Day3
「これ、お前だろ?」
それは、Arnoldが物陰から撮ったであろう、一本の動画だった。夜と明け方の狭間ぐらいの時間帯で、うっすらと霧がかっている。
その中で、二人の男が揉み合っている。一人は真っ青な顔で、「やめろ」「死にたくない」と抵抗している。
もう一人は……、頭部に灰色の耳を生やし、臀部に灰色の尾を生やした、半身半獣の男だった。口を真っ赤に染め、残虐に人肉を噛みちぎっている。
……いや、今更どうでもいい。これを見せてきた以上、コイツは俺の正体に勘付いている。
この「狼男」こそが、俺自身なんだろう、と。
「いやぁ、驚いたぜ、全く。お前、可愛い顔して、グロテスクな趣味してんなぁ」
ああ、これだから、Werewolf Gameは嫌いなんだ。全員が指を立てて、俺を吊ろうと息巻いているから。
「Will、お前もひどい男だよ。無力な一般市民をさぁ、こうやって、痛ぶるように殺すんだろ? ほら、ここなんか、筋肉が切れる音がするぜ」
Arnoldは、むしろ楽しんでいる。まるで、この日を待ち望んでいたかのように。
「で、だ。お前も薄々察していると思うが、勿論タダで帰してやる訳にはいかねぇ。そのために、わざわざ動画まで撮ったんだからよ」
──タダでは帰さない、だと?
咄嗟に、殺気立ってしまう。「ダメだ、抑えろ」と、頭では分かっていても、疼きを止めることができない。
「おいおい、Willちゃん。お耳が隠しきれてないぜ?」
やめろ、俺を煽るんじゃない。
「何だよ、殺してみるか? 俺も、コイツみたいに」
スマホの画面をチラチラと見せ、ヤツは俺を嘲笑う。本能と理性がせめぎ合っていたが、もう、限界だった。
──殺す。
俺はArnoldの肩先に、手を伸ばした。
が。
ヤツはもの凄い力で俺の手首を掴み、ぐいと体を引き寄せてきた。
「なっ……!!」
強い。痛い。手首が千切れそうだ……!
コイツ、一体どこから、こんな力が……。
「どうした、Will。俺を殺してみろよ」
色素の薄い髪に、鋭い犬歯。いつもは緑色の瞳も、今宵は何故か、赤みがかっている。
俺は思わず、息を呑む。
Arnoldは、ゲームに出てくる“Vampire”にそっくりだった。
「お前、まさか……」
「驚いたか? その『まさか』だよ」
ドサリ、と買い物袋が落ちる。残酷なまでに、時間の流れがノロマに感じられた。
「……お前、俺に一体、何を求めている?」
「まぁまぁ、そんなに構えるなって。詰まるところ、『これ』だ」
Arnoldが、ポケットから一枚のカードを取り出した。人狼ゲームの特殊ジョブ。右下には、“Lover”の文字が踊っている。
「Will。ゲームが終わったら、俺の部屋まで来い。この動画を、拡散されたくなかったらな」
ポンと肩を叩いてくる、Arnold。首吊り宣告よりも、残酷に思えた。
Werewolf Game 中田もな @Nakata-Mona
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