神さまの天秤
@JULIA_JULIA
第1話
中学二年生の僕───
その吊り天秤のなにが『おどろおどろしいのか』というと───、真ん中の支柱は苦悶の表情を浮かべている悪魔のように見え、なんとも長い両腕を左右にピンと伸ばし、その腕からは細い鎖が垂れていて、小さな皿を吊っている。そして支柱の下には、円形の板。その
つまり苦悶する人々の顔の上に立つ悪魔、そしてその悪魔も苦悶している───というような吊り天秤である。これで、おどろおどろしさが伝わっただろうか。
そんな、おどろおどろしい吊り天秤がどうして僕と
中学校をあとにした僕と
「ねぇ、
「さぁ、どうだろうね」
二人して吊り天秤を眺めながら、事の真偽を探る僕たち。どういうことかというと、お爺さんは吊り天秤を渡してきた際、
「これは『神さまの天秤』と言ってな、様々なモノの尊さや価値を知ることができるんじゃ」
と言っていた。その上、
「また、思いの強さを知ることもできる。皿には、実体のないモノでも乗せられるからのぅ。皿の前に両手をかざして『乗せたいモノ』を言葉にすれば、それでイイ。だから、どんなモノでも乗せられるぞ」
とも言っていた。実体のないモノを乗せるなんて、そんなことが本当にできるのだろうか。
「ちょっと試してみようよ。ホントになんでも乗せられるなら、これはスゴいモノだよ」
「う、うん・・・」
なんだか積極的な
「ワタシの、
「え? なに言ってるの?」
「だって、いつもケンカになるから、この際ハッキリさせようよ」
僕と
しかし困った。実のところ僕は最近、
もしも本当に、この吊り天秤が様々なモノの尊さや価値を測れるのなら───、いや、思いの強さを測れるのなら、『
「それは止めとこうよ。そういうのは、ハッキリとさせるようなモノじゃ───」
「
「あ・・・」
遅かった、
しかし、それは杞憂に終わる。吊り天秤は全く動かない。悪魔の両腕はピタリと止まったままだ。
「あれ? やっぱり偽物なのかな?」
不思議そうに吊り天秤を見つめている
「・・・え?」
その結果は意外なモノだった。しかしもっと意外だったのは、『悪魔の右腕の下がり方』だ。これ以上ないくらいに下がっていることだ。つまり相対的に、悪魔の左腕はこれ以上ないくらいに上がっている。よって、
「え? え? ウソ・・・、なんで?」
大いに戸惑っている
「こ、これ・・・、やっぱり偽物だよ!」
必死に言い張る
「偽物っ、偽物ぉ、偽物ぉっ!!」
吊り天秤を指差しながら、叫んだ
「でも、腕は動いたし・・・」
「そ、そうだけど! ・・・あっ! 逆になってるんじゃないの?」
「逆?」
「うん! より思いの強い方が、より尊い方が、上がるようになってるんじゃないかな!」
なるほど・・・。たしかに、お爺さんは『様々なモノの尊さや価値を知ることができる』とか、『思いの強さを知ることもできる』とか、『どんなモノでも乗せられる』とは言っていたが、『より尊いモノを乗せている皿の方が下がる』みたいなことは言っていなかった。
となると、
「ワタシ、確かめてみる!」
そう言うと、
「ほら、やっぱり! こっちの石の方が小さいのに、下がってる! この天秤は、価値がある方が上がるんだよ! だったら、思いの強い方が上がるってことなんだよ!」
たしかに
「これ、重さを量る天秤じゃなくて、尊さや価値を測る天秤だよ? だったら石の大きさは関係ないよね?」
「っ!? でもでも、小さい方が価値があるなんて、可笑しくない?」
「う~ん、どうだろ・・・。もしかしたら石の質が違ったり、この小さい方の石の中に水晶とか、なんか希少なモノが入ってるのかも・・・」
「そんな・・・。だったら!」
「こ、これなら同じ袋だから、釣り合う筈だよね?」
「あ、あれ?」
吊り天秤の左右の皿は釣り合わず、僅かに悪魔の左腕が下がっている。
「分かった! これ、無茶苦茶に動いてるんじゃないかな!」
「こっちの方がキレイだから、下がったんじゃないかな」
皿に乗っているビニール袋は、どちらも汚れている。しかし、その汚れ方には少し差がある。
「じゃ、じゃあ!」
またしても
「な、なんなの! こうなったら、次は───」
「あのさ、
駆け出しそうになっていた
「なにっ? どうしたのっ、
「全く同じモノを言葉に出せばイイんじゃないのかな? それで釣り合わなかったら、これは適当に動いてるんだと思うし」
「・・・・・・・」
その後、
気を取り直して、吊り天秤の正確さを確かめる
「富士山」
なんとも壮大なスケール。しかしまぁ、それは別にイイだろう。そして、もう一方の皿にも富士山を乗せた
「・・・本物じゃないかな?」
「そんな! そんなこと、ないよ! だってワタシは
僕も可笑しいとは思う。
「ワタシは絶対に、
そう言って、
「ワタシの、
気合いを入れて叫んだ
「地球!!」
・・・いや、その勝負はどう考えても負けると思うんだけど。
僕の予想どおり、完敗だった。その後、
「一円玉!!」
やはり完敗だった。
「ど、どうして・・・」
地面に両手を突いて
そんな懸念を
「ワタシの、
吊り天秤の皿に両手をかざし、やはり気合いを込めて叫んだ
「
「え?」
突然のことに声を漏らして体を固めた
「な、なにしてるの・・・?
自分でこんなことを言うのはどうかと思うけれど、僕の家は相当な金持ちである。それなりの規模の多角経営をしているため、かなりの収益を上げている。しかしながら、僕は普通の中学生である。小遣いも一般的な額だし、お年玉や誕生日プレゼントも同様だ。それは、『子供のうちから大金を手にすると
とはいえ、将来的にはウチの資産は全てが僕のモノになる。僕は一人っ子だからだ。どうやら
「
「ねぇ・・・、
「
結果は、やはり『カネへの執着』の完勝。これでハッキリとした。
「・・・
「そ、そんな・・・。イヤッ! イヤだよっ!!」
僕は吊り天秤を片手に、泣き崩れた
神さまの天秤 @JULIA_JULIA
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