第5話伏見稲荷大社へ
命達が消え、神社境内で鳴いていた蝉の合唱が響く7月下旬
暑さが本格化する前で境内は木々がたくさん植えてあり木陰もあるので暑さを気にするほどでは無かったが、蝉の声を聞くと暑く感じるのはなぜだろう?
「はあぁ、まさかこんな非現実的な事が起きるとは」
失礼な言い方だが、あくまで所詮占い、ここへ行った方が良いと言われ、良いことが有れば儲けもの程度にしか思ってなかったのだが
こんな事、誰が予測できる?命達がいなくなった静寂(蝉が五月蝿いけど)の中でため息混じりに少し呟く
「眷属の見習い様を娘に迎えるとは、こんな誉れな事誰とて経験したこと無いだろう」
お父さんはすごく喜んでいる
「まったく、命様にお父さん呼びを求めるなんてビックリよ」
「可愛かったからついなそういう母さんもだろ」
「だって娘が欲しかったから」
「ところで、二人はこれから命様って呼ぶのか?」
俺は気軽に呼び捨てにしてるけど、大丈夫なのかな?
「娘に様付けはおかしいわね、龍雄に習って呼び捨ては恐れ多いしちゃん付けかしら?」
「命に確認しておかないとな」
念のため俺も聞いた方が良いかもな
「これからどうする?清水寺に行く予定だったけど」
「そうだな、母さんと学生の時に行った想い出に浸ろうと思っていたが、こんなことがあったんだ、命様との巡り合わせを助けて下さったお稲荷様へ御礼の挨拶をしないとな」
お父さんは元々お稲荷様信仰をしている、今回の事は天にも昇る思いだろう
「龍雄の前世が命様の兄だったとは、そんな息子を持てたこと大いに誇らしい!!」
お父さんは腕を広げ上を向き恍惚としている
「お父さん早く行こうぜ」
そう言う訳で伏見稲荷大社へ行く、普段は初詣の三が日ばかりに行っているので人でごった返してない境内はとても新鮮だ、何かイベントの準備中かな?紅白に色付けされた棒で枠を作った物が参道の両端に立て並べられている
「おおう、私としたことが
「本宮祭って何?」
興奮するお父さんに質問する
「本宮祭は日々の御神恩に感謝する大祭で、とても煌きらびやかな祭だ、
「へぇ~そうなんだ」
早口にしゃべるお父さんに口を挟める気がしないので空返事をしておく
「久しぶりに行けるなんてとても皮肉よね」
お母さんがため息混じりに呟く
「仕事を辞めて行けるようになるとはな、商売繁盛を願って爺さんの代から信仰してきたが忙しくなるにつれて段々行かなくなり商売に携わらなくなってから行けるとは変な感じだな」
「お母さんも行ったことあるの?」
「ええ、お父さんのお祖父様いわゆるあなたのひいお祖父さんにお父さんと一緒に連れて行かせてもらってたわ」
「お母さんは爺さんに気に入られていたからな、あの頃ぐらいに許嫁になったんだ確か」
「お祖父様にお互いの気持ちを見透かされていたのかもしれないわね」
「あの時の爺さんのあの目を振り返ってみるとちょっと恥ずかしいな」
「私はそれとなくアピールしてたのよ、当時この人反応が淡白だったのよ」
「いや、私はアピールには気付いてたんだ、ただ恥ずかしくて普段通り接する事に必死だったんだ、今思うと当時の私は今の龍雄と一緒だな」
「なっ、どこが一緒なんだよ!!」
親の馴れ初め話にニヤニヤしているとこちらに飛び火した
「なぁ、お母さんやっぱり後押ししないと無理だぞ」
「そうねぇほんと似てるわ~栄さんに話を通しておいて良かったわね」
二人だけでボソボソ何やら言っている
「何やってんだよ早く行こうぜ」
二人を離しすぎない程度で先をずかずかと歩くただし、歩くのは参道の端参道の真ん中は神様の道だからな
「今日はどこまで行く?正月は人が多すぎてご祈祷で済ませてるけど」
「そうだな、せっかくだ今日は山頂一ノ
「この年で行けるかしら…」
お母さんとお父さんはアラフォー普段から運動をしてないし心配なのだろう
「途中まで行って無理そうなら諦めるか」
「俺は山頂初めてだから楽しみにだぜ」
手水で手を清めて
「まずは拝殿で山頂まで無事に着くよう祈っておくか」
成る程、流石敬虔なるお稲荷様信者のお父さん、信心深い
「そうね、この年だと少しの怪我でも治りが遅いですものね」
人が余りいないので拝殿の全貌が見えるのはとても新鮮だ、お賽銭を入れて 鈴を鳴らしニ礼ニ拍手一礼無事な登頂をお願いする拝殿より奥に山頂へ続く参道があるこの先から有名な千本鳥居が始まる
「ちょっとその前に今回の事を考えてこっちの
お父さんが千本鳥居へ行く逆の方にある社へ近づく
「ここは
「なるほど、丁度良いな」
白狐社で感謝の気持ちを込めて参拝する
「では稲荷山山頂一ノ峰へと行くか」
お父さんが気合いを入れて千本鳥居の方へ行く俺とお母さんも続く
少し進むと
「お父さん、今回の裁判勝てるかどうか試してみたら?」
「それは良いな、よしっやってみよう」
お賽銭を入れて強く願い、石を持ち上げてみると
「おおっすごく軽いぞ!!」
そう言いながら何度も持ち上げてみせる
「じゃあ私は違うお願いをしてみるわね」
お母さんもやりだした俺も一つやってみようかな
「あら、軽いわぁ」
何の願い事をしたのか知らないけどよかったじゃん、では俺も
お賽銭を入れて願い事をする
『売れっ子漫画家になれますように』
そして石を持ち上げると、予測通りの重さで微妙な結果にこの場合どう解釈するのだろう?
「龍雄は何を願ったんだ?」
お父さんが興味津々に聞いてくる
「漫画家になれるかどうかだよ」
「まだそんな事言ってるのか、諦めて仕事に専念しろ」
「生活するのに困らない程度には働いてるし別に良いだろ」
「私が会社を辞めたのだから以前通りさせてくれるか分からないぞ」
「確かにそうだけどさ、もう意地の問題かな」
「それで?重かったのか?軽かったのか??」
「何だよその笑いを堪こらえている顔は、予想通りの重さだったよ重くも軽くも無い微妙な結果だよ」
「軽く無かったんだな?もう辞めておけという事だろ」
「いや、気長にやっていくよ」
「軽くなかったんだろ?」
「重くもなかったよ」
それに、『売れっ子』が無理なだけかもしれないし、それは今まで続けてきて分かってた事だからな
「そういえば、お母さんの願い事は何だったの?」
「んふふふ、内緒」
「え~叶うなら教えてくれても良いじゃん」
「叶ってから教えるわ」
「じゃあその時を楽しみにしとくよ」
「お母さん私にだけ教えてくれないか?」
お父さんが抜け駆けする、ズルい
「後でね~」
奥社奉拝所で参拝、命との出会いに感謝を
そしてこの奥の稲荷山山頂一ノ峰へいざ!!沢山の階段を上がり途中にある色々な
「お父さんお母さん体は大丈夫か?」
「私は元気だぞまだまだいける」
お父さんは年寄りの冷や水にならなければ良いのだけど
「私も何だか体が軽いのよ、この歳でも行けるものね」
俺も不思議と体が軽かった結構上って来たと思うけど
お父さんとお母さんの体から白い煙?モヤみたいなものが出ている事に気付く、自分の体からも同じものが出ていた悪い感じもしないしこれのお陰で疲れないのかなと何となく思ったしかし体に疲労は溜まっているだろうから水分栄養補給のために休息はいるだろう
「お父さんの言っていた茶屋に行こうか補給を兼ねて」
「そうだなここのいなり寿司が旨いんだこの時期ならかき氷の宇治金時もあるぞ」
「そいつは楽しみだ」
俺はお父さんと一緒にいなり寿司とかき氷を頼んだ、お母さんは悩んだ末にきつねうどんといなり寿司2個が付いた、いなり寿司セットとかき氷
いなり寿司は少しこぶりな三角型でお揚げに染み込んだ甘い出汁がお揚げの味を引き立てる中の酢飯にあるゴマが香ばしくすごく美味しい、6個あったので初めは食べきれるのか少し心配したが杞憂だった、疲れたと思っていなかったが、体は疲れていたようだ簡単に入る、食べきった時にまだちょっと欲しいかなと思っていたところでかき氷の宇治金時である、物足りなさがすっかり無くなる、ここまで上って来て火照った体に染み渡る
今体が休まって周りをみる余裕が出来る、京都伏見の街を見下ろすことが茶屋から出来る、結構上ってきたのだと実感
「風が気持ちいいわねぇ」
「適度に良い汗かいたから気持ちが良いものだ、さあまだまだ一ノ峰までは上らなくてはいかんぞ一旦休息を入れ体も落ち着いただろう、お母さんはこれから大丈夫か?この四ツ辻で待っていても良いのだぞ?」
「いいえ、私何だか体が若返った気がするのまだまだ行けるわ」
「まあ、お母さんの事を考えて反時計回りの順路の方が良いだろまず、三ノ峰へ行くぞ」
本当はお山巡りコースとして時計回りの方が正式順路だけど、お父さんのお母さんに対する配慮で反時計回りで行く
三ノ峰、間の
そしてなんとか、白狐社があるところまで戻って来れた、今は疲れよりも爽やかな気分
「お山巡り制覇できたわ、まだまだ若いわね私」
「お母さんはまだ若いだろ私と同じ年なんだし」
俺はどちらかがへたばると思っていたが、休んだのはお茶屋だけ、ふと白狐社が目に止まる無事に巡回出来た感謝の気持ちをここでお礼参りしておこう
「ちょっと待ってて、お礼参りしてくる」
「お、龍雄も殊勝な心掛けが出来るようになったな私もするぞ」
「私もするわ」
さっきまで稲荷山にある各社でやってきて手慣れてきた参拝|(ニ礼二拍手一礼)をする今までの集大成…そんな感覚がする
「あ、次に拝殿でもしないと」
「そうだな、龍雄も分かってきたな感謝する心を」
その後ちゃんと拝殿でもお礼参りをして家へ帰る。新幹線に乗っている時に突然疲れが出てきた、そりゃあ疲れるだろあれだけ階段上り下りしたんだから
「体がいてててぇ、やっぱり年か、若いと思ってたが無茶はできんなお母さんは大丈夫か?」
「……。」
「お母さん、どうしてピクリとも動かんのだ?」
「話しかけないで、今痛くて動けないから」
「二人共ちゃんと帰れるか?」
新幹線から降りれるのか?まだ時間はあるけど
結局俺がお母さんを支えながら下車お父さんは痛いと言いながら一人で降りた、しかしまだ電車がある、頑張って歩いて電車に乗り最寄り駅へ、あとは家に帰るだけ、家で命達何してるかな…
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