配信第二回 怨

第2話 イジメという呪いの連鎖が彼女を呼んだ

「みんな死ね、死んじゃえばいいんだ」


 森永のミルクキャラメルを口に放り込みながら仲谷さくらはそう言って、スマホを前に呪いの言葉を吐いていた。彼女は数か月前の春まで、希望に夢を膨らませてテニスのラケットを握っていた。


 彼女は同年代の中では抜群のテニスのセンスを持っていた。家族も学校側ももろ手に彼女を歓迎したわけだが、同世代の学生から彼女の存在は受け入れられなかった。ナチュラルにイジメである。さくらが入部した事で、誰からも人気のある先輩がレギュラー落ちするのではないか、そんな噂が立ち、誰がというわけでもなくさくらはほぼ全部員から総攻撃を受ける事になる。


 そして今は立派な登校拒否児になったわけだ。日がな一日やる事がなければお金もない、外に出る事もないさくらには手元に小さな板、スマートフォンしかない。スマホから入ってくる情報は多岐にわたり、今日もさくらは自分の不満をぶつけられるような相手がいないか探していた。

 

「なに? 行方不明になった息子を探してます? はぁ? 知らねーよ!」

 

 そんな投稿がなされているSNSに対して、さくらは心無い投稿を繰り返し憂さ晴らしをしていた。そんなさくらに対して、批判的なコメントや指摘があってもさくらは無視し続けた。

 

 そんな中で、あるDMが届く、普段は無視しているのだが、そのDMは別にさくらを批判する内容でもなんでもなく、

 

“なにか辛い事でもあったのかい? 君は何かに怯えているようだ“

 

 という興味深いものだった。

 

「何この人……」

 

 さくらは、自分がどうして歪んでしまったのか、その人物に打ち明けてみた。自分はイジメられ、こんな不毛な事をしている事。その人物はたださくらの話を聞いてくれた。

 

“興味があったら、今日の午前二時にこのURLにアクセスしてみてよ。力になれるかもしれないよ“

 

「なにそれ、ただの宣伝?」

 

 とはいえ、昼夜逆転しているさくらには時間だけはあった。忘れていなければアクセスしてみようかなと思っていたが、やる事もなくDMの事ばかり気が付けば考えていた。結果、午前二時。さくらはDMの送り主のURLにアクセスする事になる。

 

 アクセスした先、期待と不安を胸にスマホの画面に目を向けると、そこには妙に綺麗な女の子の配信動画が流れていた。


「は? 何これ、画面かわんないんだけど、さいあく」


 彼女はぐりんと首を動かすと、さくらと目が合った。どんな感情の表情なんだろう。悲壮と狂気が混ざったような澄んでもなく、濁ってもいない。真紅の瞳にさくらは魅入られていた。


「やっほー人間共、長生きしてるぅ?」


 頑張って笑いを取りに来ているおどけたポーズに不快感を覚える。画面を消そうにも消えないし、コメントは彼女を称賛する声の数々、それにさくらは批判の一言を入力して送信した。


“全然可愛くないんだけど”


『可愛くない? 可愛くないだってアハハ! 君の心は可愛いねぇ。何者にも噛みつき、されど怯えているよ。愛おしい程に、狂おしい程に君は今、恐怖を感じている。違うかい?』


“何言ってんの? 馬鹿じゃねーの!”


 ムキになって答えてしまった。なんだか相手の思うつぼかと後悔したが、画面に映る少女、異様なまでに生白い肌、底なんてなさそうなどんよりとした真紅の瞳。耳に数多のピアス。着物をベースとしたようなゴシックパンクな衣装。特徴的な動物の耳みたいな角がついた赤い帽子。有名な配信者なのか、彼女は囁くようにこう言った。


『その感情をぶつけたい相手はボクじゃなくて、他にいるんじゃないのかぁい? キミのその願い叶えてあげるよ。その代わり、代償に命をいただくけどね』


 バカバカしい、こういう不思議ちゃんを演じる事で、投げ銭でも稼いでいるのだろう。さくらは暴言を書き込んでやろうかと思ったが、代わりに、


“じゃあ私の嫌いな奴等全員地獄に落としてよ! それができたら命くらいあげるよ!”


 画面の中の少女は口元、目元が順番ににぃと嗤う。それは表情を不自然に作った画像のように人間の表情の動きとは思えない。そして少女は画面から忽然と消えた。


 そして、


「御意、ぎょーい! いいよいいよ! そういう声出していく感じ、ボク好きだなぁ。名前を教えてよ」

「きゃあああ!」


 顎クイ、背中を支えられながら、さくらは今少女にキスでもされるような体勢、というか少女が画面から出てきた。大声を出したというのに両親は気づかなかったのか様子を見に来ない。

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