第6話 『 厚い皮 』

 あるところにタヌキとキツネの村が隣り合わせにありました。双方は大して仲好くはありませんでしたが、そうかと云っていがみ合ってる訳でもありませんでした。

 あるとき、いつもはのろまなタヌキがまだ日があるうちに畑仕事を切り上げ家へ帰っていると、隣の畑にいた数匹のキツネがこちらを見てひそひそ話をしています。気になったタヌキは声をかけました。

「こんにちは。どうかされましたか?」

「いやあ、タヌキさん。今日はずいぶん早くあがるんだねえ」

「ええ。ようやく畑を耕し終えましてね。今日はもう家でゆっくりしようと思うんです」

「そうですか。やっぱりなあ…」

「え?何か」

「いえね、こちらの畑を見て下さいよ。あなたのところとは違って土が固いからまだ半分も耕し終えてないでしょう?土がやわらかい方の畑はもともと私たちが欲しがっていたんだけど、人手のないあなたに譲ったのがそもそもの間違いでしたね。心ある人だったら『何かお手伝いしましょうか?』の一言ぐらいくれるでしょうから」

 それを聞いてタヌキは慌てました。

「ああ、それは気づきませんで。何かお手伝いしましょうか?」

 するとキツネたちは笑い出しました。

「まったくタヌキさんときたら!多少の慎みをわきまえている人なら、そういうことは言われる前に気づくものですよ。さあさ、今日はもういいからお帰りなさい」

 そう言われるとタヌキはもう何も言えなくなってそのまま家へ戻りましたが、気持ちはすっかり萎んでしまい、大好きなお茶もお菓子も喉を通りませんでした。

 しばらくしてタヌキは、道端で馴染みの年寄りギツネに会いました。

「キツネさん、この前はひどいめに遭いましたよ」

 タヌキは意地悪なキツネたちから言われたことをその年増の雌ギツネに言いました。するとキツネは話を聞き終わるでもなく、

「何言ってるの、タヌキさん。私たちキツネはもともと我儘にできてるのよ。それが分からないタヌキさんこそ一体どれだけの了見なんだい」

 と言って、カッカと笑いました。さすがのタヌキさんもこれには驚くやら、呆れるやらで、またまた何とも嫌な気分で家に帰りました。そして終いには哀しい気持ちまで湧いてきてその夜はなかなか寝付けなかったのでした。

 さて、それからすぐのこと。鉄砲を持った人間がタヌキとキツネの棲むところに大勢でドカドカやってきて、容赦なく狩りを始めました。逃げまどうタヌキ、キツネの一族。先ほどのタヌキも鍬を放り出し山へ向かって逃げていると、道端に例の年増ギツネが足をくじいて倒れています。

「大丈夫ですか?キツネさん」タヌキは思わず駆け寄りました。

「ああ、お前さんかい。全く人間たちときたら遠慮ってものを知らないよ。突然やってきてこんな非道いことをしでかすんだからねえ~。あ、イタタタ…」

「さあさ、僕につかまって。一緒に山まで逃げましょう」

「ああ、有難うよ。それにしても情けないのは身内の連中だよ。年寄りが道端に倒れて動けないっていうのに、誰一人立ち止まろうともしない。『我先に一目散』さ。まったく世も末だよ。そう思わないかい、タヌキさん」

 キツネは暢気に愚痴をこぼすばかり。

「何言ってるんですか。あんたたちキツネはもともと我儘にできてる。そう言って笑ったのは婆さん、あんたの方だよ。さあさ早く。しっかりつかまって!」

 そう言われると古ギツネもその先を継げなくなって、そのままおとなしくタヌキの背中に乗りました。そうしてタヌキの柔らかい背におぶられながら一人呟きました。

「いやあ、いざと云う時はやっぱりご近所付き合いだねえ。有難や有難や…」

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