第4話 未来への旋律
月日が流れ、二人はそれぞれの道を歩んでいた。佐倉陽奈は音楽大学に進学し、夢だったピアニストへの一歩を踏み出していた。一方、藤崎蓮はバイオリニストとして再び舞台に立ち、かつて失った自信を取り戻しつつあった。
二人は忙しい日々を過ごしていたが、心の奥底では常にお互いの存在を感じていた。離れていても、音楽が二人を繋いでいた。
ある日、陽奈は音楽大学のホールに掲示されたポスターを目にした。それは、蓮が出演するコンサートの告知だった。
『藤崎蓮 バイオリンリサイタル — 夜空に響く旋律』
陽奈の胸が高鳴った。すぐにチケットを購入し、コンサート当日を心待ちにした。
——そして迎えたリサイタル当日。
ホールは満席で、観客の期待が高まっていた。陽奈は最前列の席に座り、胸の鼓動が高鳴るのを感じながら蓮の登場を待っていた。
やがて、舞台の幕が開き、蓮がゆっくりと姿を現した。黒いタキシードに身を包んだ彼は、かつての不安げな少年ではなく、自信に満ちた音楽家の顔をしていた。
蓮がバイオリンを構え、最初の音を奏でた瞬間、ホール全体がその音色に包まれた。その旋律は、切なくも力強く、聴く者の心を揺さぶった。陽奈は目を閉じてその音に身を委ねた。
——この音色は、蓮君そのものだ。
演奏が進むにつれ、陽奈の瞳には涙が滲んでいた。蓮のバイオリンは、彼の葛藤、悲しみ、そして希望を語っているようだった。
演奏が終わり、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。蓮は深く一礼した後、観客席を見渡し、陽奈の姿を見つけた。
二人の視線が交わった瞬間、蓮の表情が柔らかく和らいだ。彼は舞台袖に消えると、すぐに陽奈の元へと向かった。
「……陽奈」
ホールのロビーで、蓮は陽奈の名前を呼んだ。振り向いた陽奈の頬には涙の跡が残っていた。
「蓮君……おめでとう。素晴らしい演奏だったよ」
「ありがとう。でも、今日ここに来てくれたことが、何より嬉しい」
蓮はそっと陽奈の手を取り、その温もりを感じた。
「また、一緒に弾こうよ。あの時のように」
陽奈は涙を拭い、笑顔を見せた。
「うん、何度でも」
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