第7話 単なる実験動物あつかい

 俺は採用を保留してもらい、研究所を出てきた、んー、保留になっていたよね。

 社宅に住む事だけが、保留になってた気もする。


 それに勤務時間とか休日を聞いていないぞ。

 〈渡さん〉も説明しないし、グダグダの面接だったな。


 アパートへ帰る俺の足取りは軽かった、決して給料は高くないけど、仕事が見つかりそうなんだ。

 それに、すごーくゆるそうなのが、とても良い、とても仕事が楽そうに思える。


 所長がどんな人か分からないけど、大金持ちの道楽的なもんじゃないのかな。

 研究者が一人しかいないのに、まともな研究が出来るはずがない。


 うーん、マジでまともじゃないよな、ちょっと心配になってきたな。


 アパートへの帰りに、念のため公園を通ったら、半グレの〈はると〉がベンチに座っていた。

 耳とくちびるに無数につけている銀のピアスが、正午しょうごの太陽をキラキラと反射している。


 あんなに一杯つけて、痛くないんだろうか。

 ピアス同士が当たったりしないのかな、分からない事が多い男だ。


 「よぉ、〈はると〉君。 あの、あれだ。スナック〈桜草〉の件は、暴力団がからんでいたんだよ」


 「あれはもう良いです。 ふふっ、それより、もっと金になる話があるのですよ」


 あまりにもあっさりと、良い、か。

 金になる話、そんなものが、俺へ回ってくるはずがない。


 俺が頭の中に所持している、性能の良くない警報装置が、悪いなりに警報を鳴らしているぞ。

 本能が危険を知らせてくる。


 だが、だまされるか、と言って逃げるのは、それもヤバいぞ。

 ここは、機嫌を損きげんをそこねないように話を合わせて、タイミングを見計い有耶無耶みはからいうやむやにして逃げよう。


 「へぇー、金になるのか」


 「そうなんですよ。 ここではなんですから、場所を変えましょう」


 そして、俺は建設中のビルに中へ連れてこられた、建設作業員の姿は一人もない。

 音の出る作業が出来ない日なのか、週休二日制のために休んでいるのか、どちらでもなければ良くない感じだぞ。


 第一建設中に入ったら、危険だと怒られるよ、部外者は立ち入り禁止だ。


 歩いて行ける距離だと言われて、ノコノコついて来た、俺はかなりのおバカさんでは。

 あまりにも近すぎて、逃げるタイミングを失ったんだよ、あぁー。


 んー、〈はると〉がかわの手袋をはめだしたな、えっ、今から建設作業をするの。


 「へへっ、ちょっと研究に協力して欲しいんですよ。 ふふっ、直ぐに終わりますから」


 そう言った途端とたん、〈はると〉は俺の腹に、硬い物を押し当ててきた。


 やっ、これはまさか、嘘だろう。

 ピストルってやつか。

 俺はここで始末しまつされちゃうの。

 殺されるような事はしてないぞ。

 あっ、三人の男を神様に捧げたな。

 だけど、異界の出来事を知っているはずがない。


 「ぴゃ、〈はると〉君、どういう事なんだ」


 ちぃ、チョロチョロとチビッてしもうた、お腹の硬いのが、とっても怖いよ。


  「おぉっと、動けば引き金を引きますよ。 ははっ、独自に開発した小型銃の試験なんですよ」

 

 俺は単なる実験動物あつかいか、野良犬みたいな男だから、バレないと思っているんだ。

 くそぉ、動かなくても後で引くくせに、良く言うよ。


 簡易なじゅうを作っているのか、ただそれは重犯罪だぞ、組織が暴走しているんじゃないか。


 どちらも、超ヤバイぞ、今は圧倒的に引き金の方がヤバイ。


 「ボン」「キン」


 「ぎゃあぁぁぁ」


 大きな破裂音はれつおんの後で、〈はると〉がぐしゃぐしゃになった手を抱えて、悲鳴をあげている。


 簡易銃が暴発したんだ、これが初発射試験だったのだろう、いいや、それは無いだろう。

 俺を撃つまでに、何回も何十回も、試し撃ちをしていないとおかしい。


 「くっ、めやがったな、腹に鉄を巻いていたな。 ぐっ」


 〈はると〉は血が流れ過ぎているんだろう、見る見るうちに顔色が悪くなっていく。

 動画を二倍速で見ているようだ、そしてピクリとも動かなくなった。


 それにしても、腹に鉄を巻いていたって、何の事だ。


 確かに、お腹が硬くなった気はしたけど、鉄を巻いてなんかいない、そんな人がいる訳ないじゃん。

 お腹が硬くなったのも、銃を突きつけられて、そう感じたのに過ぎない。


 一時的にでも、皮膚が鉄並みに硬化するって、異世界転生のアニメだよ。

 そんなふざけた、荒唐無稽こうとうむけいなことを考えちゃいけない。


 〈はると〉は極限状態だったからな、変でもそれはしょうがない。


 今はやすらかに、んー、じゃない。

 うわぁ、顔が憎悪でゆがんでいるよ、怖いよ、またチョロっと出ちゃったよ。


 しょうがない、また、神殿にそなえるか。


 俺は血がつかないように、工事現場の青いビニールシートを一枚パクって、引きずるように、すごい形相ぎょうそうの〈はると〉を苦労して運んだ。

 当然、顔は見ないようにしてだ。


 祈りを捧げると、〈はると〉は綺麗に消えていた、はぁー、良かった。


 今回も、七色の光線が現れて最後にはまぶしい球となり消えた。

 何もかも忘れて、うっとりするような、多幸感がしてしまう。


 はぁー、クセになりそうだよ。


 〈はると〉は、三万三千三百円持っていたから、それは頂いた。

 〈はると〉の服とひしゃげた簡易銃と、血のついた青いビニールシートは、ここに置いておこう。


 ただのゴミだ。

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