第34話

ヨシキは鞄を漁ると財布を取り出した。

免許証は持っていないようだ。しかし保険証には間違いなく『長野 若葉』と書いてあった。


「本名かよ」と失笑しながら引き続き鞄を漁っていたヨシキの視界の端に、床に落ちていた小さなメモが飛び込んできた。


慎重な手つきでそれを拾い上げて開く。


そこには最寄の駅名と南口とだけ書いてあった。



「…ヨシキさん?」



メモを凝視したまま止まったヨシキに、タカオが外から控えめに声をかける。


ヨシキは弾かれたように再び個室の中をくまなく捜索した。

そしてソファーと壁の間に背中が引き裂かれたティラノザウルスのキーホルダーを発見した。


こいつだ。とヨシキはキーホルダーを目線の位置まで掲げると、その鼻先を指で弾いた。

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