膝を抱えた少年
奇っ怪たる血のリビドー事件から数週間で、この凄惨な事件を連想させる与太話がインターネット上に溢れかえっていた。
例えば、中学生のサッカー小僧が学内のボールを全て蹴り上げて男子生徒が多数死傷しただとか、サラリーマンがオフィスのコピー機に自分の輪切りを撮影させて二次元になってしまった(実際には5cm程の束であったそうだ)だとか。
そういったショッキングな内容は反吐が出るほどに人の目にとまるのだ。
これからまとめ上げる多くの話は、やはり信じられない程の馬鹿げた、そしておぞましい話の数々である。
つまり、私が話す事の真偽について議論するというのは、便所の落書きを真面目に考察するようなものなのだ。
その事を踏まえた上で、諸兄姉にはほんの少しの余裕を以て臨んで欲しい。
いわゆるこの『膝を抱えた少年』という話の始まりは、警察への一本の通報だったそうだ。
話を聞いた警官も、電話口で話す女性の支離滅裂な言葉から、最初は薬物の使用を疑ったという。
それから応援数人と共に、女性の言う住所に向かったその警官は絶句した。
膝を抱えた少年が、住宅街の中をゆっくりと滑走していたのだ。
抱えた膝はのべ十三膝で、7人から接収されたものであった。
少年は『右車左車線』若干14歳の中学生である。
右車少年は車椅子に縛り付けられ、それから13脚もの足を抱えさせられていた。彼の腕は無理やり引き伸ばされており、可愛らしい蝶々結びになっていた。
それからギチギチに拡張された腕肉の輪の中へ、葱のように足を詰められていたのだ。
事件現場は急な下り坂になっていたが。その車椅子にしがみついた人達がブレーキとなり、今にも電車が通らんとする踏み切りの手前でゆっくりと停止した。
しがみついていたのは女性達であったと思われるが、道に散らばった遺体の身元確認は困難を極め、唯一薬指の結婚指輪から当日に近所の病院から退院した『滋味諾念』という女性のみが特定された。
彼女は交通事故で、右足を失っている。
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