第9話次の日、出社

 命達と会った次の朝にお父さんが言い出した




「よし、さかえさんに命ちゃんの事を報告してこよう」




「俺は仕事に行ってくるわ」




「龍雄が帰ったら行くから、早く帰って来いよ」




「俺がいなくても行けるだろ」




「お前が主役だろ」




「主役は命だろ」




「そもそもお前が信心深ければ、わしはこんな事にならなかったらしいじゃないか」




「うぐっ、それを言われると…」


 お父さんが俺の弱い所を付く




「そういう訳で早く帰って来いよ」




「分かったよ」




「お兄ちゃんいってらっしゃい」




「行ってきまーす」


 いつものように勤めている会社へ行く、お父さんがあんな事になってから会社へ行くのは気分が重かったお父さんがあんな事になったので肩身が狭い思いをしていた(被害妄想かもしれないけど)しかし今日はすがすがしい、頭がクリアな感覚だ。


 軽い体を最近馴れてきた製造工場へ行く




「おはようございます」




「「「おはよーっす」」」


 挨拶をすれば複数の返事がくる


 手っ取り早く作業着に着替えタイムカードを刺していると




「龍雄おはようさん」




「宇佐美さんおはようございます」


 彼は製造部長宇佐美英介自分が所属する部署の上司である、自分は元々お父さんがいた営業広報部署に入っていたが、お父さんの方針で現場を知らなければ営業ができるものかという考えの下現場で勉強中にお父さんの問題が起きたので営業に戻る事なく製造部署のままになっている、同族経営のため色々な部署を経験の後に役員になる予定なのだがお父さんの問題が響いて自分は役員になれそうにないそんな自分を気にかけてくれる良い上司だ




「よう龍雄、この時期の有給楽しめたか?」




「出口さんおはようございます」




「お前は良いご身分だよな平だから忙しくなる時期に有給を簡単に取れてよ、俺みたいに下のやつらを導く役は現場を考えて有給なんて取れねぇぜ」




「いやぁすみません父絡みだったもので」


 彼は出口恭介製造現場リーダー、嫌みをよく言ってくる面倒臭い先輩、実力はあるので人格は一旦置いといて一目置いている




「そろそろ朝礼だぞー並べよー」


宇佐美さんがみんなに声をかける




「はい」




「へーい」


 朝礼はいつも通り終わり午前の作業を終わらせた、昼食は会社の食堂で食べる、今日同じ現場だった出口さんと途中で会った宇佐美さんとで食べる事になった二人と対面で座り今日の日替り定食、鯖の味噌煮を食べる




「げっ、今日はついてねぇな」


 出口先輩が渋い顔で食堂入口を見ながら言い出す


 こういう事を言う場合大体あいつが来た時の反応だ……




 いた、代表取締役の息子で専務の揖保川知夫いぼがわかずお、俺の従兄弟叔父いとこおじである、それと専務助手沼田広ぬまたひろしお父さんが営業部署にいた時の部下で、裁判でお父さんの指示でやったと虚偽をしたやつである




 大叔父である代表取締役が沼田の勇気ある発言(虚偽だけど)にいたく感銘し専務助手という特別なポジションを作りそのまま沼田を採用している


 従兄弟叔父の知夫は嫌われ者、噂では権力にものを言わせ女職員に手を出していると広まっている、お父さんが言うには大叔父さんがお金で揉み消しているらしい、知夫が20才で入社してから今の55才までやり続けた為女性職員が少ない、うちの会社では出合いなんて無理と言わしめた元凶




「龍雄いたのか、漫画に集中したほうがいんじゃないのか?」


 和夫がニヤニヤしながらいつも通りのことを言ってくる、俺がいるといつもわざわざこちらに来て絡むウザイ奴




「自分は身の丈を理解してるので漫画は当たればラッキー程度で頑張りますよ」




「お前ここに居ても万年平だぞ?」


 そんな事を言いながら和夫は俺の隣に座ってくる沼田は和夫の隣




「平のほうが漫画を細々と描けますから丁度良いですよ」




「そうかい裁判結果次第でいつまでもいれるとは限らんぞ?」




「その時は違う所を探します」




「早めに見つけといたほうがいいぞ、ぐっひゅひゅ」


 でかい腹を揺らしながら気持ち悪い笑い方をする




「専務、龍雄君を残す事は無理ですか?」




「あー君は宇佐美君だったかね?我が社に多大な損害を彼の父正虎まさとらさんが出したんだ他の役員が残ることを許さんだろう、残念なことだな、使える駒が無くなるのは」




「追い出し筆頭がよく言うよ(ボソッ)」


 出口先輩が聞こえないように呟く




「龍雄君は現場の理解が十分できていますので営業で活躍出来るかもしれませんよ?」




「あー、正虎さんの考えを言ってるのか?その考えは古い、各部署ごとで専門的に学ぶべきだそうなると龍雄君はよくて現場リーダー止まりだろう、部長になるには人事が許さんだろうからな、同族経営の難しいところだな、いや〜困った、私の父の一存で決められんのだよ」


 沼田の時は強引に専務助手のポジションを作ったのに、おかしな話だ




「賠償額が思いの外少なくなるかもしれませんよ?」

 宇佐美さんが俺を残せる様に食い付いて話してくれる、こういう所が人望に繫るんだろうな



「我が社のイメージを悪くしたのは事実で仕事が減ってるのだ賠償額だけの問題ではないのだよ、なぁ沼田くん?」




「はっはい、その通りです」


 沼田は少し上の空だった所で知夫に話を振られ無難な返事をしていた




「むぅ、そうですか…」


 宇佐美さんが渋っているところで




「それではお先に失礼しまーす」


 出口先輩が席を立つ




「それでは自分も失礼します」


 あの人と話すと気分が悪くなるので俺も先輩に続く




「けっ、社長と自分は好き勝手してるくせによく言うぜそれにしても沼田がいつもより気が抜けてたな普段なら知夫の後に正虎さんの事をぼろんちょに言うはずなのにな」




「確かに心ここにあらずって感じでしたね」


 そんなどうでもいい話をしながら休憩室へ




「うへっ、龍雄お前今日厄日だな」


 出口先輩が口を歪ませる、そこには自動販売機前で商品を選んでいる同じ歳の再従兄弟はとこはじめ がいた


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