6.神奈川県三浦市の溶岩蛇-2
先日の調査で貝塚らが発見した洞窟。
地下に広がる大空洞の入口であるその場所を前に、一行は配置についた。
洞窟の近くには嶋田とニスロク、数名の護衛、そしておまけの貝塚と柿本が隠れている。
他の人員は洞窟を取り囲むように距離を取って展開している。
嶋田は周囲を一度見渡した後、左耳に手で触れた。
耳には普段の装飾品とは別に、片耳型の通信機器がつけられていた。
それを使って配置された人員と連絡を取る。
「こちら嶋田、周辺の状況を報告しろ」
「特に目立った動きは無い。事前に収集した情報とも変わらず、外に出てくる運の悪い奴らもいない」
「了解した。そのまま監視を継続しろ。こちらは作戦を始める」
「了解。ご武運を」
嶋田はニスロクと護衛を伴って洞窟の前まで進む。
貝塚と柿本はバックアップ兼記録係としてその場に待機し、柿本が嶋田らの動きを手にしたカメラで追った。
洞窟の前でニスロクが立ち止まり、嶋田らが守るように囲む。
ニスロクは一度嶋田の方を向き、嶋田が頷いたのを確認してから地面に手をついた。
「さて、久々の大仕事ですからね。後に出てくる料理のことも考えれば、気合いも入るというものです」
ニスロクの周囲に光る魔法陣が浮かび上がり、しばらくすると地面が揺れ始めた。
揺れは徐々に大きくなっていき、木々が揺れて葉が散り、動物たちが走り出す音がこだまし、鳥たちが空へと逃げ出す。
何も知らない者たちからすれば、大地震が来たかと勘違いするに違いない。
嶋田たちもまともに立っていられず思わず地面に手をついた。
その瞬間、山が地響きを立ててペシャっと大きく沈み込んだ。
雪崩のように外側に崩れて端が広がったのではなく、まるでダルマ落としでもあったかのように沈んでいる。
実際には地下部分が大きく消失し、その隙間を埋めるように沈み込んだのだった。
文字通り大規模な土木工事と言っていいだろう。
大型ビルの発破工事のように内側に崩れているので、山頂部分は窪地のように低くなっていた。
「おー、綺麗に沈み込んだな」
貝塚が潰れた山を見ながら脳天気に声を上げた。
雪崩や土砂災害よりも珍しい光景であるため、確かに滅多に見られるものではない。
地下にいた者たちも貴重な体験ができたはずだ。
敵が地下に集結しているというなら、山を崩して潰してしまえば良い。
大空洞が広がっているのだから、その周辺の岩盤を消滅させれば、後は勝手に崩れて敵を潰してくれる。
仮に倒しきれない敵やモンスターなどがいたとしても、大量の土砂で身動きが取れなければ窒息死となり、呼吸が不要でも脱出することは叶わないだろう。
手間もかからないし反撃も受けず、一方的に攻撃できる素晴らしい作戦だった。
『敵を倒すとのことですが、具体的にはどのような手段を用いればよいのでしょうか?契約上、そのあたりの指定をして頂かないと困ります』
ニスロクにそう言われて、出てきた案がこれである。
ちなみに発案者は貝塚で、それを聞いた嶋田は「流石にそれはどうなんだ?」と顔をしかめた。
敵と対面した上で排除してもらうという選択もあった。
だが正面切って戦い、被害を受けるリスクを鑑みれば選ぶことはできなかった。
殲滅の確認が難しいのに加えて卑怯この上ないという点に目をつぶれば、リスクとリターンがこれほど良い案は無かったのである。
「こちら嶋田、作戦は成功した。怪我した間抜けはいないな?運良く逃げた敵がいるかもしれないから監視を怠るな。しばらくはこのまま待機する」
嶋田が地面に伏せたまま他の参加者に指示を出すと、すぐに分散していた者たちから返事がきた。
「了解。とはいえ、流石にこれじゃ生き残りはいないように思えるがな」
「念の為だ。窒息待ちとなれば数時間は待機することになる」
「うへぇ...。楽なのはいいが、状況が確認できないまま待つってのも辛いぜ。生き残りがいるならさっさと立ち上がってくれ」
嶋田らが軽口をたたき合っていると、突如潰れた山から光の柱が上がった。
「マジかよ!」
「余計なこと言いやがった馬鹿は誰だ!」
「ちっ、本当に生き残りがいたのか!?」
通信がにわかに慌ただしくなり、嶋田が慌てて光の方に視線を向ける。
光は円柱状に上がっており、山頂部分を始めとして光が触れた場所から徐々に土砂が消えていく。
そして、土砂が消えていくのに合わせて光の柱も少しずつ小さくなっていった。
「全員光の根本に集合しろ!」
嶋田はそう言い放つと駆け出し、他の者たちもすぐに追従する。
その場に残ったのはニスロク、そして貝塚と柿本。
貝塚は嶋田たちが向かった先を見つめながら、ボソリと呟いた。
「...面倒だな。帰ったら駄目か?」
「駄目です」
柿本にきっぱりとダメ出しをされ、貝塚は頭をかきながら嶋田たちが向かった方向へと歩き出す。
「仕方ねえな…。恵、ちゃんと覚悟しておけよ?」
「えっ?」
貝塚が何を言っているのか分からず柿本は戸惑う。
そんな危機感の無い弟子の姿を見て、貝塚は呆れながらため息をついた。
「あんな想定外の現象が起きたんだ、ろくでもない事態になってるに決まってるだろ。今から俺たちはそんな場所に赴くんだぞ?」
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