第40話

周りに騒ぎ立てられないように静かに呟くヨシキから、若葉は微かに視線をはずす。



「聞きたいことが…」



この人は危険だ。


若葉の本能がそう訴えてきた。だからヨシキの言葉も終わらないうちに、手にしていたコンビニ袋を投げつけて体を翻した。


「待て!」と店内の静寂を切り裂くようなヨシキの声が聞こえる。

若葉は驚く従業員達の視線をかいくぐって受付けを抜けると、非常階段から外に出た。



一段飛ばしで駆け下りる。

背後からは更に大股で駆け下りてくる足音が聞こえる。


地上に降り立つと若葉はあえて人ごみの中に飛び込んだ。

こうすれば相手は若葉の事を見失う可能性がある。

しかし肩越しに振り返ってみると、鬼気迫るヨシキの姿が遠くに見える。

その目はハッキリと若葉を捉えている。


若葉はごくりと唾を飲んだ。


ヨシキは視線だけで人を殺せそうだ。

そんな人間に捕まったら自分がどうなってしまうのか…想像できる。


きっといたぶられて、なぶられて、殺されそうになるだろう。


若葉はあらん限りの力を振り絞って走りぬいた。

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