第4話 メイドさんと洋菓子①
『メイドさん、仕事中にごめんね』
昼休みに入ってスマホでメイドさんに連絡する。この土日で旅行に行っていた同僚から洋菓子を貰ったが、1人では食べきれない量なのだ。
『どうされました?』
『大量に洋菓子貰ったんだけど持って帰ったら食べたりする?』
『もちろん!!!!!!!!!』
とんでもない「!」の量だな。彼女は甘党なのだ。
それなら1つだけ仕事中に摘んで、あとは彼女へのお土産にしよう。
『了解、持って帰るね』
『美味しいコーヒーを淹れてお待ちしております』
それは楽しみだ、早く帰らねば。
午後からの仕事へのやる気を漲らせてスマホを閉じる。
「おい、何ニヤニヤしてんだよ」
隣の席の同僚から声をかけられる。顔に出てたか。
「何でもねぇよ」
「彼女か?お前いないって言ってなかったけ」
「いないぞ、多分聞かれたときから今までずっと」
週に3日は深夜まで残業するような生活リズムで誰かと恋愛する体力なんてない。
「うーん……?」
彼は納得していないような顔をして自分のPCに向き直る。
◆ ◇ ◆ ◇
いつも通り自室のドアに鍵を差し込む。鍵を回して少し時間を置いてからドアノブを引く。これはメイドさんからの要望だ。
なんでも鍵の音で帰宅を察知、玄関まで音もなく走ってきて身だしなみを整えるらしい。
だからおそらくこのドアを開けると。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいま、メイドさん。いつもありがとう」
綺麗に腰を折る彼女がいるのだ。
差し出される手に任せるよう鞄を渡す。ここまでがいつもの流れ、ありがたい話だ。
休日は定時後に私服に着替える彼女も、平日はお風呂に入るまではメイド服を脱がないらしい。理由を聞いても「マイルールですので」と詳細は教えてもらえない。
「それで、あの、」
指をくるくると回しながら遠慮がちに彼女は声を上げる。
あぁそうか、楽しみにしてたもんな。
鞄とは別に持っていた紙袋を差し出す。彼女はそれを大切なものを扱うかのように丁寧に受け取ると顔をほころばせた。
美人は絵になるなぁなんて心を温めていると、メイドさんはくるりと振り返ってリビングの方へ。
「ひゃっほう〜!!お菓子だ!ご主人様もそんなとこ突っ立ってないで早く着替えましょう」
なんて現金なメイドなんだ。さっきまでのお淑やかな彼女はどこへやら。
まぁでもこんな彼女だからストレスを溜めず一緒に暮らせるんだろう。
お菓子を食べる前に手作りのご飯が待っている。今日の献立はなんだろうと、漂う香りに期待を膨らませながら俺は革靴に手をかけた。
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