記憶喪失から始まった、とある夫婦の新しい恋物語
- ★★★ Excellent!!!
有給休暇を満喫していた真勿(まなか)は、あろうことか宿泊私設の倒壊へ巻き込まれてしまう。幸い命に別状はなかったが記憶を失って、見も知らぬ“夫”の榛頼(はるより)と対面することに。絶望しかないシチュエーションで、しかし榛頼は「もう一回最初から口説くから」と宣言。かくて知らない夫にアプローチされる日々が始まったのだ。
本作の魅力は真勿さんと榛頼さん、ふたりの想いの推移こそあります。
夫だと言う人のことだけをなぜか忘れてしまった真勿さんと、積み重ねた時間を失くしてしまった妻と向き合い続ける榛頼さん。ふたりの温度差と噛み合わなさは実にも切なくて、どかしくて、寂しいものです。
でも、真勿さんは榛頼さんへ触れていく中、彼に惹かれていくわけですよ。たとえまた記憶を失おうとも、自分はきっと同じように――この「再び」と「何度でも」が浮き彫る強く甘やかな予感に、読者はこの上なく救われて、癒やされるのですよね。
ふたりが描き出すエンディングはまさに最高のマリアージュ。どうぞご賞味あれ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)