第3話 夜空に響く音色

その夜、二人は音楽教室を出て、近くの公園へと歩いていた。夜風が心地よく、街灯の明かりが二人の影を長く伸ばしている。

「今日は楽しかったな」

陽奈がふと口を開くと、蓮も小さく頷いた。

「うん……久しぶりに、心から楽しいって思えた」

「また一緒に演奏しようよ。蓮君のバイオリン、本当に素敵だったから」

蓮は少し照れたように顔を背けたが、その瞳にはかすかな笑みが浮かんでいた。

「……ありがとう。陽奈がそう言ってくれるなら、また弾いてもいいかもな」

二人はベンチに座り、静かに夜空を見上げた。星が瞬き、月明かりが街を優しく包んでいる。

「蓮君、星って好き?」

「うん。小さい頃、よく父と夜空を見上げてた。あの頃は、何も怖くなかったんだ」

陽奈は蓮の横顔を見つめ、そっと手を伸ばした。

「その頃の気持ち、少しずつ取り戻そうよ。音楽も、星空も、全部」

蓮は陽奈の手を握り返した。その手は少し冷たかったが、確かな温もりを感じた。

「……陽奈がいると、不思議だよ。怖さが少し和らぐ気がする」

「私も同じだよ。蓮君がいると、私も強くなれる気がする」

その時、どこからかアコーディオンの音色が聞こえてきた。近くの広場で、路上ミュージシャン達が演奏しているようだ。

「行ってみようか?」

陽奈の提案に、蓮は頷いた。

広場には人々が集まり、音楽に耳を傾けていた。その中で、年配の男性がアコーディオンを演奏し、柔らかな旋律が夜空に響いていた。

「素敵だね」

「うん。こういう音楽もいいな」

演奏が終わると、男性が二人に気づき、笑顔で話しかけてきた。

「君たちも、音楽をやるのかい?」

「はい。私はピアノで、彼はバイオリンです」

「そうか。若い音楽家に会えるのは嬉しいね。よかったら、次は君たちが演奏してみたらどうだい?」

蓮は一瞬戸惑ったが、陽奈の瞳に映る期待の色を見て、ゆっくりと頷いた。

「……やってみる」

二人はその場で演奏を始めた。広場に響く電子ピアノとバイオリンの音色は、街の喧騒を忘れさせるような美しい調和を生み出した。

人々は足を止め、二人の演奏に耳を傾けた。そして、演奏が終わると、大きな拍手が広がった。

「ありがとう、蓮君」

「いや、俺の方こそ……ありがとう、陽奈」

その夜、二人はいつまでも音楽について語り合った。二人の心は、音楽を通じてさらに深く繋がっていくのを感じながら。

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