第6話 人間の温かみ
日野刑務所の簡易厨房に、早速哲が立つ。
哲は手早く鍋にバターを溶かし、薄切りにした野菜を炒め始めた。
乳白色のホワイトソースを注ぎ、香草を加える。鍋の中に広がる香りは、どこか幻想的だった。
一方で、ハンバーグ用の肉をこねる哲の手は、熟練の動きそのものだった。
肉にふわふわとした軽さを持たせるため、パン粉とミルクを慎重に加え、形を整える。鉄板でジュワジュワと焼き上がるハンバーグは、ペガサスの翼を模した飾りと共に皿に盛り付けられた。
まずは『ペガサス』のハンバーグ。
哲は、ペガサスを象徴する翼を、新春の初雪の如き輝きを放つ大根おろしで表現し、
続く『ユニコーン』のシチュー。
ユニコーンを象徴する一角はに焼きもろこしを丸々、シチューに添えた。
まさに一角獣の角、そして「コーン」という語呂感に当てがえた回答がこれだった。ダブルミーミング。
死刑囚松永は、最初はもちろん疑心暗鬼だったが、
一口、口に運べば、涙腺の崩壊しいくら拭っても涙が溢るる。
それは、松永が感じたことのない、人間の温かみだった。
「……うめぇな。でも……俺には贅沢すぎる味だ」
松永は、刑を受け入れた。
後日、弁護士小泉は、松永に面会を申し出た。
「なぜだ! 君は死ぬ必要などないのだ! ペガサス? ユニコーン? 食えるわけないだろう!!
君は騙されているんだ!」
「……そうは言うがね弁護士さん。
あれが……本物だろうがそうじゃなかろうが……俺みたいな罪人があんな食い物に是非をつけるなんてことがあったら、
それこそバチが当たるってもんだよ。
美味かった……。ただ、それだけだ」
小泉は、面会室のガラスを拳で叩き、悔しさをあらわにした。
「まだ負けたわけじゃないぞ……次こそ、次こそ奴らに諦めさせてやる……!!」
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