第3話 所詮は同じ世代の子供が収容された学校に行くだけの勇気
いや、違う。
「普段から、どったんばったん、大声を出していればよほどの事がない限り、反応されなくなるよねー。どう、落ち着いたら話を聞いてはくれないかい?」
「アンタ誰よ!」
「声が震えてるよ。気張らなくてもいい。ボクの事はそうだねぇ。レッドキャップでもデストラクターでも赤頭巾ちゃんでも好きに呼んでよ。一応、
嫉妬する事すら馬鹿らしく思える美形、そしてなんらかの果実の香りみたいないい匂い。さくらの全てを受け入れてくれるような真紅の瞳に魅入られて、さくらは嗚咽を漏らしながら、今までの経緯を語った。
「ッ! しずき?」
「よく、今まで頑張ったね」
零はさくらを抱きしめて、頭を撫で、さくらが泣き止むまで待ってくれる。冷たいのかと思った零の体温は暖かく、やわらかく、さくらにとって唯一の理解者だとすら感じしばらく零に甘え身を任した。
「ありがと……落ち着いた」
「そうかい、それは良かった。じゃあ、君が地獄に落としたい相手はテニス部の全員でいいんだね?」
とびっきりの笑顔、ちょっと洒落にならないくらい可愛い顔で零はそう言うので、さくらはつられて頷いた。
「じゃあ、明日から学校に行って、部活動にも参加しようじゃないか!」
「えっ……」
突然の発言に言葉が詰まるさくら、それを察して零はよしよしとさくらの頭を撫でて目を合わせてこう話す。
「大丈夫、ボクが全面的に君をマネジメントするから、君は学校ではイジメられない、部活だってそうさ。命を頂くんだ。これくらいはお安い御用だよ。約束しよう、君に最高の学校生活を提供しよう」
そう言って、歌劇団のようなポーズでアピールするのでさくらもクスクスと笑いがこみあげてきた。さくらはその日、一日零とお話をしながら夜を明かした。零の話は面白かった。自分が書いた内容が事実になる小説家の話等、飽きさせない。そして話が上手いだけじゃなく、さくらの話もしっかりと聞いては相槌を打ち、時に笑ってくれる。
段々とさくらの中で友達以上、恋愛感情以上の感情の芽が咲いていた。
翌日、制服を前に吐き気がこみあげてくるのを我慢して袖を通す、するとパチパチと手を叩いて零が「おー、可愛い可愛い」と褒めて、スマホでパシャリと2ショットを撮影。
「零の方が可愛いじゃん! でもこれ待ち受けにしよー」
「いいね、じゃあボクも。お揃いだ」
「ねぇ、やっぱり学校行かなきゃダメかな……」
「ダメだね。大丈夫、所詮は同世代の子供ばかりが収容されば場所さ。何も恐ろしい事はないよ。さぁ、ボクがついてる。ボクの手を取って」
零に背中を押されて部屋の外に出た。それも制服に身を包んでいる姿を見た両親は開いた口がふさがらない。
「さくら、どうしたの」
「……学校いこうかなって……ははっ」
「む、無理しなくてもいいんだぞ」
両親にそう言われるも「いや、いくよ。お昼は何か適当に買って食べるから」と、当然弁当は用意されていない事に気を遣うと、母は泣きながら朝食の支度を、父はスマホを取り出すと「すみません。急な用事が出来まして本日ははい、お休みをいただきます」だなんて、会社まで休んでしまった。少しばかり照れながらも両親にも迷惑をかけていたんだなと家を出る。本当に久しぶりの外出だ。途端に不安になってくる。少し歩けば学生達、同じ制服を着た生徒と遭遇したら足が動かないかもしれない。
そんな不安を打ち消す聞き慣れた声が後ろから響く。
「さくらー、待ったぁー?」
「えっ?」
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