第5話 メイドさんと洋菓子②

「ご主人様、コーヒー飲みます?私今から淹れるんですが」


 ご飯を食べ終わって一息ついた頃、疲労感からソファでぺしょっと潰れていると、キッチンにいるメイドさんから声を掛けられる。


「いただいてもいいかな」


 彼女の淹れるコーヒーは美味しいのだ。

 それならばと、ぐっと身体を起こす。


「じゃあメイドさんが準備してくれてる間、さっきのご飯の洗い物でもしようかな」


 腕まくりをして準備万端だ。


「え……?」


「ん?」


 キッチンに立つと彼女から視線で刺される。

 おかしなこと言ったか?


「私メイド、あなたご主人様」


 自分を指差し、俺の方に掌を向ける。すごい、ちゃんも他人に指を差さない。さすがメイドさん。


「片言になってるじゃん」


「あぁいや、失礼しました。家事なら私が」


「でもコーヒー淹れてくれるんでしょ?」


「そうですけれども……お金もらってますし」


「でも定時以降だから」


「もう、このご主人様はあぁ言えばこう言う」


 だんだんと床を踏むメイドさん。形の良いロングスカートがふわっと舞う。どうやったらそんなおとぎ話みたいな動きになるんだろうか。

 いや、俺がロングスカートを履くことは生涯ないから聞いても仕方ないんだが。


「分担した方がお互い楽だし」


「それじゃあ私がメイド失格じゃないですか」


「メイドさんって負けず嫌いだよね」


 なおも俺の洗い物を止めようとする彼女に言い放つ。お湯沸かしてるんだから危ないって。


「そうですか?私は思ったことないですけど」


 彼女は負けず嫌いである。たまにするオセロやトランプだって、彼女が勝つまで付き合わされるし、わざと負けると目敏く見つけて怒られるまでがセットだ。


「じゃあそういうことにしておこうか」


「あんまり言うとご主人様のコーヒーだけ薄くしますよ」


 ぷく〜っと口を膨らませながらも手はコーヒードリップの準備に動いている。


「それこそメイド失格でしょ」


 本気じゃないことはわかってる、彼女の口元が緩んでいるから。

 メイドさんがゆっくりポットでお湯を回しかけると、次第にコーヒーの香りが部屋を満たす。

 この穏やかな時間が嫌いじゃない。


 洗い終わったお皿を軽く振って水切りラックに並べると、隣からにゅっと手が伸びてくる。

 差し出されたマグカップを両手で受け取って、彼女と連れ立ってリビングへ。


「あんまり私からお仕事を取らないでくださいね?」


 そう言うと彼女は、俺の手元にあるのと同じ柄のカップに口を付けた。

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