 負けるな! 崔梨遙! みんなの? 崔梨遙!







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