第29話

あの女と獲物が向こうで落ち合う確立を考えようにも、またしても過酷な展開に頭が「諦めろ」と言ってくる。


ヨシキは数歩下がって壁に背を預けた。


夢のあとの店内を見るのは気が引けた。さっきまで妖艶なオーラを放って踊っていた女が、水商売女のように客に酒を注いでいるからだ。


行くか、行かないか。もういっそのこと、今日はここで終わりにしてしまおうか。


考えるのも億劫になって放棄しようかと思っていたとき、飽きることなく傍にいた従業員が一人の女を呼んだ。


女は玉虫色に輝くTバックの下着を着ている。化粧は暗闇に映えるようにかなり濃い目にしていた。

さながら都会に現れた魔術師のような雰囲気をまとった女は、従業員に対して「なーにー」と間延びした返事をした。



「ほら、若葉ちゃん。たまに一緒に帰るでしょ?あの子、家って相模だよね?」


「ああ。若葉さんね。相模だけどほとんど近くのマンキツにいってるよ」


「え?」


「帰るの面倒なんだって。でも居残りもしたくないんだって。働く気ないんじゃない?」


「どこのマンキツに行ってるか知ってるか?」



ヨシキの問いかけに女は近くの漫画喫茶の店の名前を答えた。

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