第8話 妖怪犬〈血なめ〉

 うーん、違和感いわかん


 あれ、前にささげた三人の服とかが、無くなっているぞ。

 ここにいる知的生物が持っていったのか、そう思うと怖いな、早く出よう。


 外に出たら、もっと怖い事になっていた。


 せた野良犬が、〈はると〉の流した血を、ペロペロしてたんだ。

 うわぁ、猟奇的りょうきてきだ、あんたは妖怪犬〈血なめ〉かよ。


 俺は恐ろしくなって、昼御飯用にコンビニ買った、コッペパンを妖怪犬〈血なめ〉へ、思い切り放り投げて、建設現場から逃げ出した。

 コッペパンを食べているうちに、逃げようと、とっさに考えたんだ。

 少しだけ賢いだろう。


 「ワン」


 うぇぇ、妖怪犬〈血なめ〉が、口のまわりを真っ赤に血で染めて、吠えているよ。

 お願いだから、追いかけて来ないでね。


 「ただいま、〈さっちん〉。 はぁ、怖かった」


 「お帰り、〈よっしー〉。 んー、あんたズボンがドボドボだよ。 きやー、まさからしたの」


 「うっ、妖怪犬〈血なめ〉と遭遇そうぐうしたんだ。 口の周りが血で真っ赤だったんだよ」


 「はぁっ、この大バカ大スケベ野郎。 ちょっとは、マシな言い訳をしなさい」


 「はい。 大人のくせに、チビッてすみません」


 うーん、あれ、〈大スケベ〉って必要なの。

 それに銃で撃たれたからチビッたんだよね、それはしょうがないんじゃないかな。


 〈さっちん〉にそう説明したら、〈さっちん〉は溜息を吐ためいきをついた。


 「はぁー、〈よっしー〉はそんなに危険な男だったんだ。 私の運はとことん無いんだ」


 俺の話をそのまま受け入れる、〈さっちん〉はとても素直な子だ。

 異界に比べれば、まだ銃で撃たれるのは現実的な事なのかも知れないな。


 「そんな事は絶対ない。 必ず君を世界一幸せな女にするよ。 俺の愛は地球を救うんだ」


 「はいはい、寝言は死んでから言ってよ。 それよりも、早くズボンとパンツを脱ぎなさいよ」


 あまり嫌がらないで、おしっこでベチョベチョの俺のズボンとパンツを、〈さっちん〉が手で洗ってくれている。


 「〈さっちん〉、汚いから無理するなよ」


 「ほんとバッチいわね。 でも私は子供の頃から、こんな事には慣れているんだよ。 酔っ払いのゲロが飛び散っている、お店の床を雑巾で、いつも掃除させられていたんだ」


 ゲロよりも、俺のおしっこの方がマシだと言ってくれて、俺は猛烈な感動を覚えた。


 〈さっちん〉に幸あれ。

 おしっこに栄光あれ。


 「〈さっちん〉、少しお金が手に入ったから、夕食は豪勢にいこうか」


 「へっ、無職なのに無理しちゃって 。適当で良いわよ。 ただ飲み物は甘いのをお願いね」


 俺はフルチンから、ジャージに着替えて、コンビニへと走った。


 〈さっちん〉に俺のフルチンを無視されたので、少しへこんでしまったな。

 きゃーとか、大きいとか、言ってほしかった、せめて笑って欲しかった。

 無関心は心を折ってしまう、心へのやいばだ。


 俺は傷つきながらも、小走りでコンビニへと向かっている。

 ジャージだから、走っても良いはずだ、ジャージは素晴らしい服だよ。


 だけど、どうして〈さっちん〉は俺が無職だと知っているのだろう、告白はまだしていないよな。

 デロンとした顔で分かったなら恥ずかしいぞ、前から歩いて来る、ポッチャリOLにもバレているのか。


 適度な脂肪で柔らかいお肉。

 豪勢って言ったら肉だよな、肉にしようか、豚バラでも良いぞ。


 でも肉を焼くものがないな。


 妥協だきょうして俺はコンビニで、特選豪華弁当を二つ買った。

 妥協して特選豪華弁当だと、俺はおごり高ぶった腐った資本家かよ、赤貧せきひんを忘れたのか。

 賞味期限切れで安売りになっていた、ドッグフードを買おうとした日々を。


 〈さっちん〉は甘い飲み物と言っていので、イチゴミルクを買ってみた、赤と言うよりはピンクだ。

 〈さっちん〉はピンクで良い。


 ただゴハンとは合わないよな、想像しただけで気持ち悪くなる。


 缶酎ハイは、無糖とメロン味を買った。

 メロンは、イチゴミルクを特選豪華弁当と共に、〈さっちん〉が吐いた時の保険だ。


 メロンとイチゴの、どこに差があるのだろう、先ちょっと全体の差だ。

 だが〈さっちん〉は、メロンほどの大きさは無い。

 先ちょっは、イチゴでも間違っていない。


 「おぉ、ほんとに豪華だね。 お金は大丈夫なの」


 〈さっちん〉は苦労性なんだ、お金の心配合が先にくるんだな。


 「心配しないで食べろよ。 臨時収入があったんだ」


 「へぇー、良い事もあるんだ。 それじゃ遠慮なく」


 〈さっちん〉は、特選豪華弁当を食べながら、イチゴミルクをゴクゴク飲んでいる。

 良く平気だなと、買ってきたくせに俺は思ってしまう、俺にはこんな極悪なまねは出来ねぇ。

 食事への冒涜ぼうとくだとさえ思ってしまう。


 「んー、なに私の顔を見ているのよ。 食べているのも、可愛いって言いたいの」


 「あっ、うん、そうだよ。 〈さっちん〉のモグモグは可愛いよ」


 「はぁ、私って罪な女なんだ。 〈よっしー〉を狂わせてしまったのね」


 「そ、そうかな」


 「ぐうぇ、〈よっしー〉がれてどうすんのよ。 こっちまで恥ずかしくなるわ」


 「まあ、気にするなよ。 それより、食べようぜ」


 「ふん、〈よっしー〉のっ込みが良くないんだ。 食べているわよ」


 あれ、先ちょっだったかな、根元までズブリと突いたよな。


 俺は特選豪華弁当を食べ終えて、残っている無糖をチビチビ飲んでいる、お茶も買うべきだったな。

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