第6話 蹂躙 一

 バギーに敗北を喫したレイ。その後彼女はとある大木の枝に両腕を吊るされてしまった。足の先がなんとか地面に付く状態で吊るされている。動く事は出来るが、縄を解く事は出来ないので束縛されているも同然だ。毒の影響はまだ残っており、幻覚や幻聴が度々目やら耳やら入ってくる。心に異常な不安感が溢れ泣き出しそうになるのもそのままだ。しかし辛うじて現実と夢の区別は付くようになり、おぼろげながら周囲の状況を判断出来るようになった。しかし気のコントロールは依然叶わない。所謂、一般的な三歳児の幼児程度の体力しか、今のレイには無いのだ。

 バギー組の者達はそれぞれ木の棒を手に取り、それでレイの体を何度も叩いた。まるで罪人を罰しているかのように。三歳児の耐久力しかない今のレイでは、棒叩き一発受けただけでも骨が折れたり肉が切れてしまう。それを知っていて彼らはレイの体を何度も棒で叩くのだ。

 ドゴッ! ドゴッ! っとレイの体に叩きつけられる木の棒。肉を叩きつける音が周囲に鳴り響く。レイの体はボロボロで多量の出血を起こしていた。レイの足元には血の貯まりが出来ていた。バギー組の面々はみんなが木の棒で代わり代わりにレイを叩き付ける。頭、顔、胸、腹、腕、足……。全身の叩きやすい所をめいいっぱい力を込めて。そしてそれを眺めて楽しんでいる。バギーは地面に座って酒を口にしていた。


「おらぁ! くらえっ! くらえっ! 以前までの威勢はどうした!?」


 男が何度もレイを木の棒で叩く。レイの顔面を叩き付けて、口から歯がいくつか飛んでいった。


「ぐふっ! ぶばぁ! ハァハァ……」

「どうだ? 痛いか!?」


 血を流しながら肩で息をするレイに、男は迫った。レイはしばらく黙っていたがやがてニヤリと笑みを浮かべて顔を上げる。男の目を睨め付けて言った。


「……こ、この程度? 男のくせにひ弱な腕してるじゃん……」


 挑発するレイ。男は鬼の形相で怒りをあらわにした。


「く! まだ減らず口を叩くかクソガキが!」


 そして男は何度もレイを叩き付けた。ボタボタと血が滝のように全身から飛び散る。レイの体は無意識に痙攣していて、もはや感覚も無いがそれでもレイは強気な姿勢を崩さなかった。叩かれて痛くないわけでは無い。死ぬ程痛かった。三歳児の耐久力では簡単に骨が折れるのだ。そもそも棒叩きは大人であっても大変な苦痛である。拷問に使われるくらいだ。それが三歳児の体では尚の事だろう。想像を絶する激痛だ。

 気のコントロールで身体能力を向上出来ていれば大したダメージにもならないのにとレイは思ったがそんな事考えても仕方の無い事である。レイは痛みのあまり泣き出しそうだったがじっと堪えていた。弱い所を敵に見せてはならないと思ったからである。それに、この痛みのおかげで夢と現実の区別が付けられるのだ。痛みが無ければ、夢に支配されて心が壊れてしまいそうだった。しかし、それでもレイのそれはただの虚勢だった。心から湧き上がるどうしようもない不安感と恐怖は、痛みを持ってしても打ち消せない。不安で押し潰されて、赤子のように泣き声を発してしまいそうになる。そんな衝動に駆られる。それをレイはひたすら堪えていた。この痛みでさえ、ギリギリ留め具になってるくらいで、痛みが和らげば堰を切ったように泣き喚きそうな気がした。子供のように泣き喚くのは恥だと、レイは思っていた。人前で泣くのも恥と思っている。だからレイは泣き喚かない。泣き言も吐かない。敵の前では特にだ。言ってしまえばただの痩せ我慢だ。それが自分の出来るせめてもの抵抗だと思って。


「くらえ! くらえ!」

「ぐっ! ふぅぅ! ぐぅっ!」


 レイは歯を食いしばり堪えていた。バギー組の面々はレイを何度も執拗に叩き付ける。この調子で既に半日が過ぎようとしていた。バギー組の面々もそろそろ飽きたのか、各々で勝手にやっている者達がちらほらと出てきた。バギーも酒を飲んで談笑しているくらいだ。しかしレイへの罰は絶え間なく行われていた。

 やがてバギーが立ち上がりレイの近くにやってきた。するとレイを叩いていた男達が手を止める。苦痛の余り息を乱すレイをバギーは嘲笑う。


「これだけ叩いても泣きもしねぇ。強情な娘だ。おめぇら、本気でやってんのか?」


 バギーが仲間達に視線を送る。みんな慌てた様子でバギーに言い訳を始めた。


「本気でやってます! このガキが強情で強情で……」

「そうか」


 バギーは男から木の棒を受け取ると、レイの胸に向けて思い切り振った。棒がレイの胸を打撲し、鋭い音が響き渡る。他の誰の物よりも鋭い音だった。


「ああ! ……ぅああ……くっ!」


 レイが思わず吐息する。息を切らす様を見てバギーは笑い出した。


「そろそろ痛め付けるのも飽きてきたな。趣向を変えてみるか」


 バギーがレイを見下ろす。するとレイは震えた顔を起こしてバギーを睨み付けた。その眼力は恐怖に支配されつつも炎を絶やしておらず、鋭い眼差しだった。バギーが感嘆の息を漏らす。レイは息を切らしながら言った。


「バギー、私を殺したいなら殺せ。覚悟は出来ている」


 絶え絶えの声で呟くレイ。バギーはケラケラと笑い出した。


「素直に楽にしてくださいって言えよてめぇ。あははは! 痛め付けられるのは辛いですってよぉ! ふははは!!」

「……たくない」

「お? なんだ?」

「お前達の棒叩きなんざちっとも痛くないんだよ! 他の人間は屈伏させられても私には通じないぞ! ざまぁみろ!」

「……てめぇ、まだそんな元気があるんだな。ろくに気のコントロールも出来ねぇのに、上等じゃあねぇか」


 本当は楽になりたい。痛くてたまらない。それでもレイは虚勢を張った。敵に弱気を見せる事、心まで敵に屈伏したくないのだ。それでも死にたくはない。クライムと一緒に挙兵する夢があった。ここで死ぬわけにはいかないのだ。どうやって逃げ出そうかレイは考えていた。気のコントロールが出来ない以上、一般的な三歳児程度の力しか無い以上は絶望的なのだが。

 その時、バギー組の男の一人が慌てた様子でバギーの前へとやってきた。それと山の麓から爆発する音が聞こえたのは同時だった。


「バギー様、この山にまた侵入者です。十歳前後の男のガキです。とんでもない強さですぜ!」


 レイもバギーも驚いたような顔をしていた。レイは男のガキの見当がついている。この山の近辺で、十歳前後の子供でとてつもない戦闘力を持つ者と言えば限られていた。自分と、クライムの二人だけだ。レイの知る限りではこの二人だけが子供の中でも大人顔負けの戦闘力を誇っている。クライムがこの山にやってきたのだ。


「ふん。今日は来客が多いな。どれ、俺自ら出向いてやろう。おめぇらはこの娘を監視しておけ」


 バギーはそう言い残し、姿を消した。


 秦山の山道では一人の少年が歩いていた。クライムだった。少し前、この山から巨大なエネルギー波が伸びるのを見ていた。そしてレイの気を感じ取ったのだ。すぐにレイがバギー組に挑みに行ったのだと悟った。レイではバギーには敵わない。自分でも勝てない。師リュウユウでさえ手こずる相手だという。特にバギーの毒牙はやっかいだ。バギーの事はリュウユウから聞いていた。危険だから手を出すなと言われていたのだ。レイが正義の心からバギー組を蹴散らそうと思っている事も知っていた。もっとしっかりと留め置くべきだったのだ。クライムは己の行いに後悔を感じながらも山を進んだ。

 山を進む度に殺気が感じられた。そして迫りくるバギー組の面々。彼らを次々を打ち倒していった。目指すはレイの救出だ。レイとバギー、二人の気が巨大化しぶつかり合うのをクライムはリュウユウの館で感じていた。そして急にレイの気が感じられなくなったのも。レイが毒牙にやられて敗北した事は明らかだった。殺される前に助けるしかない。バギーはクライムにとって兄弟子だ。同門のよしみで情をかけて欲しいと頭を下げるつもりだ。レイがまだ殺されていない事を信じて、クライムは進んだ。

 すると目の前に一際巨大な気の圧力を感じた。見てみると蛇の頭を持つ筋骨隆々の獣人の姿があった。クライムは立ち止まり、構える。他の雑兵共とは格が違う。一目で分かる強大な戦闘力。間違いない、バギーだ。クライムは恐怖する心を抑えて唾を飲み込んだ。


「……バギー殿だな?」


 クライムが恐る恐る問い掛ける。バギーはニヤニヤと笑っていた。余裕のこもった、侮蔑の眼差しを向けて。


「そうだ。お前はリュウユウの弟子だろ? お前の妹分が少し前にやってきてな。俺達を従えると言うんでボコボコにしてやったぜ」

「……まさか殺したりはしてないよな?」

「妹弟子だ。そこまではしねぇよ。ただ分からせてやっただけさ。世の中の厳しさってやつを。ヤツに会いたいなら案内するぜ」


 バギーは親指を伸ばして山頂を指差した。その表情には悪意がこもっているように見えた。しかしクライムはバギーと敵対するつもりは無い。レイを助けたいだけだ。その胸をバギーに伝える。


「俺はあんたと戦うつもりは無い。レイを助けたいだけだ。彼女を大人しく渡してもらおう」

「戦うつもりは無い、か。妹と違って弱腰じゃねぇか。まぁ良い、ついてきな」


 バギーは身を翻して山頂へと向かった。その後をついていくクライム。その周りをたくさんのバギー組の面々が監視していた。あくまで殺気は消えていない。歓迎はされていないようだった。バギー組は山賊だ。山を降りて民から略奪を繰り返す。悪行の数々は数知れない。そんなバギー組の首領バギーが自分に刃向かったレイを大人しく返すとは思えない。最悪バギー組全員と一人で戦わなくてはいけないだろう。そもそもレイは本当に生きているのか。実は殺されてしまったのでは無いか? ポンと生首を差し出されてもおかしくは無いのだ。それがクライムはとても不安だった。

 やがて山頂に辿り着いた。クライムは木の枝に両腕を吊るされた、血だらけのレイと対面した。クライムの姿を見るとレイは目の色を変えて目に涙を溜め込んだ。


「兄ちゃん!!」

「レイ! 大丈夫か!?」


 バギーの後ろを歩いていたクライムはレイの方に駆け出した。しかしバギーとすれ違った所で、バギーにその腕を掴まれてしまう。クライムが振り向くとバギーは残忍な笑みを浮かべて言った。


「お前、あの娘に慕われているようだな?」

「え?」


 バギーの拳が打ち込まれる。クライムはそれを顔面に受けて思い切り吹き飛ばされた。そしてレイの前にゴロゴロと転がる。クライムは痛みのあまり顔を抑えていた。レイが兄ちゃん! と叫ぶ。バギーはクライムの襟を掴んで持ち上げた。


「こいつの事、何度殴っても心が折れないんだ。絶望に染まった顔にならない。目の前でお前を殺したらどうなるかな?」


 それを聞いてレイの顔から血の気が引いた。震えた声を振り絞る。


「や、止めろバギー! 兄ちゃんに手を出すな!」

「どうかな? てめえ次第だぜ? やれ」


 バギーの合図でバギー組の面々が集まってきてクライムの体を掴み固定した。そして一人の男がクライムを殴り付ける。顔面から腹を何度も木の棒で打ち付けた。クライムは口から血を吐いた。気で身体能力を向上すれば大したダメージにはならないはずなのにそれをしていない。それは抵抗の意思は無いという表明だった。クライムはバギーと戦っても勝ち目は薄いと考えていた。少しでも二人が助かる道を探し、バギーの機嫌を損ねないように無抵抗を貫いているのだ。

 何度もクライムを殴る男達。バギーはそれを見て笑っている。レイはわなわなと体を震わしていた。怒りもあるが、自分のせいでクライムが無抵抗なまま殴られ続けている事実がレイの心を引き裂いた。


「止めてバギー! 兄ちゃんを傷付けないで!」


 レイが震えた声で懇願する。脳裏に過るのは義兄を失うのではないかという不安感。毒の影響もあってより強い不安に駆られていた。クライムを失う事は耐えられない。ましてや自分のせいで。レイは必死に懇願する。泣きそうな顔で。それを見てバギーは勝ち誇ったような笑いを見せる。


「中々良い顔じゃねぇかレイ。そういう顔が見たかったんだよ」


 バギーはクライムの顔面を思い切り殴り付ける。クライムは吹き飛ばされて地面にうつ伏せに倒れる。口から血を吐いて蹲った。木の棒を握って何度もクライムを殴り付ける。するとレイが叫んだ。


「兄ちゃんは妖鬼族じゃないんだ! 死んでしまう! 止めて! 殺さないで!」


 バギーは笑いながらクライムを殴り付ける。仲間達が歓声を上げた。クライムは黙ってやられているだけだ。するととうとう、レイが涙を流し始めた。涙声で懇願する。


「止めて……兄ちゃんに手を出さないで……」


 その顔を見たバギーはニンマリと口元を歪ませた。下品な笑い声を高らかと上げる。ようやくレイが泣いた。絶望に染まる顔になった。略奪された民達の顔と重なる。バギーはあのような心を打ち抜かれた人間の惨めな涙顔を見るのが一番好きだった。それは仲間達も同様だった。仲間達も同様に笑い出す。

 その後、バギーはクライムをレイの目の前で縛り付けて拘束した。しかしそれ以上殴るような事はしなかった。クライムもレイのように血だらけだった。レイは涙を流しながらクライムに謝罪の言葉を告げる。


「ごめんなさい。兄ちゃんごめんなさい……」

「俺は平気だ。それより気をしっかり持て」


 リュウユウにもクライムにも、バギー組には手を出すなと言われていた。その禁を破ったがために今がある。レイは責任を感じていた。自分のせいでクライムが怪我をしたと。申し訳無さと後悔でいっぱいだった。そしてバギーへの怒りとバギーに敗れた自分の無力さへの怒り。レイは色々な感情が爆発するように溢れ出て心が乱れていた。そして呼応するように溢れる涙を止められなかった。そんなレイをクライムはなだめていた。

 その二人を見てバギーは深く考えていた。どうすればレイの顔をもっと絶望に染める事が出来るか? 屈辱を与える事が出来るか? 傷をつけられるか? 女性が最も恥と感じる事にはいくつか思い当たる節がある。例えば他人、特に異性に裸を見せられる事、男に犯される事。他にも少し幼稚だが失禁や脱糞させるのも辱めるには良い行為だろう。かつてバギーを殺そうと幾人かの女忍者くノ一が寝首をかきに来た事があったが、バギーはそれを尽く排除し、死ぬまで屈辱を与えた。その時の定番だ。脱糞には見る側も抵抗があるのが多く、バギーも気分を害するが、失禁に関してはむしろ好きな者もいるくらいだ。義兄と慕うクライムや敵の前で無様に失禁させるのもショックが大きいだろう。バギー組が民を蹂躙する際にもそれはよくする事であり、仲間のカーストが低い女相手にも遊びでする行いである。そしてレイは毒牙に侵されている。丁度良い材料だった。

 殺すつもりは無い。その代わり心をへし折って二度と再起出来ないような植物状態にしてやろう。自分に手向かったレイを確実に潰してやろう。バギーはそう思った。

 バギーはレイの側に寄った。レイをじっと見下ろす。レイはバギーを見ないように俯いて黙っていた。するとバギーはレイの顔を両手で掴み、無理矢理顔を己に向けさせた。レイは少し驚いて言葉を失う。涙を見せたくないのに、依然と流れる涙に、それをバギーに見られることにレイは恥じ入った。バギーはニヤリと笑ってレイの目を見下ろした。


「……何なの? そんなにこの顔が見たいの?」

「ふふふ。すぐに分かる」


 毒の影響でレイの精神はバギーに支配された。そして心と体は密接に繋がっている。体を関節的に支配する事も可能だ。例えば急に強烈な尿意を催すような事も出来るのだ。

 レイは突然強烈な尿意を催して腰を引いた。さっきまで微塵も感じなかったのに何故とレイは不思議に思った。無意識に太腿をすり合わし始める。しかし、やはり尿意を敵に悟られるのは恥と思ったのだろう。何とか平静を装う。しかし涙も我慢出来ないのだ。尿意を我慢する気力など無く、意識していても太腿が揺れてしまう。するとその太腿をバギーの手が触れた。


「お前の心も体も俺の意のままだ。早速尿意を催してきたようだな」

「……お前の仕業? 一体何のために? ……っく……」

「ただの余興だ。少しでもてめぇに恥をかかせようと思ってな。てめぇらは俺達の遊びに使う人形なんだぜ?」


 バギーは身を翻し、仲間達を集めた。仲間達はバギーの前に集合する。バギーはレイに指差して大声で告げた。


「この娘が小便がしたくてたまらないとよ。小便させてやろうか、我慢させるか、どっちが良いと思う?」


 仲間達がざわめいた。クライムも驚いたような顔をしていた。レイは恥ずかしく思って唇を噛み締めて俯いた。それでも体が揺れるのを止められなかった。これでも最小限に動きを止めている。しかし込み上げる尿意は凄まじい。一升瓶の酒を飲み、寝て、尿意のために起きた時に感じるような強烈な尿意だ。今のレイではいつ漏れ始めても不思議では無かった。レイは息を乱し始める。顔を赤く染めて唇を噛んだ。やはり涙が流れるがそれは不安感と羞恥心によるものだ。レイはクライムにはおもらしを見せても良いがそれはクライムにだけであり、他の人には見られたくない。ましてや敵には尚の事だった。催してると悟られるだけでも死ぬ程恥ずかしかった。

 仲間達はそれぞれ相談を始めた。やがて一人の男が口を開く。


「我慢させるべきだ。みっともなく尻を揺らす所をみんなで見てやろう。最後に漏らすまで、じっくりとな」


 男は笑みを浮かべる。すると他の者達も歓声を上げた。女性陣は気にならないのか複雑な表情だ。自分達も過去にその対象にされた事があるよで気が乗らないのだろう。先程レイを痛めつける事には乗り気だった者達も今回ばかりは気が乗らないようである。


「と、言うわけだ。そこで我慢しろ」

「……なんでお前らの言う事を聞かないといけないんだ」


 とは言え、大勢の前で漏らしたくはない。かと言って排尿を見られたくもない。しかし排尿を許してくれるわけもない。結局彼らの思い通りに、漏らすまで我慢するしかないのだ。自分からするのなら、見るのがクライムだけなら良かったが敵に見られながら、強制されるのはとても嫌であった。しかし、レイには選択権など無かった。

 バギーはクライムの下に駆け寄るとその頭を踏みつけた。


「一つ、条件をつけよう。今から日没まで小便を我慢しろ。後五時間くらいか? もし途中で漏らした時はこのガキの首を斬る」

「なっ!?」

「安心しろ。お前も後を追わせてやる。しかし、我慢出来たなら二人共命は助けてやろう。しかしどの道漏らしてもらうがな。どうだレイ? 悪くないだろ?」


 バギーは卑らしい笑みを浮かべて言う。レイは歯を食いしばり言った。


「大した趣味だね。約束は守るんだろうな?」

「俺の弟弟子だ。出来れば殺したくない」

「……わかったよ。我慢してやろうじゃないか」


 しかし、三歳児の体に五時間以上の我慢は大変であろう。ましてや現段階で激しい尿意を催していては。そして気による身体能力の向上も出来ないとあっては。それでもレイは気合で我慢する事にした。

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