第11話栄家訪問

 今日は残業も無く帰ることが出来た、この時期では珍しい。お父さんに早く帰るよう言われてたので良かった


 経営者側からすれば追加注文が無かったと落ち込むべきなのだが今は有難い、着替えを済ませタイムカードを押し挨拶をする




「お疲れ様でーす」




「「「お疲れーっす」」」


 いつも通り返事を受けながら足早に帰る


 家の玄関前まで信号に捕まる事なく帰れた、少し鼓動が早くなっているこれは早く帰ったからじゃない多分涼香に会う事を体が勝手に意識しているからだろう、ぶっちゃけて言えば俺は栄涼香さかえすずかのことが小さい時から好きだ物心ついた4才の時に会って一目惚れしてからずっと好きだ、初対面の時の衝撃はいまだに鮮明に覚えている


 小さい時はよく一緒に遊んだ、涼香の家は神社だし遊び場には困らなかった、実は幼稚園5才の時に結婚の約束をするぐらいに好きだったのだけどその時付けた条件が未だに達成出来てないので踏み切れてない、ただ涼香があの時の約束を覚えているかは分からない


 自分の中では黒歴史なので忘れていて欲しい、そんな事があったので涼香を前にすると普段通りに話せないし、直視出来ないけど、今日会える事に嬉しさが体に現れている、本当はすぐに会える距離だけど意識的に疎遠になっていた、約束を守れてなくて恥ずかしいからな




「ただいまー」




「お帰りお兄ちゃん」




「ご主人様お帰りなさいませ」




「ご主人様お帰りー」




「龍雄様お帰りなさいませ」




「龍雄様お早いお帰りお待ちしておりました」


 命と四神獣達が出迎えてくれる




「ああ、ただいま」


 ここまで大人数の出迎えを普段受けないので少し戸惑う




「龍雄帰ってきたか、では行くぞ」




「準備良いな」




「命ちゃんがもうすぐ帰ってくると教えてくれてたからな」




「道理で出迎えが揃ってたのか」




「さあ行きましょ、包み菓子はちゃんと持ったわ」


 お母さんの準備も出来ているようだ




「ちょっと待って俺着替えるわ」


 さすがに仕事帰りのままではだめだろ




「そうか、しっかり身だしなみを整えておけよなんていったって、主役は龍雄だしな」




「また、そんなこと言っているのか主役は命達だぞ」




「久し振りに涼香ちゃんに会うんだろ?びしっとしろよ」




「わかってるよ、だから今からやるんだよ」


 服を着替え髪を梳く




「まぁこんなものだろう」




「では行くぞ」


 歩いて5分ほどで祟道天皇神社に付く神社の境内の中に栄家はある、神社に来たからには拝殿で参拝をちゃんとしておく、お稲荷様の社にもしっかりしておく、それから栄家へ


 ピンポーン


 インターホンをお父さんが鳴らすと数十秒後に


「はーいどなたですか?」


 インターホンから声がするのは涼香の姉のたま姉さんだ




「こんにちは揖保川です以前占い師を紹介して下さったお礼と報告にきました」




「少々お待ち下さい」


 少し待っていると玄関が開けられ珠姉さんが出てくる




「いらっしゃいませー」




「揖保川さんいらっしゃい」


 涼香の父親の忠邦ただくにさんも出迎えてくれる




「この度は有難う御座いました、とても良い巡り合わせが出来ましたのでその報告とお礼をと思いまして」




「いやいや、大層な事はしてませんのでお気になさらず」




「その大層な事があったんですよ」




「え?というと?」




「龍雄!どんな人に会ったの!?」


 忠邦さんの後ろから涼香が血相変えて聞いてくる




「お、おうそれなら」


 久しぶりに会った涼香にドキッとしてしまう、やっぱり普通に受け答え出来なくて言葉が続かない




「涼香ちゃんこちらにいる命ちゃんがそうだよ」




「あ、正虎おじ様こんにちは、えっとこの女の子?一体どういった関係?その後ろにいる人達は?」




「こんなところで話すのもなんですし中にお入り下さい」


珠姉さんが家に招き入れる




「あらあら〜、大人数ね〜」


 暢気で肩の力が抜けそうな声を出しながら人数を数えている涼香の母親の千歳さんいつの間にかこちらに来ていたようだ




「たつお兄ちゃんいらっしゃい」


 元気よく玄関にくるのは涼香の妹の礼奈れいなちゃん、いつ頃か俺のことをなぜかたつお兄ちゃんと言い出した




「お邪魔するな」


 軽く挨拶をしながら玄関を上がる




「たつお兄ちゃんならいつ来ても良いんだよ、というかもっと来てよね」




「気が向いたらな」




「涼香お姉ちゃんだっていつも時間があればお兄ちゃんの家の方を見てるんだからね」




「え?」




「ちょっと、礼奈変な事言わないで!!」


 涼香が凄い剣幕で礼奈に注意する、そして俺をジロリと見て




「最近来なかったわね、何かあったの?」




「いや、べっ、別に用事も無いしな」


 直視出来ないのでそっぽ向いて最低限の返事をする




「すまんな、涼香ちゃん今度から自主的に来るようにさせるから安心してくれ」




「いえ、正虎おじ様のお手を煩わす訳には」




「なーに、今回の問題が無事に解決すれば嫌でも来させるからな」




「嫌がるのを無理矢理はちょっと…」




「大丈夫大丈夫、進んで行くようにするから」




「まあ、それなら宜しくお願いします」




「おい、お父さん何を勝手に」




「お前のためを思って言ってるんだぞ」




「龍雄は来るの嫌なの?」


 嫌な訳無い、今日ここに来るのに体が浮かれるぐらいに嬉しかったんだ、涼香にそんな事言われると




「んっ、別に」


 涼香に嘘は言いたくないし、素直になれないしでまともに返事が出来ない




「さあーさあーここに座ってね〜」

 千歳さんが座卓に座布団を並べていく、四神獣達の分は座卓から少し離している



「千歳様少々お待ちを、我々は座る場所はいりませぬ」

 玄武が座る場所を勧められたが、断りを入れる




「あら〜?私名乗ったかしら〜?」


千歳さんが暢気に考えていると四神獣達がその場で猫、雀、蛇、亀に変化する




「「「「えっ!?」」」」




「あら〜?」


栄家の皆が驚く千歳さんだけはワンテンポ遅いけど




「これを見るとやっぱり驚くよな」




「千歳さんは落ち着いてますわね」


 お父さん達は昨晩寝る前に見たから栄家の反応を楽しんでいる




「こっこっこれはどういうこと!?」


 涼香が戸惑いながら聞いてくる




「涼香さん私達は人では無いのです」


 そう言いながら命が狐になる

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