第9話 未成年なのにそれは法律違反だ

 〈さっちん〉も食べ終えて、メロン味に手を伸ばした。


 「おい、〈さっちん〉。未成年なのにそれは法律違反だぞ」


 〈さっちん〉が弁当を食べている姿が、思っていた以上に幼かったから、俺は〈さっちん〉がまだ高校生なのを思い出したんだ。


 「良いじゃん。 私は〈よっしー〉に無理やり大人にされたんだよ。 〈よっしー〉の方こそ、未成年不同意罪じゃないの」


 そんな犯罪名は無いが、淫行いんこうと言われても返す言葉が無い。


 「うっ、ちょっとだけだよ」


 「はん、キスだけってお願いしたけど、全部したくせに良く言うわね」


 〈さっちん〉はそう言うと、メロン味をグィーと飲んでしまった。

 一気は良くないな。


 「あぁ、お風呂に入りたいな」


 「銭湯なら、一キロ先にあるよ」


 「はぁー、往復で二キロ。 信じられない」


 「あっ、そうだ、思い出した。 風呂つきの社宅へ入れるかも知れないんだ」


 「えっ、それは何なのよ」


 俺は〈さっちん〉に〈いかい生活研究所〉の事を話した。


 「と言う事なんだよ」


 「うーん、怪し過ぎるわ。 でもお風呂か。 虎穴に入らずんば虎子を得ず、って事ね。 決めちゃいましょう」


 「えぇー、〈さっちん〉も今怪しいと言ったよね。 大丈夫かな」


 「無職が贅沢ぜいたく言っているんじゃないよ。 男は度胸、私には愛嬌があるわ」


 「えっ、あったかな」


 「はぁ、あれだけ、綺麗だ、可愛い、スタイルが良い、って言ったくせに、嘘だったの」


 「えぇっと、嘘じゃないよ」


 スタイルが良いとは言ってないが。


 〈さっちん〉もトドママの娘だけあって、お腹とかに脂肪が少しついているため、それを気にしているんだろう。

 特に太ももが、プルルンとしているのが、ムッチリしてとても良い。


 「どこを見ているのよ。 失礼しちゃうわ。 良いから、明日一番で連絡するのよ。 分かった」


 「はい、そうします」


 無職を続けていられないから、俺も半分以上決めていたけど、〈さっちん〉の言う通りになってしまった。

 高校生なのに、さすがはトドママの娘だな、すごく押しが強い、お相撲さんのようだ。


 「ちょっと酔ったから、もう寝るわ。 〈よっしー〉はソファーで寝てよ」


 「あー、俺の部屋には見ての通り、ソファーなんか無いよ」


 「ちぃ、そうだったわ。 貧乏はほんと嫌ね。 床で寝たら」


 「えー、六畳一間だから全部床だよ。 そこに布団を引くだけだぞ」


 「ああ言えばこう言う、ウザいね。 私の体を自由に出来るのは一回だけよ。 もうダメなんだから」


 「うー、そんな、ひどいよ」


 「ひどくない。 ひどいのは〈よっしー〉だよ。 しょうがないな、布団には入って良いけど、お触りは一切禁止だからね。 分かった」


 「はー、俺の布団なんだけど」


 「男のくせに、細かい事を言うんじゃない」


 「ふー、今日のところはもうそれで良いです」


 「ふん、明日も明後日も、もう触らないでよ」


 〈さっちん〉と一緒に布団にくるまるが、シングルだから、とても狭い。

 どうしても、体がひっついてしまう、〈さっちん〉の体は温かいな。

 〈さっちん〉も俺を感じてくれているのだろう、感想が止まらない。


 「男くさいな」

 「匂を嗅ぐな」

 「引っ付くな」

 「動くな」


 偶然〈さっちん〉のおっぱいが、手に触れたから、俺は固くなってしまった。


 押し当てられて、固くなる。


 俺は〈はると〉に殺されかけた事を、不意に思い出してしまった。

 殺されかけた事が、フラッシュバックして、まるで動画みたいによみがえってくる。


 今まで気にしていなかった方が、おかしいんだ、死ぬところだったんだぞ。

 そう思うと怖くて堪らない、体も小刻みに震えてくる。


 「怖かったね。 でももう大丈夫だよ。 私がついているわ、 心配しなくても良いのよ」


 〈さっちん〉は俺をギュッと抱きしめて、優しく声をかけてくれた。

 背中もさすってくれる。


 俺は少し安心出来たのか、そのまま眠ったらしい。


 「やっと起きたのね。 早く研究所へ連絡しなよ」


 「うぅ、歯磨きと朝食は食べさせてよ」


 朝食と言っても、〈さっちん〉が買ってきた、黒くなって特売で売られていたバナナだ。

 〈さっちん〉とは、食べ物の好みが合うわ。



 〈渡さん〉が、今直ぐにでも働いて欲しいと五月蠅く言うので、俺と〈さっちん〉は引っ越しをする事に決めた。


 俺はとりあえず、服とか身の回りの物をボストンバッグへ詰めた。

 それとノートパソコンが一台だ、残っているテーブルとチェストと冷蔵庫は、引っ越し業者に頼むしかないな。


 〈さっちん〉は、服と洗面用具とかを、紙袋に入れただけで、他にもう何も無い。


 「さぁ、行くわよ」


 〈さっちん〉は、なぜか張り切っているぞ、理由は不明だ。

 俺は一階に住んでいる管理人さんに、部屋の解約をする事を伝えた。


 「出て行くのか。 だけどな、ヒモはヒモで大変なんだぞ。 女をコントロールするのは難しいんだ」


 管理人のおじいちゃんは、〈さっちん〉を連れ込んだ事で、大きく誤解している。

 コントロールされているのは、たぶん、俺の方だろう。


 それにしても、モテない俺がヒモって、それは無理ってものよ。

 ヒモって、憧れちゃう薔薇色の未来だよ、ホストよりもコスパが良さそうだ。


 管理人のおじいちゃんの腕に、刺青があったという噂は、本当なのかも知れないな。

 解約届けを渡してくれた時に、見えた指がどうだったかな、半生が刻まれていたよ。


 「やったー、すごいね。 一軒家じゃないの。 私のお家だ」


 〈さっちん〉のテンションが異常に高い、何がそんなに嬉しいんだろう。


 「うわぁ、可愛いキッチンも、お風呂もあるんだ。 三つもお部屋があるよ」


 スナック〈桜草〉の二階は、相当狭かったんだろうな。


 「掃除用具を買ってくるから、お金をちょうだい」


 「えっ、この前のお釣りは」


 「そんなもの、ある訳ないじゃん。 服を買ったことが無いの」


 「うーん、ここ何年も買ったことがないな」


 「はぁ、だからダサいんだ。 お給料が出たら私が選んであげるわ。 うふふっ」


 〈さっちん〉はケラケラと笑いながら、買い物へ出かけていった。

 俺は〈渡さん〉に仕事の内容を聞いておこう。


 「〈よしおさん〉、仕事は簡単な事です。 要は研究対象の整理だと思って下さい。 それと電話番と来客対応になります。 もっとも、電話も来客も滅多にありませんが」


 「へぇー、そうなんですか。 簡単そうですね。 整理が終わったら、何をすれば良いのですか」


 「うーん、終わらないと思いますので、自分のペースで進めて下さい。 奥の収蔵庫に格納されている、呪術具じゅつぐをカメラで撮るだけです。 そしてそれをパソコンへ取り込み、名称と特徴を記入するのですよ」


 「えっ、呪術具って何ですか。 それに、どうして終わらないのですか」


 「収蔵庫に入れば分かります。 要は沢山あるのですよ」


 俺は収蔵庫の中身に圧倒されてしまった、膨大な数とその異様さだ。


 呪術具って言うのは、どれも何だか、グロテスクで禍々しい。

 黒くてやけに細長い、木彫りの人形が集団で俺を見ているぞ。

 アフリカの呪いの人形なんじゃ無いのか、テレビで見たことがある。


 目が合うと震えます。


 奇妙な線で描かれたお札や、銀製のナイフが壁一面にあるし、古びた指輪と首飾りではち切れそうな棚もある。


 その他得体が知れない物が、てんこ盛りだぁー。


 俺は一辺に嫌になってしまった、もう退職したいよ、怖すぎだよ。

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