第9話 『 牢 』
わがままな王様。その家来たちはそれぞれの立場で王様の扱いに四苦八苦している。ある時素朴さと真面目さだけが取り柄の家来が王様の御機嫌を損ね、牢に入れられてしまう。周りの家来たちは内心仲間を助けたいと思うが、自分の保身からは一歩前に踏み出せない。そのうちその問題の家来が民衆の手を借り、行方をくらましてしまう。怒り狂う王様。内心ホッとする家来たち。そして町の者たちはその家来の無骨だが信頼できる人となりを思い出しずいぶん不憫がる。
それから十数年。ある新興の国が俄かに力をもち、その国にも攻め入ってきた。実はその国の総大将こそあの逃げ出した家来だった。そして勢いに乗る彼は難なく戦に勝利し、ついに懐かしいその姿を現す。町の者たちは彼の雄姿を見てむしろ大喜びする。そして家来たちは自分たちを生かしてくれるように彼に懇願する。
「よく帰ってきてくれた。あの時からあんたが成功してこの地に戻ってくるのは分かっていたんだ。どうか俺たちをあんたの家来にしてくれ」
その時、家来の裏切りに正気を無くした王様が突如剣を抜いて誰彼構わず切りつけようと暴れ出した。すかさず総大将の兵隊が取り押さえると、今度はぶつぶつ意味の通らないことを繰り返し口走りニヤニヤするだけ。
「哀れなものだ。結局自分のことしか考えられないのか。それでこの国の、一体何を守ろうとしたのか?」そして総大将は家来たちに言う。「王をどうする?」
すると家来たちは口を揃えて言った。「あんなわがままで気が違った奴はもう王でもなければ、主でもない。あんたの好きにしてくれ」
それを聞いて総大将は一喝する。
「恥を知るがいい。家来あっての王、王が居てこその家来ではないか。お前たちも王も五十歩百歩。いや、もともとこの国には王も家来もなかったのかもしれんな」
その言葉を聞いて元・家来たちはそぞろ何処へともなく姿を消し、王様は命こそ救われたが町の者たちからも身を隠し、その後細々と暮らしたそうだ。
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